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ルミナ王国

勇斗の召喚先はこちらになります。勇者様、一名入りまーす。

ルミナ王国――アストラル大陸の中央に座し、魔法技術によって栄華を極める文明国家である。


人族のルシアス王が統治するこの国は、全ての国家と国境を接する地理的要衝であり、古くから大陸諸国の調停役を担ってきた。


そして、この国にはもう一つの顔がある。

魔法技術の粋を集めた「勇者召喚」。


五百年前に大陸を魔族の侵略から救った英雄もまた、この儀式によって現れた異界の勇者であった。

そして今、歴史は繰り返される。


新たな勇者が、光と共にこの地に降り立ったのだ。


「いっ……てぇ……」


ズキリ、と殴られたような頭の痛みに、勇斗は(うめ)きながら目を開けた。


ひんやりと硬い石の床の感触が、慣れ親しんだ自宅のリビングのものではないと告げている。

見回せば、そこは薄暗く、魔法陣のような幾何学模様が刻まれた閉鎖的空間。


まるで怪しげな実験施設だ。


「やった、成功だ!」


「おお、見事だ!」


突如として沸き起こる歓声。


いつの間にか、フード付きのローブをまとった男たちに囲まれていることに気づき、勇斗は身を固くした。

だが、彼の視線は歓喜に沸く男たちではなく、その足元の一点に釘付けになった。


見覚えのある服、リクルートスーツ姿の女性が、うつ伏せ状態で倒れている。

あの光に巻き込まれたのだろうか。


「おい、大丈夫か!?」


勇斗は考えるより先に体が動いていた。

駆け寄って脈を確認し、か細くも呼吸していることに安堵する。


「もしもし、聞こえるか!」


遠慮がちに肩を軽く揺するが、女性は小さく呻くだけで意識が戻る気配はない。

勇斗は怒りに近い感情を込めて、ローブの男たちを睨みつけた。


「あんたたち、喜んでる場合じゃないだろ! 人が倒れてるんだ、すぐに救急車、医者を呼んでくれ!」


しかし、男たちは顔を見合わせ動揺するだけで、誰一人動こうとしない。

その態度に、勇斗は舌打ちし、女性を慎重に腕に抱え上げた。


見た目よりずっと軽い。


「……もういい。病院はどっちだ。大体、ここは何処(どこ)なんだよ!」


目についた重厚な扉へ向かって歩き出した、男たちの動揺が一層高まる。

勇斗が近づくと、扉は音もなく開かれた。


外にいた男が今まさに入ろうとしていたのだ。

上質なタキシードに身を包み、漆黒の髪をオールバックに撫でつけた長身の青年。


その片眼鏡の奥の瞳が、勇斗と――彼が抱える女性を瞬時に捉えた。


「エリス。こちらの女性を医務室へ。最優先で処置を」


男は冷静な声でそう言うと、彼の背後からメイド服の女性が滑るように現れる。

彼女は勇斗から女性を軽々と受け取ると、人間とは思えぬほどの速度で廊下の闇に消えていった。


あまりに一瞬の出来事に、勇斗は空気を抱えた状態で、唖然と立ち尽くす。

そんな彼の前で、タキシードの男は(うやうや)しく片膝をついた。


「ようこそ、勇者様。お見苦しいところをお見せし、まことに申し訳ございません。わたくしは、この度の召喚儀式の責任者を務めます、クラウス・ヴェルディンと申します。以後、貴方様のお世話をさせていただきます」


あまりに芝居がかった挨拶に、勇斗の混乱は頂点に達した。


「は、はあ……。それより、彼女は大丈夫なのか? ちゃんと医者に診せてくれよ。それと、俺は勇者じゃなくて、勇斗だ」


「ユウト様、承知いたしました。彼女の処置については万全を期しますのでご安心を。つきましては、今回の事情をご説明させていただきたく、少々お時間を頂戴してもよろしいでしょうか?」


クラウスの丁寧な申し出を断る理由もなく、勇斗は頷いた。

案内されたのは、まるで中世ヨーロッパの城の一室のような、豪奢な応接間だった。


「……というわけでございまして、ユウト様にはこのルミナ王国の勇者として、魔王討伐を果たしていただきたい、と。これが我々の総意でございます」


ふかふかのソファに身を沈め、高価そうな紅茶を前に、勇斗はクラウスが語った壮大な物語をまるで理解できずにいた。


「えっと……ごめん、もう一回いいか?」


「はい。魔王を、討伐していただきたく……」


「なんで、俺が?」


「それは、ユウト様が我々の祈りに応えてくださった、選ばれし勇者様だからです」


「いや、選ばれた覚えはないし、そもそも魔王って何? ゲームか何かの設定? これはドッキリなの?」


現代人としての至極(しごく)まっとうな疑問をぶつける勇斗に対し、クラウスは額に汗を(にじ)ませ、ただ真摯に同じ説明を繰り返すばかりだった。


話がまったく噛み合わないまま、時間だけが過ぎてゆく。

クラウスはとうとう深いため息をついた。


「……失礼いたしました。まだご混乱の中、わたくしが急ぎすぎたようです。今日のところは、お部屋でお休みください」


応接間を出て長い廊下を再び歩く勇斗。

先導するクラウスの背中には、どうしようもない疲労と哀愁が漂っていた。


案内された部屋は、もはやスイートルームという言葉すら陳腐(ちんぷ)に聞こえるほど広大だった。

クラウスは扉の前で三人のメイドを紹介する。


「私が不在の際は、こちらの世話役の者たちにお申し付けください。私はこれより国王陛下へご報告に参ります」


クラウスが去ると、見計(みはか)らったようにメイドの一人が元気よく手を上げた。


「はいはーい! わたくし、リアナと申します! お料理と洗濯が得意です。今日からよろしくお願いします、ユウト様!」


栗色の三つ編みを揺らす、快活な笑顔の女性だ。


「ミュリエル。魔法、得意。ユウト、守る」


青いウルフカットの少女は、腰の魔導書に手を掛け、真っ直ぐな瞳で短く告げた。


「エリスと申します。現在、ユウト様のバイタル……ピピッ。正常範囲内です」


白銀の髪を持つ女性は、淡い紫の瞳で勇斗を観察するように言った。

時折混じる電子音が、彼女の特異性を物語っている。


三者三様の自己紹介に圧倒されつつ、勇斗は一つ咳払いをして頭を下げた。


「甘木勇斗です。よろしく」


照れながら差し出した勇斗の手を、リアナは満面の笑みで、ミュリエルはこくりと頷いて静かに、エリスは俊敏な動きで、それぞれ握り返した。


「そうだ、エリスさん。さっきの女性、どうなったか分かるか?」


勇斗の問いに、エリスはわずかに首を傾げ、一点を見つめ、瞳孔が収縮する。


「対象は現在、隣室にて睡眠中。スキャン結果――身体機能に異常なし、と報告されています」


「そうか……よかった……」


心から安堵の息を漏らす勇斗に、リアナが目を輝かせて身を乗り出した。


「ユウト様に質問です! あの方、もしかしてユウト様のフィアンセだったりしますか!?」


「違う! 絶対に違う! 会ったこともない人だよ!」


全力で両手を振って否定する勇斗に、リアナは心底残念そうな顔をした。

勇斗は壁の向こうにいるであろう見知らぬ同郷人のことを思い、遠い目をする。


「でも……あの格好は知ってる。きっと、俺と同じようにこの世界に呼ばれちまったんだろうな」


その時、控えめなノックと共に、憔悴しきったクラウスが再び姿を現した。


「ユウト様。急なことで大変恐縮ですが、国王陛下が『すぐにでも会いたい』と……。顔見せだけでも構いませんので、ご足労願えませんでしょうか」


先ほどの冷静さは見る影もなく、その声は懇願(こんがん)に近かった。

彼の背後にあるであろう面倒事を察し、勇斗は仕方なく頷いた。


「……分かったよ」


「ありがとうございます! お前たち、急ぎ支度を!」


クラウスが言い残して去るやいなや、メイドたちが一斉に動き出す。


「え、ちょ、待っ……うわっ!?」


有無を言わさずミュリエルの魔法で服を()ぎ取られ、清潔な泡に包まれ、温かい水のシャワーを浴びせられる。

エリスが恐るべき速さで髪を整え、リアナが手際よく豪奢(ごうしゃ)な服を着せていく。


それはまるで、流れ作業のようだった。

鏡に映ったのは、貴族の正装をまとった、自分であって自分ではないような凜々(りり)しい姿だった。


「お似合いですわ、ユウト様」


リアナの満足げな微笑みを最後に、勇斗は三人に促されるまま、謁見(えっけん)の間へと半ば連行されるように向かった。


――ルミナ王国、謁見の間。


重厚な扉が開くと、そこは圧倒的な権威で満ちた空間だった。

天井まで届くステンドグラスが神々しい光を落とし、磨き上げられた大理石の床に赤い絨毯(じゅうたん)がどこまでも伸びている。


その最奥、玉座に座すのはルシアス王。

隣には気品あふれる王妃が微笑んでいる。


ずらりと並ぶ家臣たちの視線が、一身に突き刺さる。

ぎこちない足取りで王の前まで進み、クラウスに(なら)って片膝をついた。


「面を上げよ、勇者ユウト殿。よくぞ我らの呼びかけに応えてくれた。クラウスからはまだ混乱していると聞いていたが、どうしてどうして、実に勇ましいではないか!」


王は豪快に笑い、隣の王妃セレーネも妖艶(ようえん)な眼差しを向けてくる。


「まことに。これならば、魔王討伐も安泰ですわね」


続いて発言した宰相と名乗るガルディアスという老人は鷹のように鋭い目でこちらを値踏みし、紹介された近衛騎士団長のレオニスは筋骨隆々の鎧姿で興味深そうに腕を組む。

宮廷魔導師のイザベルに至っては、あからさまに興味がなさそうに爪を眺めていた。


「して、勇者殿。他国の勇者はすでに動き出しておる。我が国としても遅れは取れん。魔王討伐、いつ頃になりそうかの?」


あまりに唐突で現実離れした王の問いに、勇斗は言葉を失った。


「陛下、その話はまた改めて……。本日はこれにて」


クラウスが必死に場を収め、王と王妃は渋々といった様子で奥へ退いていく。

その背後から、「本当に大丈夫なのだろうな、クラウス」「万全でございます」といったひそひそ話が聞こえてきた。


勇斗が大きなため息をついていると、騎士団長のレオニスが気さくに話しかけてきた。


「よう、大変だったな。しかし、お前、見かけによらず良い体してるな。何かやってたのか?」


レオニスは遠慮なく勇斗の腕や肩を触ってくる。


「え、ええと……バスケとか、まあ、色々と」


「ばすけ? 闘技みたいなものか? 今度ぜひ手合わせ願いたいものだ!」


体格差は歴然、しかしレオニスは悪気なく笑って去っていく。

入れ替わるように駆け寄ってきたクラウスは、疲れ果てた顔で勇斗に尋ねた。


「団長に何か妙なことを言われませんでしたか?」


模擬戦を申し込まれた、と正直に告げると、クラウスは天を仰ぎ、声にならない呻きを漏らした。


「……と、とにかく、本日はお休みください。明日、改めて、わたくしが全てご説明いたしますので……。どうか、この場は……わたくしの顔に免じて……」


今にも崩れ落ちそうなクラウスの姿を、柱の陰から宮廷魔導師イザベルが冷ややかに一瞥し、音もなく闇に消えた。

AIに添削してもらうと、短くなるのに要点は分かるというメリットがあります。

あまり長くて離脱されても困りますのでいいっちゃいいんですけど……


次回は、「突撃!隣の晩ゴハン」というか、謎の女性との対面に続きます。

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