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民国エレジー  作者: 上村至幸
台湾の思い出編
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第6話 さようなら

時は流れ、若さは儚く、川は波を立てて進む。


元清川は家族の行き届いた愛情の中で無事に中学校を卒業した。まるで風霜に洗われ続けた古い蛹のように、銀色の輝きが林の梢を覆い、緑の葉に結びついた澄んだ露が、歳月を経た蛹の体を潤し、月の清らかな光を吸収していった。そよ風が吹き始め、早咲きの花が揺れる中、一滴の朝露が震えながら古い蛹と溶け合い、ついに鎖を解く十分な養分を蓄えた。長年自然から離れていた蝶が、華やかな姿を広げて羽化し、台湾を救うことを志す青年へと成長した。


中学時代、彼は「エース四番打者」として学校の野球部を率い、台湾野球リーグに出場したことを覚えている。


試合は危機的な第九局に入り、チームは2点リードされ、二塁と三塁にランナーが残った状態で、元清川の打席が回ってきた。


逆転できるだろうか?チームを危機から救い、相手を打ち負かして栄光を手にする——全員の視線が彼に集まり、母・張婕櫻と祖父母は観客席で緊張した表情で息子を見守っていた。


西華野球部の選手たちはベンチで力一杯応援し、元清川を最後の希望と見なしていた。


外野安打一発で逆転のチャンスが訪れる。逆に打てなければ、西華中野球部はリーグ連敗の恥を重ねることになる。監督は腕を組み、打撃区に立つ元清川を真剣に見つめていた。

「頑張れ、清川!西華の希望の星だ」


打撃区で集中していた元清川は、監督の声を耳にしたように振り返り、重々と頷いて「任せてください」と伝えた。


目を閉じ、両チームの緊迫した空気を遮断し、空を覆う陰雲がその地域を支配し、急に降り始めた豪雨が暑い試合場に涼をもたらそうとしていた。試合は一触即発の状態だった。


元清川は鋭く投手の球路を捉え、勢いよくバットを振った。


「ドン」という衝撃が手に伝わり、全員の視線が空を切るボールの軌跡を追った。


「パン」と、重い音を立ててボールがホームランフェンスに当たり、審判のホイッスルが清らかに響き渡った。


「勝利!逆転ホームランで、西華中野球部はリーグの不名誉な記録を払拭した!今日、ついにリーグで勝利を掴んだ!」


観客席から轟音のような拍手が湧き上がり、歓声が空を突き抜け、九霄にまで届いた。空には夢のような虹が浮かび上がった。


母・張婕櫻は興奮して口を手で覆い、目尻から涙がこぼれながらも、顔には輝く笑みが浮かんでいた。まるで陽光すら彼女の喜びに金縁をつけたかのようだった。

「今日、私の子どもは英雄になった」


元清川は目的もなく新竹の西海岸を歩いていた。空から差し込む眩しい日光を手で遮り、指の隙間から細目にして見上げた。

「あれはなんと力強いものか。世の中の圧力に屈せず、万人に敬愛され崇められている。なぜ我々台湾は、あのように輝かしい光を放ち、畏敬の念を抱かれる存在になれないのだろう。」


当時18歳の元清川は、中学校卒業後、新竹の地元にある私立高校に進学した。他の同級生たちが台北の名門校を選ぶ中、彼はそうしなかった。しばしば仲間から「なぜ?」と訊ねられることもあったが、元清川は具体的な答えをせず、「ただ自分の心に従っているだけ」と軽描淡写に語るばかりだった。


高校に入ってから、何かが心に忍び寄ってきた。毎日、歯を食いしばるような難題が投げかけられる。黒髪のように絡みつき、憂いを募らせ続ける。青春の仮面を剥ぎ取られ、笑顔は薄れていき、顔には重苦しい表情が浮かび、かつての純粋で澄んだ瞳を炎のように焼き尽くしていく。


これが成長なのだろうか。成長とは、思い通りに選択できることを許さない。成長とは、受動的な運命を受け入れざるを得ないこと。抵抗する余地すら与えられない。


日本帝国の冷たい戦車の轍が、台湾の大地を次々と踏みにじった。錆びが台湾のあらゆる土地に染み込み、人々の肌に刻まれた履帯の跡のように。かつて「東洋のフォルモサ」と謳われた美しい島に、悲鳴が広がっていった。


母・張婕桜の薬屋はますます忙しくなった。治療を求める怪我人や病人が次々と訪れた。残酷な現実に直面し、彼女は夜な夜な枕を濡らしながらも、必死に笑顔を作り、頼りない人々に優しく接し、力を失った者たちに希望を与え続けた。最も純粋な医師の心を貫いて。


大変動がもたらした影響は、陰雲が織りなす紗衣のように、誰もが胸に重くのしかかっていた。息をするのも苦しいほどに。その中でも特に深刻なのは、元清川の祖父母だった。


祖父の張継忠は自分の趣味を捨て、新竹県政府を拠点とする彰明協会に加入した。郷里の仲間たちと共に、日々圧迫的な政策に反対する活動を繰り広げた。帝国が任命した地方役人と、粘り強く理を主張する会談を重ね、新竹の人々、台湾の人々が当然享有すべき権利を訴え続けた。台湾人民の自主的人権を断固として守り、废寝忘食で最前線で闘った。連日の奔走で、かつて大切に手入れしていた花壇にも、埃まみれの土壌から雑草が生い茂り始めた。


台湾が日本帝国に植民地化されてから、至る所で横柄に振る舞う日本人が目立つようになった。自国の強大な軍事力を盾に、武力でこの土地を統治し、貪欲な欲望を満たそうとする者たちが、いきなり威張り散らし、旧弊を守る台湾の地元民を乱暴に扱うようになった。その結果、傷ついた人々が増え続けていった。


医者としての仁心を持つ娘・張婕桜が、一人で薬屋で大変な仕事をこなし、食事の時間すら作れない様子を見てかわいそうに思った王桂嬌は、婦人連盟に呼びかけ、簡単な看護知識を教えてもらい、娘の重荷を分かち合おうと呼びかけた。


ある午後、学校の授業を嫌っていた元清川は、親友の林文と一緒に学校を抜け出し、空っぽの路地裏をさまよっていた。死んだように静まり返った路地は、かつての活気を失い、店舗は普段通り開いていたが、散らばる通行人の少ない寂れた光景は、胸を痛めさせるほどだった。元清川は思わず叫びたくなるほどだった。

「冗談でも言うな!」


元清川と林文は麺屋に入り、二杯の素麺を注文し、テーブルで待っていると、店の外で元清川を怒らせる光景が目に飛び込んできた。


中学校の制服を着た日本の学生が、従者を連れて路傍の果物屋の前で立ち止まった。店主のそばに若い女の子が付き添っているのを見るや、色気をそそられたかのように大股で女の子を店先から壁際まで引きずり込み、周りを見回して助けを求める女の子を見て、興奮して大笑いした。


まるで凶悪な狼が臆病な子羊を陥れ、仲間に獲物を誇示するかのように、汚らわしい下品な目つきで、のさばりと近づいてきた。


店主は娘を守るため、一群の付き従う従者たちに遮られ、蹴り倒されてしまった、なんとか立ち上がり、日本の学生に跪いて懇願した。額を擦り剥いて血がにじみ、涙が混じりながら、「娘を許してください」と訴えた。しかし、その日本の学生は哀願する父の姿を無視し、むしろ乱暴をエスカレートさせ、隅で震える女の子をさらに苛めた。


そして、通りかかった通行人たちは、この光景を目撃しても、誰も助けようとしない。むしろ、早くその場を離れようと急いで去っていった。


元清川は怒りに駆られて麺屋を飛び出し、一撃で従者を倒し込み、燃え上がる怒りを込めて日本の学生に迫った。


そんな状況に慣れている林文は、長椅子を持ち上げて追いかけ、日本の学生が油断して元清川を襲おうとしたところを叩きつけた。二人は背中合わせに支え合い、「悪魔の騎士団」と激しく戦い始めた。遠くで見ていた日本の学生は、目の前で起こる出来事に慌て、目をこすりながら、まるで幻を払いのけようとするかのようだった。


女の子は急いで父親の元へ戻り、しっかりと抱き合い、父親の額の血を袖で拭いていた。


鼻が青く腫れた二人は重い足取りで、地面に倒れている従者の体を跨ぎ、よろよろと壁際で震えながら周りを見回す日本の学生の元へと向かった。


「騎士団」の護衛を失った日本の学生は、愚かさを象徴する「皇帝の新衣」を着た西洋の領主のように、裸のまま堂々と立ち尽くし、何ら抵抗もせずに弄ばれるままだった。


口から血の泡を吐きながら、元清川は足元がふらつきながらも日本の学生を地面から引きずり上げ、壁に押し付けた。ズボンが濡れているのを見て、鼻で笑った。

「こんな臆病者でも、外で威張るなんて。台湾人を甘く見てるのか?」


拳を上げて殴りかかろうとした瞬間、傍らの女の子が鋭く声を上げた。

「気をつけて!」


でも間に合わず、元清川が声のする方向を振り向くと、その小刀はすでに腹に突き刺さっていた。歯を食いしばって全身に広がる激痛を我慢し、力強く膝で日本の学生の腹を蹴り上げた。二人は同時に気を失い、重く地面に倒れた。


最後に曖昧に映ったのは、林文が駆け寄ってくる叫び声、そして店主父娘が泣きながら駆け寄ってくる姿だった。

「よかった…ようやく安心できる。お母さん、ごめんなさい。またお母さんを悲しませることをしてしまった。お父さん、天国でお母さんを守ってね。」


元清川の知覚は次々と失われ、意識はますます鈍くなっていった。空っぽの白い闇が周りの景色を置き換え、まるで混沌の幕が虚空で引き裂かれたかのように。最初の光はまだ生まれず、世界は永遠の墨色に浸かっていた。


星の欠片もなければ、塵の光もなければ、風のため息もなければ、生き物の感覚もない。


ただ原初の迷いと乱れた暗闇があり、心と体が「涅槃」に溶け込んでいった。

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