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ファーストキス

 紆余曲折あったが、私は結局キスすることに決めた。

 

 しかしお互いに、いきなりキスするというのも何か違う。


 私は亀山くんの頬と胸に当てている手を離した。

 今では亀山くんが襲ってくるなんて微塵も考えていない。


 彼は私を最大限(おもんばか)ってくれている。

 緊張で上がっていて、余裕がないのに。


「出来れば羽森さんにとって、良い思い出になるよう努力する」


 こんなことを言い始めるのだ。

 自分のこともちょっとは考えたらどうなのだろう。


 でも良いキスにするってどうすればいいんだろう。

 雰囲気作りが必要と聞いたことがある。


「ま、まずはハグとか……?」


「わかった。羽森さんを抱きしめさせて欲しい」


「は、はいっ……!」


 声が上擦った。


 私達は立ち上がり、お互いに向き直る。

 相手に配慮するようゆっくりと近づく。

 お互いに緊張しすぎていて心臓が限界にきているので、なるべく驚かせないように。


 ハグが目の前にやってきて、私の中で疑問が生じた。

 腕って下の方が良いの?

 上の方が良いの?


「ええっと、羽森さん。腕って上の方が良いのかな?」


 亀山くんも同じこと考えてる……。


「私の方がちょっと小さいから、私の腕を下にするのが自然かな?」


「わかった」


 腕を通してみる。

 あまり私達二人にはあまり身長差がないせいか亀山くんが私の肩に体重を乗せて、のしかかるような形になってしまった。


「ちょっとキツいよね? 片方の腕を下に回すね」


「うん」


 亀山くんは私の右脇の下に腕を回す。

 私もそれに合わせて亀山くんの体を引き寄せる。


 私は自然と少し背伸びして、亀山くんの肩に顎を乗せる。

 キュッと腕の力を強くした。

 すると亀山くんも腕の力を強くして、引き寄せる。

 胸にふんわりとした圧迫感がある。

 夏服だからなのか、亀山くんの心音が聞こえてきた。


 あれ、今日の私、前ホックのブラじゃなかったよね。

 前ホックだったら外れるとか、ないよね?

 

 亀山くんの体は全体的にゴツゴツしている。けど、所々で柔らかい。

 

 ふと、お母さんのことを思い出した。

 今、思い出すなんて思わなかった。

 多分、お父さんとお母さんが抱きしめていたのを見ていたからだ。


 私は亀山くんの耳元で囁いた。


「ねえ。こんなときにする話じゃないかもだけど、私の話を聞いて」


 亀山くんはこくりと頷いて、私の肩に顎が当たった。


「私……私の家族が嫌いなの」


 私は誰にも話したことのない話をしようとしている。

 でも亀山くんなら聞いてくれる。

 私のために世界も投げ出すような馬鹿だし。

 

 どんなことを言っても私を尊重してくれるだろうという信頼があった。

 それをいつもやられたら気持ち悪いけど。

 今だけは。きっと特別だ。

 漫画や小説でしか見たことのなかった二人の雰囲気というのを、私は感じている。


「私のお父さんね。弱い人だったの」


 お母さんは社会的に弱い人を助けなくちゃ生きていけないような人だった。

 私が成長して、手間が掛からなくなって少し経って。

 ある日、猫を拾うようにお父さんを拾ってきた。


 家に、居座るようになったお父さん。

 別に暴力を振るわれたわけではない。

 暴力を振るってくれた方がマシだったかもしれない。嫌う理由ができるから。

 でもただただ、弱い人だったのだ。


 私とお母さんでずっと暮らしていた家は、私にとって随分と居心地の悪いものになってしまった。

 だから私は放課後、教室に長く残っている。

 部活でも始めればよかったと思う。

 でも今更入る勇気はない。


 私はお父さんを嫌っていた。

 でも弱い人を嫌うのはよくないことだとも思っていた。


 ある日の昼休み。

 クラスの友達と見た動画で、思春期の女子が父親を嫌うのは遺伝子の近い人との子供を作らないためだという説明がされていた。

 

 友達は「だから嫌なんだ」と家庭内で嫌う理由が科学的に説明されて、嬉しがっていた。

 

 私は嬉しくなかった。

 血が繋がっていないお父さんを嫌って良い理由にならなかったからだ。


 全部話し終えて、亀山くんはゆっくりと囁いた。


「羽森さんは、人を嫌うのに理由が必要なんだね」


「うん。変かな?」


「いいや、まったく変じゃない。もっと変でも良いぐらいだ」


「フフッ……。何それ」


 私は小説を書くとき、何故それが好きなのかを考えることが多い。

 何故戦国武将が好きなんだろう、とかね。

 それが影響して、嫌いにも理由をつけたくなるのかな。

 

 それとも嫌う罪悪感を打ち消すために理由付けしているのか。

 理由付けして、社会から『私の嫌い』を認めてくれたら安心する。

 でも、それってどうなんだろう。


「俺、豆腐が嫌いなんだよね」


「え、どうして?」


 豆腐が嫌いになる理由がわからない。味が特殊ってわけでもない。


「わからない。嫌いだから、嫌い」


 変な理由だ。

 でも、それでいいのかもしれない。

 

「俺は羽森さんのことが好きだよ」


「どうして?」


「好きだから、好き……強いて言えば、かわいい。とか?」


「ふ~ん」


 こんな考えでも良いんだ。

 それでもいいやと思ってしまう。


 腕を緩めて、亀山くんの顔を正面から見る。

 亀山くんの顔はまだ緊張しているけど、ハグしたことで少しリラックスもしている。


「じゃあ……亀山くん。世界の崩壊を止めるために、キス、しちゃおっか?」


 キスをすると決めたのだって、緊急事態だからではない。

 私がキスしたいなと思ったからだ。

 

 亀山くんのことは好きかどうか、正直よくわからない。


 亀山くんに好意はあるし、今ではときめいてもいる。

 でもそれが好きということになるのか。

 私は測りかねていた。


 きっと私の因果が壊れちゃったんだと思う。

 原因と結果。

 私は私の感情の原因を突き止めなくたって、良いんだ。


 亀山くんは顔を近づけながら目を閉じた。


 キスをすると決めてから私は落ち着いている。自分でも意外だ。

 これからキスするんだと納得しているし、とても期待している。


 私は近づく彼の顔を手で静止した。


「あ、待って。最初から舌入れるのはナシね」


 まだそこまでは心の準備が出来ていない。

 

「わ、わかった」


 再び亀山くんは目を閉じて、顔を近づける。


 私は再び近づく顔を手で静止した。


「あ、待って。キスしたからって恋人になるとかは、また別だからね」


 まだ好きかわかっていないのだ。

 付き合ってもいいけど、そこはまだ少し考えたい。


「え、ええ……? まぁ、わかった」


 再び亀山くんは目を閉じて、顔を近づける。


「あ、待って。ファーストキスをあげるんだから責任はとってね」


「さっきは恋人になるかは別と言ってなかった?」


「別に決まってるじゃない」


「え、ええ……? わかったよ仕方ないな」


 ちょっと理不尽なことを言ったなと私も思う。

 不満そうに亀山くんは目を閉じて、顔を近づける。


「あ、待って。んんっ!」


 ぐいっと引き寄せられて、口づけてきた。


 わ、私の意見を尊重するって言ったのにいいいぃぃぃっっ!!!

 

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