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8/11

違い

 結局私は3の亀山くんと共に登校することにした。


 これでは3の亀山くんがいつもと違う行動を取った瞬間を観察できない。

 世界線を超える鍵がそこにあるはずなのだ。


 とりあえず今の時点でいつもと違う行動を取っているけど……。

 私に話しかけることが世界線を超える方法とは思えない。

 

「羽森さん。いつもここ通るの?」


「えっと、うん、通る」

 

 一年間毎日欠かさずストーキングしていたため、毎日ここを通る。

 嘘は言ってない。

 ちなみに私の家から学校までの道のりを考えると遠回りも遠回り。


「そっか、俺はいつも時間ぎりぎりだから、俺よりも先に通るんだろうね」

 

 亀山くんの後を尾けています。

 そのせいで私の登校時間も毎回ぎりぎりです。


 私のことを彼女認定してくれたら、昭和か平成の幼馴染キャラみたいに毎朝起こしに行ってあげるのに。


 毎日家の前まで来ているのだから、まったく苦ではない。

 むしろご褒美だと思う。

 ……私って結構ヤバい奴かな。


 でも彼はもう私の好きな亀山くんではないので、起こしに行くことはないと思う。


「昨日のことは誰にも言わないから、安心して」


「それはお願いします」


 あいつ、教室でぴーぴー泣いていやがったんだぜ。

 なんて言われたらたまったものではない。


 仮にも亀山くんに近しい存在なので、言いふらすような真似はしないと信用している。


「亀山くんは聞かないの? なんで私が泣いてたのか」


「泣きたいから泣くで良いと思う」


「……」

 

 亀山くんもそういう人だった。

 私は、自分の感情が社会に認められないものなら、否定しないといけないと思っていた。


 あのキスのとき、その考えから解放してくれたのだ。

 そういう部分を私は好きになった。


「……だから女の子を慰められないんじゃないの?」


「それはそうかも、ごめん」


「いいよ全然」


 本当はやめて欲しかった。


 彼は本当に亀山くんと似ている。

 似ている部分を出さないで欲しい。


 彼と会話を交わす度に、私は亀山くんに会いたくなっている。


 抱き着きたい気持ちが、沸き上がっている。


 やっと叶うはずだった恋。

 それがお預け状態になって、私は不満を持っている。


 一年間頑張って耐えてきたのに、ドタキャンされて、待ってるとか言われて。

 昨日の夜は存在が確認できて嬉しかったけど、今ではふざけんなと思っている。

 

 一年待った楽しみを奪うってどういうことなの?

 ありえなくない?


 でも亀山くんに何か事情があって、あの『待ってる』が私に対する最大限出来ることだったのなら。

 私は動かなければならない。


 考えてみれば世界の崩壊より私の意見を優先する馬鹿野郎が、私への連絡を欠かすってのはおかしな話だ。

 ドタキャンするのはもっとおかしい。

 だから、あの四文字が亀山くんに出来たすべてなのだ。

 そう信じるしかない。


 私は隣を歩く3の亀山くんを見る。

 亀山くんともう二度と会えないと思っていたときは、彼のことを視界に入れることすら嫌だった。

 でも今は違う。

 彼こそが亀山くんと会う手がかりなのだ。

 だから私は彼を観察して、話して、ヒントを得なくてはならない。

 

 彼はいつから変わったのだろう。


「亀山くん、昨日の朝と昼、何食べたか覚えてる?」


 いきなりそんなことを聞かれて、彼は一瞬戸惑ったが、素直に答えてくれた。


「朝はトーストに目玉焼き、ソーセージ。昼は、えっと、学食の回鍋肉定食だったかな」

 

「そうなんだ」


 私の観察結果と一緒だ。

 昨日は確かにそのメニューだった。朝の目玉焼きとソーセージはいつもと同じメニュー。

 昼は学校側が契約している弁当を注文するので、毎日違う。


 小説を渡したことは覚えていない。

 小説を渡したのは夏服に変わってすぐのこと。もう一週間以上も前になる。

 亀山くんは一週間以上も前に変化していたとしたなら、それを私は気づかずにストーキングしていたことになる。


 ああっ!

 なんて愚かなの私。

 ストーキングしているにもかかわらず、その対象の変化に気づかないなんて。


 ストーカーとして積み上げてきた私の実績が崩れ去っていく。

 さようなら、私の一年のキャリア。


 そうなると、新たな疑問が沸き上がってくる。


 あの日、消えた亀山くんは何処から来たのか?


 昨日、私は亀山くんがこつ然と消えたのを見ている。

 あの亀山くんが私の会いたい亀山くんで間違いない。


 ちょっと待って。

 亀山くん亀山くんとなんだかわかりづらい。

 

 私の会いたい亀山くんを、これから裕樹と下の名前で呼ぶことにする。付き合ってないけど。下の名前で呼ぶ。

 

 私の知らない亀山くんは、距離があるのでこれから亀山さんとする。

 

 よし考察の続きだ。

 私の愛しい恋人、裕樹はこつ然と消えたあの日、あの瞬間だけやってきたのだ。


 つまりあの瞬間、学校には裕樹と亀山さん。

 亀山と呼ばれる人物が二人同時に存在していたのではないかと思う。


 昨日、私は帰り際亀山さんを尾行していた。

 でも学校内での尾行は結構難しい。

 他の人に見られる可能性が高いし、スマホ触ってるだけですよ、待ち合わせですよと周囲に誤魔化しながら尾行しなくてはならない。


 そうなると亀山さんを常に見張っているわけにはいかない。

 だから同じ姿の人物が入れ替わったとしても、気づくことはない。


 そういうカラクリだったのではないかと思う。


 整理しよう。

 私が小説を渡したのは一週間以上前。その時は裕樹だった。

 昨日に至るまでの何処かで亀山さんへすり替わった。

 昨日の放課後の一瞬だけ、裕樹はやってきた。


 思い出せ。私。

 裕樹は6限目が体育の曜日に、あのキス部屋に行った。

 肌着を着ていなかったことからも、明らかだ。

 

 昨日は6限目が体育の曜日。

 でもその時点で既に裕樹は亀山さんにすり替わっている。


 ぴろろろろ~ん!

 

 名探偵、羽森桃花。この時、私の脳内に電流走るッ!

 

 裕樹は先週から、一週間後の昨日にタイムスリップしてきたのだ。


 裕樹目線で考えると、小説を受け取って数日後に一週間後の未来に跳んだ。

 そして教室に来て、私に目撃され、一年前のあの部屋に跳んだ。


 よし、よし。いいぞ。

 裕樹の動きがわかってきた。


 すると亀山さんの正体もわかってくる。

 亀山さんは裕樹が跳んだ一週間の穴埋めで生まれた存在なのだ。


 ……ん?

 いややっぱり正体なんてわからない。

 穴埋めで生まれた存在って何? こわ……。


「亀山くんって、もしかしてアンドロイドだったりする?」


「ドウヤラ、ショウタイガ、バレテシマッタヨウデスネ」


「え、うそお!?」


「嘘だよ。なんだよアンドロイドって」


「あはは、だよね」


 亀山さんって結構ノリ良い方なんだ。

 知らなかった。


 私、裕樹のことどれだけ知ってるんだろう。


 亀山さんと少し話しただけで知らない顔が出てくる。


 私はこの一年間、裕樹をストーキングしていたから映画館で何を見たのか、交友関係、行ったレジャー施設を全部知っている。


 でも裕樹が映画を見てどう感じたのか、友達をどう思ってるとか、水族館の生物を見て何を思ったのか。

 私は何も知らない。

 肝心なことは何も知らないのだ。


 スマホのブックマークに清楚系お姉さんモノとか、イチャラブ文学少女モノとか、幼馴染同級生モノとかが登録されているのは知っているのに。


 スマホのロック解除PINに誕生日を使うことは知っているのに。

 肝心なことは何も知らないのだ。


 やっぱり会いたい。

 いろんなことを話したい。


 

 〇


 

 

 登校後。

 授業中、休み時間など亀山さんを慣れた手つきで一日観察してみると、彼は一人の人間だということがわかった。

 

 言ってしまえば普通なのだけど、朝はアンドロイドなのでは? と疑っていたので小さくも必要な理解だったと思う。

 

 性格もあって人格もある。交友関係だってある。命だってある。


 プロフィールに起こすと裕樹と何も変わらない。

 誕生日も、好きな食べ物も、交友関係も、得意科目、絵を描く特技。

 裕樹ととても似ている。

 笑い方やペンを回す癖。歩き方。右より左をよく見る癖。あくびの嚙み殺し方。字の形やノートの取り方まで一緒だ。


 違いは私の小説を読んでいなくて、キスをしていないこと。


 小説を渡したことは、亀山さんどころかその近くにいた彼の友達も覚えていなかった。


 何かしらの作用が働いて小説を渡した事実が無くなっていた。

 

 亀山さんが時空間を飛び回るエージェントかどうかは、一日では確認できなかった。

 でも多分、ここまで似ているのだからエージェントだと思うけど、後で確認しようと思う。

 

 裕樹と亀山さんは似ている別人と考えた方がすっきりする。

 でも、似すぎていた。双子でもここまでは似ない。

 

 ふと思う。

 亀山さんで済ませてしまえば良いんじゃない?

 亀山さんを恋人にしてしまえば良いんじゃない?


 亀山さんは裕樹と似ている部分が多い。

 同じ部分が多いと言うのが適切だ。

 もちろん、亀山さんは外見同じだけど中身が同じとは限らない。


 もし、中身がまったく同じだったとしたら。

 それってどうなるの?

 亀山さんを知ることは裕樹を知ることとは何が違う?


 同じ顔、同じ姿、同じ声、同じ人格や性格、同じ過去。

 そんな彼から知りえた情報も、きっと同じ。

 

 一体何が違うんだろう。

 そのコミュニケーションは裕樹と同じでないと、断言できるの?


 いやいやいや、別人なんでしょ?

 

 そうだ、亀山さんと裕樹は別人だ。

 

 コミュニケーションとは、裕樹が私に何かを伝えたとして、それをお互いに知っていることが重要なのだ。

 亀山さんが私に何か言ったとしても、裕樹はそれを知らないし関係ない。

 

 裕樹の知らないうちに裕樹の情報を得る。

 それはストーキングとあまり変わらない。コミュニケーションじゃない。


 

 いろいろ考えたけど、やっぱり決定的なのはファーストキスだ。


 裕樹は取り返しのつかないキスをした相手だから、大事なんだと思う。


 亀山さんとキスしたって、きっとこんな気持ちにはならない。

 

 ……そうだよね?





 その日の放課後、私は久しぶりに文芸部の部室に来ていた。

 右には長年使ってくすんだホワイトボード、中央には長テーブル、奥には埃の被った先輩達の小説が本棚に収納されている。

 

 下の段には資料が置いてある。

 脚本術、小説の書き方、辞書、類語辞典、他にも歴史やらSFやらに使える設定資料がある。


 現在五人しか在籍しておらず、今も部室には二人しか来ていない。私と早川明美だ。


 明美は私が部室の扉を開けると「お~」とけだるげに挨拶をした。


「桃っち~放課後にくるの珍しいじゃーん、もう愛しの亀山っちをストしなくていいの?」


 明美はちらりと私を認めてから、気だるげに目線を落として推理小説のページをめくる。

 

「いや、ストーキングはまだ続きそう」


「普通に話しかければよくな~い? 一年もストってんの異常だよ~?」


「私も正直、やめたいと思ってる。今は好きでやってるわけじゃない」


「絶対うそでしょ、好きでやってたんでしょ」


「……前は好きでやってたけど、今は巨大なものに強制されて仕方なくやってるの」


「義務ストーキングとか知らないんだけど、いつから日本はストーキングを強制する国になったのよ~?」


 話しながら私は奥へ進む。

 目的は本棚の一番下。SF関連の設定資料だ。


 私は妙に分厚い本を取り出して、長テーブルに広げた。


「あれ、桃っち歴史と恋愛系じゃなかったっけ。SFなんて興味あったの?」


「お願い、相談があるの」


 私は長テーブルの向かいから身を乗り出して、半ば強引に明美の手を取った。

 明美の持っていた小説が地面に落ちる。

 

「い、良いけど……」


 彼女は少し引き気味に了承した。


「世界線を超える方法ってわかる?」


「遂に桃っちもSFデビュー!?」


 私の質問に、今度は食い気味に答えた。

 自分の好きなジャンルを身近な人が書いてくれるのは嬉しいものだ。

 ちょっと好みが激しくなったり、厳しい目線になったりするけど。


「うん、そう。SF書いちゃう。世界線の彼方に跳んでしまった彼に会いたい、って恋愛設定なの」


「ほーう、それは考えたね~?」


 明美は腕を組んで頷く。

 考えたというか、現実に起こっていることなんですけどね。


「現代の恋愛は、家の概念も薄くなったし、距離の問題が解決されたから、二人を分かつものは基本的に死しかない。だから桃っちは歴史で恋愛をやってるものだと思ってたけど、SFになると世界線で二人を分かつことができるのか……」


「う、うん。そうなの」


 ここの部員は自分の好きな分野になるとすぐ早口になる。


 勝手に考察してるけど、そんなこと考えたことはなかったな。

 現代モノも死の他に恋の障害になるものあるでしょ。

 恋のライバルとか、メンヘラとか、姑とか。


「時間の概念を説明するときによく使われるのが、現在主義と永遠主義って概念だよ。もう今は相対性理論のせいで、永遠主義がだいぶ主流になっちゃってるから、それだけ説明するね」


「はい、よろしくお願います」

 

 私は居ずまいを正した。

 裕樹と会うために必要な情報だからだ。


 明美はパラパラと資料のページをめくる。

 この資料を読み込んでいるから、何処に何が書かれているのか覚えているのだ。すごい。

 と思ったけど、私も歴史の資料はそんな感じだった。


「これが時間の概念を視覚的にわかりやすくした図かな」


「何これ」


 円錐がてっぺんで上下にくっつけ合っている妙な絵だった。

 砂時計に近い形だ。

 中央のくびれ。小さな砂の通り道に、薄い板が挟まっている。


「砂時計みたいだね」


 私は思った感想をそのまま言う。


「おお、確かにそうかも。このくびれてるところが現在ね。上が未来。上に行くほど未来ね。下はその逆で過去」


 明美は円錐の外側を指でなぞっていく。


「時間が経つにつれて、徐々に未来の可能性が広がっていく」


「この角度が可能性の幅ってことね?」


「そそ。桃っちタイムスリップものを書いてたから理解早いね」


 自身の選択で未来は分岐していくというアレだ。

 よくタイムリープものでも主人公の選択で、展開が変わったりする。

 

 人間本位な考えだなと思う。

 虫とか、小動物が違う選択をしたらまた分岐するんじゃないかな。

 でもそこまで考えても仕方ない。あまり関係ないし。


「過去にも可能性が広がっていくの?」


「そりゃそうでしょ。そっちは桃っちの方が詳しいんじゃないの」


「確かに」


 歴史というのは度々変わる。

 昔は1192年(良い国)作ろう鎌倉幕府だったけど、今は1185年(良い箱)作ろう鎌倉幕府になっている。

 歴史は確定した過去ではない。

 遡っていけば行くほど曖昧になっていく。そこは未来と同じかもしれない。


「世界線を超えるってのが、どういうことなのか」


 明美は砂時計のような円錐図の上部に、くびれの一点からすっと上に二本線を引いた。

 

「この線から、線へ飛ぶ。これが世界線を超えるってこと。かなり大雑把に話したけど、基本はそんな感じかな。詳しいことはこの資料に書いてあるから」


「それで、世界線を超える方法をってあるの?」


「そこは創作者の腕の見せ所よ」


 やはり世界線を超える方法というのは創作の世界の話で、現実に可能性のある話ではないらしい。


「やっぱりだめか……」


「そんなに落ち込まないでよ」


 こちらから会いに行く手段がないとなると、本当に待っているだけになる。


 また待つなんて耐えられるわけがない。今度は何年待てば良いのかわからないのだ。


「いや、まだ頼りになる人が居るよ」


 明美が希望の情報をもたらした。


「それって誰?」


「亀山っちのお父さんだよ」

 


感想、高評価よろしくお願いします!!!!!

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