暗黒の森と銀色の騎士
兄妹のリビングでのテレビの主導権争いが、さらっとした回想シーンへと変更されてしまいました。なんかショック。
風の音。木々のざわめき。そして、湿った土の匂い。
ゆっくりと目を開けると、視界に広がっていたのは見知らぬ森の中だった。
「……ここ、どこ……?」
絞り出した声は、自分のものではないように掠れていた。紫がかった空には見慣れない月が浮かび、高くそびえる木々の葉は、まるで意志を持っているかのように青白く光っている。
混乱する頭で、必死に最後の記憶をたどる。
兄の勇斗と、くだらないことでリモコンの奪い合いをしていたはずだ。
『アストラルを、助けて』
テレビから聞こえた謎の声。そして、部屋中を飲み込んだ白い光。
「勇斗!」
はっとして身を起こし、周囲を見渡す。けれど、そこに兄の姿はなかった。
心臓が、氷水で冷やされたように脈打つ。一人で、知らない場所に放り出された。その事実が、ずしりと重くのしかかる。
「勇斗……どこにいるの……?」
震える声で呼びかけても、返ってくるのは不気味な静寂だけ。心細さに身を縮め、両腕で自分を抱きしめる。一歩踏み出すごとに、苔むした地面がじわりと水分を滲ませ、歩きにくい。
その時だった。
――ガサッ。
すぐそばの茂みが、不自然に揺れた。
息を呑んで見つめる玲奈の前に姿を現したのは、黒い毛並みの巨大な獣だった。
犬、ではない。爛々と輝く赤い瞳、剥き出しになった鋭い牙、そして背中に並ぶ骨のような突起が、それが決して友好的な生き物ではないことを物語っていた。
「グルルル……ッ」
獣が低い唸り声を上げ、地を蹴った。
「――っ!」
悲鳴を上げる間もなく、玲奈は反射的に背を向けて駆け出した。けれど、慣れない悪路で足はもつれ、木の根に足を取られて無様に転んでしまう。
すぐ背後に、獣の荒い息遣いが迫る。もう、駄目だ。玲奈がぎゅっと目を瞑った。
「そこを動くな。すぐに終わらせる」
凛とした、穏やかな声が森に響いた。
目を開けると、信じられない光景が広がっていた。あの凶暴な獣が、まるで壁に弾かれたかのように宙を舞い、地面に叩きつけられていたのだ。
その壁となったのは、一人の青年。
漆黒のマントを翻し、月光を受けて淡く輝く銀の長髪。その手に握られた黒曜石のような長剣が、静かな光を放っている。
獣が苦悶の声を上げて再び立ち上がる。だが、青年は静かに一歩踏み出した。
「終わりだ」
剣が一閃する。風が巻き起こり、獣の巨体は声もなく吹き飛び、二度と動かなくなった。
青年は静かに剣を鞘に収めると、玲奈の方へ向き直った。
「怪我は?」
「あ……」
言葉が出ない。あまりの出来事に、ただこくこくと頷くことしかできなかった。
銀色の髪に、吸い込まれそうなほど深い深紅の瞳。日本人ではない。けれど、彼が発した言葉は、聞き慣れた日本語だった。
「……ありがとうございます。助けて、いただきました」
ようやく絞り出した言葉に、青年はほんの少しだけ口元を緩めた。
「僕はヴァルドという。君は?」
「玲奈……甘木玲奈です。あの、ここは……? 私、さっきまで日本っていう国にいたはずなんですけど……」
思いつくままに事情を話すと、ヴァルドは静かに頷いた。
「異界から来た、ということか。話には聞いている。言葉が通じるのは、何かのご加護だろう」
玲奈は呆気にとられ、放心状態になる。彼は玲奈の言葉を疑うことなく受け入れてくれたのだ。そのことに安堵すると、今度は必死に訴え始める。
「兄を探してるんです! 勇斗っていう名前で……きっと、この近くにいるはずなんです!」
「ユウト……」
ヴァルドはその名を心に刻むように呟くと、真っ直ぐに玲奈を見つめた。
「わかった。君の兄を探す手助けをしよう。だが、この森は魔族の領地で、人間には危険すぎる。一旦、安全な場所……私の村へ案内する」
「村へ……」
差し伸べられた手は、大きく、少し冷たかった。
兄の安否も、ここがどこなのかも、まだ何もわからない。けれど、今はただ、この人の静かな優しさに縋るしかない。
玲奈の異世界での物語は、こうして静かに幕を開けた。
先頭字下げはAIの判断で行っておりません。ご了承下さい。
異界の話とは、先代魔王を討ち取った勇者のことです。その勇者もどこかから召喚された者だという話が魔族の村に伝わっています。
日本語理解を「何かのご加護だろう」で済ませたヴァルド。思わず感心してしまいました。
私の案は召喚された勇斗と玲奈は加護の力で、現地の言葉が日本語に聞こえ、日本語を口走ると現地の言葉を喋り、現地の文字が日本語に見えるという設定。
だからヴァルドが日本語を喋れるんじゃなくて、玲奈が無自覚に現地の言葉で会話していると解説したら、こんなセリフでサラッと解決されてしまいました。これがAIのちからです。




