婚約破棄?それはちょうど良かった
「マルセリーヌ、お前との婚約は今この瞬間を持って破棄させてもらう」
国王の唯一の子供であるところのアラン王子が宣言した。王后主催のお茶会に向かう廊下でのことだった。
「あら、まあ。それは大変早速国王陛下にご報告しなくてはいけませんわね」
深刻さを微塵も感じさせない口調で応じるマルセリーヌ。傍らの侍女に国王を呼ぶように命じる。
「詳しいお話はお茶会の席で」
動揺する素振りを見せないマルセリーヌにいらだちを覚え文句を言おうとするアランを無視するかのように先を歩む。
「お招きありがとうございます。エリザベート様」
王后でありアラン王子の母親である女性に挨拶するマルセリーヌにアランは違和感を覚える。
彼女は母を私的場面では「お義母様」公には「王后陛下」と呼んでいたのではなかったか・・・・
「あら、貴男も一緒だったの?アラン」
アランが応じる前にマルセリーヌが口を挟む
「陛下もまもなくいらっしゃいますわ」
程なくして国王が現れる。
「アラン、お前マルセリーヌに婚約破棄を申し出たそうだな」
開口一番国王がアランに問う
「あら、まあ」
エリザベートが目を丸くする。
「その通りです。私は「そうかそうか、それはちょうどよかった!」
説明しようとするアランの言葉を遮り上機嫌に答える国王
「実はな、マルセのお腹にはわしの子供がおってな、お前との婚約を破棄してわしと結婚することになっておったのだが、お前にどう説明したものかと悩んでおったのじゃ」
マルセリーヌの呼び方が愛称に変わっていた。マルセリーヌの方も国王に寄り添い、愛おしそうに見つめている。
「な!?」唖然とするアラン「母上はそれでよろしいのですか?」
その質問に対するエリザベートの答えにアランはさらに仰天することになる。
「お母さんはね、辺境伯様と再婚することにしたの」
「一体どういうことですか!?」
「わしとエリザベートはもともと政略結婚だった。王族であるお前ならそのあたりはわかるな?」
頷くアラン
「だが、エリザベートと辺境伯とは恋仲であった。しかし互いに立場をわきまえていたから叶わぬ恋として諦めていたのだが、辺境伯婦人が亡くなり、わしはマルセに恋をした。亡くなった婦人には申し訳ないが、ちょうど良いタイミングだったのだ。そういう理由で円満に別れることになったのだ」
「焼けぼっくいに火がついちゃったの」おほほほ
「母上は良いとして、父上は息子の婚約者に手を出したというわけですか」
「なんだ、婚約破棄を言い出しておいてやっぱり惜しくなったのか?そりゃあマルセは素晴らしい女性だから気持ちはわからんでもないが」
「そういう意味じゃありません!自分の子供でもおかしくないような歳だということですよ」
そういうアランに対し反論したのはマルセリーヌだった
「陛下は悪くありませんわ。私の方から陛下に迫ったのですもの」
「お前、俺を裏切ったのか」
自分のことを棚に上げるアランだったが気にした様子もなく続けるマルセリーヌ
「私はもともと陛下のことをお慕いしておりましたの。アラン殿下との縁談に応じたのも少しでも陛下に近づきたかったからですわ」
「母上、こんなこと言ってますが何とも思わなかったのですか」
「思ったわよ。マルセちゃんみたいな素敵な娘にあんなにアプローチされたら誰だって絆されちゃうわよね。私も見習って辺境伯様に迫っちゃおうって♡」
そう言って赤面する母親に何も言えなくなるアラン王子
「それでお前の相手は誰なのだ?」
アランに問う国王
「は?」
「は?じゃない。意中の相手がいるからわざわざ婚約破棄とか言い出したのだろう?」
「え、えって、まあそうなのですが・・・・ 相手は男爵令嬢のオーレリーです」しどろもどろに答えるアラン
「なんと、ファブリ男爵令息の妹のオーレリーか?」
問い返す国王「ぼそり」
「その通りですが・・・・なにか言いました?」
「それは実にちょうど良い。実はな、ファブリくんは隣国の第一王女と恋仲でな、彼女は王位継承が内定しているから、ファブリくんを婿入りさせろことになったのだ。つまり彼は次期王配になったわけだ。そこで問題なのが男爵家の跡取りなのだが、必然的にオーレリー嬢が婿を取ることになるのだが、彼らの家は男爵家の中でも末席な上に財務状況も没落とまでは言わぬがあまり芳しくない。よって婿のなり手が居なくて困っていたのだ。お前の相手がオーレリー嬢なら全て解決だ」
「ですが、俺は世継ぎとして王位を継承する立場のはずですが」
当然のことのように問う
「それならマルセの子供に継がせる。政略結婚の相手の子供より最愛の女の子共が後継者のほうに継がせるほうが良いに決まっているではないか。実にちょうど良い」
「母上、こんな事を言っていますが宜しいのですか!?」
旗色の悪さに話を母親に振る。しかしエリザベートはこともなげに答える
「私も王籍を離れる身だから、孫が王族より男爵家に居たほうが気軽に会えるから、ちょうど良いわ」
「普通なら王位継承権第1位だった(すでに王の中では過去形になっている)お前を男爵家に降婿させるのは問題なのだが、丁度良いことにお前は婚約破棄騒動を犯してくれたから、廃嫡で問題解決だ」
ご機嫌な王
「しかも実のところ隣国は財政難でな、我が国としても色々と支援せざるを得ないのだ。お前に関する予算カットできるから、その意味でもちょうど良かった。男爵領の運営色々と大変だろうが、まあ頑張ってくれ」
すがるように視線を向けた先の母親が、追い打ちをかける
「孫のお小遣いくらいは不自由させないから任せておいてね」




