再会と昔の約束
季節は巡り、木々の葉が色づき始めた頃、領地は年に一度の賑わいを見せていた。
王都からウェルズ商会が定期的な行商のためにヘーゼルコート領を訪れる時期になったのだ。
ウェルズ商会は家族経営の行商で、王都でも有名な大商会“ウェルフォード商会”の三男が代表の、身元のはっきりとした信用のおける商会だ。
特に代表の息子、ラウル・ウェルズはメルティの3つ年上で、普段は王都の学校に通っている為、こうして領地に顔を見せるのは長期休暇の間だけだった。
ラウルは歳の離れた兄がひとりいる次男だ。
その兄がほぼ父親の商会を継いでいる形で比較的自由に過ごしている。将来、自分の商会を作りたい。そんな将来の夢の為、長期休暇の間は行商について行っていたのだ。
領地を訪れる彼の一家を、メルティはいつも楽しみにしていた。
兄ミカエルと一緒に領の門まで迎えに出ると、遠くから荷馬車を連ねた一団が見えてくる。
その先頭には、見慣れた顔があった。
「ラウル!」
メルティが手を振ると、馬車の上からラウルがにこやかに手を振り返した。
彼の隣には年の離れた彼の兄の姿も見える。
久しぶりに会うラウルは背が伸び、顔つきも少し大人びていた。けれど、そのまっすぐな瞳はメルティが初めて出会った頃と何も変わっていなかった。
思えば、ラウルとの出会いはメルティにとって幼い頃の数少ない心の支えだった。
***
——それは、メルティが6歳の頃。
父の行商に付き添って領地を訪れていたラウルと初めて出会った。
領地の広場では、同年代の子供たちが楽しそうに鬼ごっこをしていた。メルティも加わりたかったが、声をかけるのを躊躇していた。男爵令嬢で領主の娘である彼女に他の子供たちはいつも少し遠慮がちだった。それは悪意ではないと分かっていたけれど、寂しさを感じていた。
そんなメルティに、一人の男の子が声をかけてきた。
「君、どうして一緒に遊ばないんだ?」
その男の子、ラウルは初めて見る顔だったが、領の他の子供たちとは違い、メルティをまっすぐな瞳で見ていた。
「わたし…貴族だし領主の娘だから、みんな、少し気を遣っちゃうみたいで」
メルティがそう言うと、ラウルは不思議そうな顔をした。
「貴族だから何?
ここにいるのは、俺と同じただの子どもだろ?」
その言葉は、メルティの心に深く響いた。
彼はメルティを「貴族の娘」「領主様の娘」としてではなく、「ただのメルティ」として見てくれた、初めての同世代の子だった。
「俺はラウル・ウェルズ。家族で行商に来たんだ。
ここに来たのは初めてなんだ。仲良くしてくれる?」
「う、うん。わたし、メルティ!
メルティ・ヘーゼルコートって言うの」
そう言って差し出された手をメルティは戸惑いながらもしっかりと握った。その滞在中、メルティはラウルについて回った。ラウルも年下の女の子が懐いてくれて嬉しいのか妹のように可愛がった。
王都は遠い。なので頻繁にとはいかないものの、領地に訪れる度に共に過ごすようになった。
ラウルは、メルティが抱える孤独を言葉ではなく、態度で埋めてくれた。彼は貴族との距離の取り方を心得ていたが、メルティにはそれを一切感じさせなかった。
ある日、メルティが7才、ラウルが10才になった頃、ラウルが判定式を終え、どんなスキルを持っているのか聞いてみた。
「ねえ、ラウル。ラウルのスキルってどんなの?」
わくわくしながら尋ねると、彼はいたずらっぽく笑って言葉を濁す。
「んー、それはまだ秘密、かな」
「えー!教えてくれないのー?」
「まだ内緒!
そのうちメルティには教えて上げるから楽しみにしててよ」
そしてまた数年が経ち、ラウルがまた領地を発つ前、二人はある約束を交わした。
「メルティは今年、いよいよ判定式だね」
「うん…変なスキルだったらどうしよう……」
「大丈夫!きっとメルティにピッタリの素敵なスキルだと思うよ。
次俺が来たらスキル教え合おう。それまで俺のスキルは秘密な」
「やった!
うん!約束ね!」
ずっと秘密にされていた彼のスキルを教えてもらえる!
不安だったのも忘れ、小指を絡めて約束した。
ラウルはすでにスキル判定を終え、そのスキルは王都で学ぶ彼の商売の助けになっているという。この時メルティはまだスキル判定を受けていなかったが、いつか自分もスキルを教え合える日が来ることを夢見ていた。
(やっと、約束が果たせる……!)
メルティは、ぎゅっと拳を握りしめた。
ようやくスキルを使いこなせるようになってきて、ひとつは魔法薬を作成出来るようになった。家族にも祖母のアトリエの使用を許された。
あれもこれもとラウルに報告したいことがたくさんあった。
まだ少し遠くにいるラウルが早く到着しないか、今か今かと待ち侘びていた。
ヒーロー登場。




