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《凝縮》スキル


ウェルズ商会へ向かうもメルティの頭の中は栄養剤の改良でいっぱいだ。


(素材の純度を極限まで高める、純度……)


祖母の雑記の言葉をヒントに、味の誤魔化ではなく元の栄養剤のまま改善出来ないか改めて考え出すも良い方法が思い浮かばない。


メルティは祖母のような錬金術は使えない。でも《調合》によって改善の兆しがみえないだろうか?


より新鮮な薬草を使う、素材の配合を変える、抽出の仕方を工夫する…そうして薬効成分の効果を高めることが出来れば、結果的に味が良くなるのではないか?


ただ元の栄養剤のレシピに拘るあまり、有効な対策が思い浮かばない。《調合》スキルで抽出や配合を工夫しても、あの強烈な臭いと不味さは健在で、素材自体を変えれば薬効成分の効果も悪くなるばかりだ。

このあたりはメルティの薬師としての知識不足、経験不足が如実に現れてしまった。


考えれば考えるほど頭の中がぐるぐると回り、アトリエの外に出ただけでは気分転換にならない。


一旦レシピから思考を切り替えてスッキリさせようと、ウェルズ商会の一行が滞在している宿舎に来たのだ。


***


ウェルズ商会の荷馬車は、以前からメルティのお気に入りだった。

小規模な商会とはいえ、王都の大商会ウェルフォードから独立したおかげか規模に似合わない魔道具が多いように思える。

田舎であるヘーゼルコート領ではあまり流通していなくても王都では手に入りやすい事も要因にあるかもしれない。ウェルズ商会は家族や従業員を大切にする姿勢から旅の快適性への投資は惜しんでいないとラウルから聞いた。


決して華美ではない実用的な魔道具の数々がウェルズ商会を現しているようで、メルティはウェルズ商会の荷馬車を覗くのが好きだった。

以前来たときと変わったものがないか、増えたものがないかをラウルに尋ねるのも恒例のことだ。


他の行商の荷馬車も勿論この領にやってくる。

しかし、領主の子といえど子どもが荷馬車を覗くのを好意的に思わなかったり、そもそも殆ど魔道具のない荷馬車であったりと、ウェルズ商会ほどの魅力は感じられない。


今回の逗留では最新の魔道具が搭載されており、小型で低価格なのに室温や湿度を一定にできるという。高額なものには及ばないものの、以前のものより遥かに能力が高くなったらしい。珍しく興奮したように話すラウルが印象的だった。


また、以前ラウルが自慢していた通り、馬車には悪路でもほとんど揺れを感じさせない特殊なバネが仕込まれており、どんな天候でも快適に走らせるという。馬自体にも疲労軽減や速度向上といった魔道具が装着されており、長距離移動の過酷さを感じさせないそうだ。


「すごいね、この馬車。お部屋にいるみたいだわ!

走っても本当に揺れないのね!」


「ああ。父さんが『長旅で疲れ切った顔で商談に臨むのは失礼だ』って言ってさ、少しずつ改良してるんだ。それに運転する御者さんたちも快適な方が安全だろう?」


感心するメルティにラウルは得意げに胸を張った。

ウェルズ商会の荷馬車は商品輸送のためだけでなく、旅をする家族や従業員たちの生活の場でもあるのだ。

生活を快適にすべく魔道具も丁寧に扱われ、馬車の荷台の奥には、商品とは別に彼らが使う日用品や食料品が整然と並べられていた。


「それに、父さんは《気象予知》スキルで数日先の天気を読み、安全なルートを選んでくれる。悪天候を避けるだけじゃない。直近の天気から道の状態を予測して危険なルートも避けるんだ。

商品は俺の《保存》スキルと兄さん《倉庫管理》スキルで商品の分類で分けて収納してるし、管理も怠らないようにしてる。


個人の荷物や日用品は俺らのスキルで仕舞い込むと逆に煩わしくなっちゃうんだ。だから清潔に保ちつつ、効率よく積み込んでスペースを確保してる。限られた空間だからね。

他にも色々、スキルを使いながら快適に過ごせるよう試行錯誤してるよ」


ラウルは自分のスキル《保存》は容量は人並みだけど入れると時間停止されるから食品や薬草などを主に担当しているという。

仕入れるものは自分だけでなく父や兄の目利きによるから信用出来る、いつか必ずあれくらい目利き出来るようになると力強く話していた。


***


メルティはこれまでウェルズ商会の荷馬車ばかり気にしていたが、今回はメルティのスキルが判明しているのだ。

何か目新しい薬草や書物があるかもしれない。


勿論、今までだって領では手に入りにくいものばかり取り扱っていたが、幼いメルティの興味を強く惹くものがあまりなかったのだ。


(そうだ、ラウルに相談してみよう!)


ラウルに味や臭いの改善に効果がありそうな薬草や王都での流行りなどの噂とかがないか聞いてみることにした。そんな都合の良い事はないと思いつつも、もしかしたらと思って―――



宿舎を覗くと、皆リラックスした様子で雑談しているようだった。

これなら話しかけても邪魔をしないかもしれないとラウルに声をかける。


「こんにちは、ラウル。今お邪魔して大丈夫?」


「やあ、メルティ。うん、今日はもうそんなに仕事ないかな」


思った通り時間がありそうでほっとした。

困ったら頼りにしてしまっていると自覚しつつも穏やかな返答にこちらも笑顔を返す。


メルティは、アトリエで直面している栄養剤の改良に行き詰まっていると打ち明けた。祖母の雑記の内容、そして不味さの改善に《錬金術》の代わりに《調合》で対策しているが限界を感じていると。


実は、メルティもあの不味い栄養剤を自分自身が「味わわずに済む方法はないだろうか」という切実な願いがあったのだ。

度重なる失敗作の度に味見もしている。体力こそ回復しているが精神的にもう飲みたくないと心が折れかけている。


ラウルはメルティの話をじっと聞き、これまでの失敗や挑戦の傾向を確認した。

そして彼女の陥っている状態を把握すると、なんとなく勘が働く予感がした。思考を回し、何が引っ掛かるのか考え出す。


メルティの作成した栄養剤と、彼自身の《保存》スキル、そして効率よく積まれた荷馬車の光景がラウルの頭の中で結びついた。


「あ………」


「何?ラウル」


何かに気が付いたようなラウルにメルティも期待しながら続きを待つ。


「うん…あくまで俺の意見になるんだけど、この前話した通り、俺のスキルは《保存》と《直感》だ。

で、メルティもふたつスキルがあるだろう?」


「あ!《凝縮》!!」


「そう。現時点では《調合》で味を改善するのは難しいかもしれないけど、じゃあ、逆の発想はどうだ」


思わぬ提案に目を輝かせる。


「不味いものは不味いと割り切って、飲む量を減らすんだ。」


「なるほど!凄い!私だって《凝縮》スキルの事頭から抜けてたのになんで気付いたの!?」


「ああ、俺の《保存》スキルは時間経過はないけど容量が大きいって程じゃないんだ。だからサイズが小さい程たくさん入る。まあ、だから大きさに意識がいきやすいってのはあるな」


ちょっと気まずそうに頬を掻きながら話すラウルはやはりメルティにとってヒーローのようだった。


「それに、水分が少なければ保存期間は延びるだろうし、すっかり小さくなれば持ち運びも管理も、格段に便利になるんじゃないか?」


「……!そう、そうだね!うん!やってみる!!」


ラウルの言葉はメルティにとってまさに目から鱗だった。味を改善しようと、「何かを足す」《調合》の思考に囚われていた自分にハッとした。

自分でも思っていたじゃないか。《調合》だけではうまくいかないと。


「ありがとう、ラウル!」


「ああ、役に立ったなら良かった。頑張れ、メルティ」


来たときと違い、跳ねるような足取りでアトリエに戻る。逸る期待に心臓が脈打つのを感じながら早速試作を取り掛かった。


メルティの作った、澄んだ深緑色の液体栄養剤を慎重に小皿に注ぎ、息を整え、魔力を集中させる。


「はぁ、はぁ……ふぅ…


《凝縮》!」



少しだけ水分が抜けたが、栄養剤として変質していないのがわかる。この方向性で突っ走ると改めて魔力を集中させる。



《凝縮》!



更に水分が抜けていくのが分かる。液体が次第にねっとりと固まり、小さく縮んでいく。



《凝縮》!



もっと魔力を込める。サイズはさらに小さくなる。しかし、まだ液体の名残がある。



《凝縮》!



最後にもう一度、メルティは全ての意識を集中させた。すると、深緑色の液体はぎゅっと凝縮され、直径数センチほどの黒と見紛うほど深い緑色をした塊へと変化した。


流石にこれ以上は形を保てるような気がしない。

以前、泥団子を作った経験も生きたようだ。


(これは……!)


驚きと期待を胸に、メルティはそれを恐る恐る一口噛み砕いた。


「っっっっっっぐぅううう!!!」


その瞬間、この世のものとは思えないほどの強烈な苦さやら、えぐ味やらが口いっぱいに襲いかかり、メルティは思わず顔をしかめた。液体の時よりも遥かに濃縮された味が舌を、そして全身を刺激する。


慌てて水を大量に飲み、それでも尚強烈な味に近くにあった清涼感のある薬草を齧ってなんとかやり過ごす。



「無理無理無理!!!食べられっこない……!」


だが、メルティはハッと閃いた。


(待って。もし、もっと小さいサイズならどうだろう?)


口で噛まずに飲み込めるように、凝縮した塊を喉を通る程のサイズに分け、それぞれを丸めてみた。すると、直径数ミリほどの小さな粒が3つになった。

これなら噛まずにそのまま飲み込めるはずだ。


《凝縮》スキルによる魔力の影響で元の液体栄養剤より若干効果は落ちたようだったが、それでも身体の芯からしっかり体力を回復する効果があることが確認出来た。


メルティはその小さな粒を掌に乗せて見つめた。




(これが……私の、丸薬!)




「これなら瓶に入れたら沢山保存出来るよね。持ち運びも便利になるわ!


そうだ!可愛い小瓶に入れたら見た目も良くなるかも!」


長期休暇が終わる直前、ついに形になったメルティだけの、希望の粒。新しい魔法薬のかたち。


「ふふっ、これならお父様も嫌な顔せずに飲めるかも!」


メルティの心は、一つの問題を解決した達成感と、未来への喜びでいっぱいだった!



やっとあらすじのところまで辿り着きました!

読んでくださった方、お待たせしました…

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