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1.敗北


『なあ戦友、俺たち生きて帰れると思うか?』


「撤退命令が出たら帰ることは出来るだろ」


『じゃあ、撤退したら故郷がヤツ等に襲われてもか?」


「それを言われたら逃げ出せないな」


 最近完成された人型兵器に乗りながら兵士たちは通信で話し合う。


 とある実験により開かれた異界の扉。残念ながら実験に参加した研究員の思惑とは大きく異なり友好的な相手に出会うことは無かった。そもそもなぜそのような研究が危険と認識されていなかったのかすら疑問である。


 出てきたのは人とは程遠い形をした異形の生命体。研究所の人員を皆殺しにして、最悪なことに研究の産物である異界の扉を確保されて侵略されてしまった。


 最初は何とか既存の兵器で対応するが数が多い。空爆で薙ぎ払おうとも数で補われるため効率的に撃破していくにはもっと前線に出る必要があった。


 そして世界各国が協力、裏取引を経て完成させたのが彼らが乗る人型兵器『アクティブ』が配備されることとなった。


 訓練を経た兵士たちは多く配備されたこれに乗り込み、初実戦で未だに名前が付けられていない異形の命体を倒すことを命じられたのだ。


『敵生命体、数ハ不明。生還率、低』


「うるさいAIだな。んなこと誰もわかってるってのに」


『戦闘補助に使わされたガラクタだ』


『真に受けるとしわが寄るぜ』


 異形の生命体の巣に近づいている兵士たちは戦闘補助に使わされたAIも、得た情報を素直に言うのはいいが知能面は大したことは無いため頼りにはされていない。


 最新鋭と言いつつポンコツを渡された気分になる前線の兵士たちは死地へ飛び込むというのに笑うしかない。


 そんな雑談で緊張を無理矢理にほぐしていると、司令部より通信が入る。


『全員に伝達。五分後に行動開始。目標は正体不明の生命体が形成した巣の破壊、生きて帰ることも大事にしろ。何故ならお前たちが乗っている兵器はかなり金がかかっている』


「ブラックジョークどうも。死んでたまるかよ」


『上官ノ悪口、ヨクナイ』


「ミュートにしてるから聞こえていないって」


 一方的に通信を聞きながら愚痴を吐き、そして気合を入れる。


 全ては故郷を守るため。あと賃金と生きて帰る事さえできれば精神的な理由でなんたらで後方に引くことが出来る。


 実際、あの怪奇生物を相手にすることは非常に気が滅入る。


 彼も何度か兵士として異形の生命体と戦い抜いたが、グロデスクな見た目が何度も弾け飛んでいく様を何度も何度も見て気持ち悪くならないはずがない。


 飛び散る血から放たれる臭いも生臭く、嘔吐した回数は数えきれない。


「さっさと終わらせて帰りたいもんだ」


『逃亡ハ、違反デス』


「うるせえな、んなもんとっくに分かってる」


 独り言にわざわざ反応を見せるAIに悪態をつきながら男はいつでも動けるように兵器をスタンバイさせる。


『総員、突撃せよ』


 一つの指令が放たれたことにより、人型兵器に乗った兵士たちは駆けだした。


 駆け出すといっても歩行するのではなく足についたローラーで加速して突撃していったのだが。


 一番槍は、男から見て右へ5番目に位置する兵士だった。


『一番乗りだクソッタレめ、多くの仲間を殺していきやがって!』


 通信越しに聞こえる憎悪を呼び水に、皆が手にしている巨大な機関銃を異形の生命体へ向けて放つ。


 鉄の弾幕は生物を絶命させるには十分な威力を誇っており、その証拠にバッタバッタと前線の生命体は斃れていく。


 今までの戦場に比べたらはるかにマシだ。分厚い装甲に覆われたモノに乗って、傷つくこともほとんどない。


 生身でいつ死ぬか分からない状況よりもはるかにマシだ。


『まずい、まとわりつかれた!助け、うわあ!く、食い破ってくる!』


 だが、それも圧倒的なまでの物量には敵わない。


 何十匹倒そうと、何百匹倒そうと千、万を超える鉄を食い破る異形の生命体に押されて人類は生存圏を狭めているのだから。


「一人やられたか。だが結構いい数倒してるんじゃないか?」


『敵勢力99.9%残存。弾薬、心許ナシ』


「余計なことを言うんじゃねえよ!」


 勢いがあったのは最初だけで徐々に押されつつある戦況を片言で伝えてくるAIを黙らせながら男は無造作に弾幕をばら撒く。


 いくつかの生命体を肉塊に変えるのはいいが、それを盾にして奴らは距離を詰めてくる。


 一人、また一人と食い破られていき銃声が消えていく。


『死んでたまるか!死んでたまるかよぉ!』


『来るな!死ね、お前が死ねよぉ!?』


『味方残存戦力、50%ヲ低下』


「うっせえな!集中させろ!」


 周囲の『アクティブ』が徐々に蹂躙されていく。


 彼は可能な限り粘り、弾幕をはり、近づく敵性反応を蹴散らしていく。


『残弾、残リ100』


「あぁ!?マジかよ!?」


 戦友達は殆ど死に絶え、残弾も1分もあれば無くなる絶望の宣告。AIは隠すことなく事実を伝えてくるのに苛立つが、自身の命のタイムリミットが迫ってくることに焦りを感じる。


 彼は別にヒーローでも何でもない。ただ血がにじむような訓練を積み重ねてきた兵士に過ぎない。


「クソクソクソ!みんな死んでいったんだぞ!俺も、奴らをもっと殺さねえと割に合わねえだろうがよ!」


『敵勢力99.7%残存。残弾、ナシ。撤退ヲ推奨」


「出来たらやってる!やったら奴らを連れ込むから出来ないのはわかるだろ!」


 やっぱりこのポンコツは外すべきじゃなかったのか、彼は苛立ちのまま残弾を全て打ち切った機関銃を鈍器の代わりとして異形の生命体に叩きつける。


 何度も何度も振り回すが、『アクティブ』にも限界がある。


 無理に動かせば機体は徐々に磨耗し、奴らに突き込まれる隙が生まれてしまう。


 『アクティブ』の装甲に異形の生命体が次々と張り付いていく。何とか振り払うが、行動一つ一つに隙が生まれ、それを本能で動く生物が見逃すはずがなく。


 鋭い槍のような、鉄よりも遥かに強固な肉塊が彼が操縦する『アクティブ』の胴体に突き刺さる。


「がっ、ふ…………!」


『肉体、損傷、脱出!脱出!脱出!』


 運がいいのか悪いのか、肉の槍が突き刺さったのは操縦席の中心からわずかに逸れていた。


 逸れていても、操縦者の胴体の半分を抉っていた。


「ちく、しょう…………せめて…………!」


 彼が手を伸ばすのは自爆のレバー。最終手段として『アクティブ』全機についているが、それを使った者は居ない。


 何故ならそれまでに死んでしまうからである。


『脈拍低下、危険、危険、生命活動低下』


「う…………っせ………え…」


 彼もその例に漏れなかった。


 力なく、ぼやける視界に届かないレバー。


 もはや手を伸ばす力も無くなった彼は薄れゆく意識の中で、彼は怒りと無念を覚えていた。


 それに気づくのは低知能のAIしかいない。


『生命活動一時停止、活動再開の治療を、アンプル投与開始』


 例え無意味だとしても半壊した機内でAIは抗った。


 それがどれほどの敵性反応のど真ん中としても。


 無数の異形に囲まれ、叩かれ、壊されても機能停止までAIは抗った。


 …………そして。






















































「…………んぁ?」


 そして目を覚ます。


 よく寝た気がする。しかし、どこか居心地が悪いとしか言えない置き方だた。


「…………ん?んん?」


 そして暗い場所で彼は見渡す。先ほどまで何をしていたか思い出す。


 蠢く肉塊の中、まるで取り込まれたような、気色悪く、そして見覚えある色。


「まじ、かよ…………取り込まれた!?」


『はい、取り込まれました』


「うおあああっ!?」


 肉壺の中、彼は目覚める。


 何故か機能停止から回復したAIと共に。


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