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使用人サラの細やかな溺愛  作者: 丹空 舞


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4/4

悪魔のような前妻は派手な美人だった。

よく見れば唇はかさつき、厚化粧の下の肌はくすんでいたが、下を見ていたサラには分からなかった。


「あら、カミーユなの。まあ見違えたわ。私もあなたと結婚していた時から、その瞳は素晴らしいと思っていたの。ようやく価値ができたのね、おめでとう。私と結婚することができたっていうことがあなたの最大の功績だと思っていたけれど、そこまで美しくなることができたというのは認めてあげてもいいわね。ああ、もしかして私と離縁したのがそんなに寂しかったの。まあ、可愛いところもあるじゃない」



贅沢の限りを尽くし、愛想を尽かした男たちに捨てられて戻ってきた前妻は、かつての夫カミーユを自分の所有物のように扱おうとした。


そして、その傍らに控えるサラを不快そうに睨みつけた。


「この卑しいメイドは何? さっきから不躾な視線を向けて。カミーユ、この女を打ち据えて屋敷から叩き出しなさい。あなたができないなら、私がやってあげるわ!」




前妻が扇を振り上げた。

鞭打ちにされた過去がよぎる。

罰だろうか、これは。

サラは目をつぶった。



女が思い切りサラの頬を打とうとした、その時だった。





「やめなさい」




雷のように鋭く低く、威厳に満ちた声が響いた。

カミーユが、サラの前に立ちはだかっていた。


彼は前妻の手首を掴み、玄関に飾られていた古い儀礼用の剣を手に取った。

鞘から引き抜かれた銀の刃が、冷たく前妻の喉元に向けられる。


「カ、カミーユ……? 冗談はやめて。あなた、私を愛しているでしょう?笑えないわよ。その汚らしい。使用人に何か弱みでも握られているの?あなた追放されたとは言っても私もっと貴族なのよ。頭までバカになってしまったの」


「愛していたよ」

と、侯爵は言った。


「かつて君と結婚した時はね。いや、愛そうとしていたんだと思う。だけど、君はあの時君自身で捨てたんだ。僕のことだけじゃない。この家も領民も使用人たちも」



カミーユはサラを守るように立った。

すらりとした、しかしサラよりもずっとたくましい背中だ。


「貴族は領民を幸せにするために貴族になってるんだ。役目を与えられているんだよ。僕は、そんな大切なことに、サラが来てくれたから気づくことができたんだ。あのままではきっとダメになっていた。でも今は違う。僕はサラのおかげで生まれ変わることができたんだ。過去を過去にする。勇気が持てたのはサラのおかげだ。この人は汚らしい。女なんかじゃない?誰よりも勇気があって気高い。美しい人だよ。君なんかよりもずっとね」


「ありえないわ。身分が違いすぎる」


「思えば君と同じだったのは身分だけだった」


前妻が濃い化粧を歪める。


「どうしたの、カミーユ。あなたが怒ったことなんて一度もなかったじゃない? どうして」


「僕のことなんて忘れてしまった女性のことを、ずっと忘れきれずにいた。もうあの頃の彼女はいないっていうことを、どこかで諦めきれずにいたんだと思う。本当はずっと前からわかっていたんだ。君は、友人も恋人も情ではなくて、その場の気持ちや立場で選んでいく種類の人間だって。その時々で人間を捨てては選択して洗濯してはして、そんなことを悪気もなく、やってのける種類の人間だって。何年か過ごしているうちに、自分の妻がそういう女性だとわかっていたんだ。でも認めたくなかった」


「カミーユ、何を言っているの?」


「もう幻想に縋っていてはいけないね。幻想は亡霊となって現実を壊しに来るんだ。今分かったよ。僕の最も守るべき人が誰かっていうことを。美しかった君と美しくない僕を、比較していつも苦しんでいた。いつも君は僕の先を言っていて、僕は生まれ変わりでもしない限り、君の隣には並べなかった」



サラはそっと、目の前の背中に手を当てた。

不相応かもしれないが、今はそうしたかった。

カミーユの緑の瞳に、揺るぎない覚悟が宿る。


「僕は誠実に人を愛したい。大切な恩人を害するものは、何人たりとも容赦はしない。二度とこの公爵家の敷居をまたぐな。次はない」


「ヒッ」


前妻は、その気迫に腰を抜かし、這う這うのていで逃げ出していった。




嵐が去った後の静寂が訪れた。

カミーユは剣を置き、震える手でサラの肩を抱いた。




「ごめんよ、サラ。怖い思いをさせた」



「いいえ……。カミーユ様、あんなにお怒りになって。あの。またおせっかいだと言われるかもしれませんが……血圧に良くありませんわ」



サラが無理に微笑むと、カミーユはたまらず彼女を強く抱きしめた。




「君はそのままでいいんだ、おせっかいで可愛いサラ。お願いだ。これからも僕の側で、僕の健康と、僕の人生を見守ってほしい。一人の男として、君を愛しているんだ」


「そんな、身分が」


「どうとでもなるよ。知り合いに書類上、君を養子にしてもらえば安泰だ」


さらりとカミーユは言う。

サラは息を呑んだ。 

こんなこと、あっていいのだろうか。


可愛いなんて言われたのは生まれて初めてだ。

サラが硬直して何分が経っただろう。


騒ぎを聞きつけてやってきた、メイド長がサラの肩をポンポンと叩いた。


「おせっかいかもしれませんがね、カミーユ様にお返事されてはどうでしょう」


「お、お返事とは、いったい何を」


「イエスかノーか、です! このままではカミーユ様が彫像になってしまいそうです」


イエス、を発した瞬間、カミーユの腕に抱きしめられた。




END

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