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民国エレジー  作者: 上村将幸
日出する国編
55/55

第55話 将星の栄光

メドゥーサは干練な武闘服に着替え、エミリーと手を携えて城壁へ向かった。階段に足を踏み入れようとした瞬間、太鼓の轟と歓声が耳に届いてきた。エミリーはメドゥーサと握っている指をぎゅっと締め、好奇心が胸を踊らせた。


「メドゥーサ、彼らは何をしているの?」


彼女は目を上げ、春の川のように穏やかな城壁を見上げた。先程まで至るところに漂っていた死の匂いが、気づかずに収まっていた。


「戦争は終わったの?」


メドゥーサは指でエミリーの耳元の乱れた髪を梳き、耳の後ろに撫で込みながら、静かに答えた。


「バカなことを言うな。相手は十万の兵力を持つ討伐軍で、指揮官は王国の大将軍だぞ。」


「そういう愚忠な人は、聖諭で召し戻されない限り、簡単に撤退しない。」


疑念に覆われた二人の乙女の心が、階段で止まっていた足をゆっくり上げ、空気中の凝った薄氷を砕いた。メドゥーサは眉をひそめ、不安な予感が胸に広がっていった。


「相手の兵力は我々の五倍も上だ。なのに…なぜ不安なの?こんな平穏やかな雰囲気の下で、彼らは陰謀を企てているの?」


「どうしたの?メドゥーサ。」


指が急に強く握られたのを感じ、エミリーは振り返り、顔に憂いが増えたメドゥーサを心配そうに訊いた。その時、考え込んでいたメドゥーサは、エミリーの熱い視線に気づき、ゆっくりと我に返った。彼女は口角に優しい笑顔を浮かべ、左手の指先をエミリーの寄せた眉に当て、鬢から流れ落ちる冷汗を拭った。


「あ…何でもない。ごめんね…心配させてしまったエミリー。」


「うんうん、私たちは仲良しの姉妹だもん。」


安心したエミリーはすぐに笑顔になり、三日月のように湾曲した眉と目が、まるで月読女神のような柔らかさを帯びた。誰知らぬうちに、メドゥーサはくすっと笑い、エミリーの疑惑に満ちた額に軽く指を点いた。


「たとえ私たちが同じ男をめぐって競っていても…」


「私たちは仲良しの姉妹だ。元清川よりも、私は君がいないとダメになったから。」


メドゥーサの声がまだ空気に響いているうちに、エミリーはすでに空気中に織り成された見えない防線を抜け、開いた両手でメドゥーサをしっかり抱きしめた。水晶のような輝きを放つ朱唇が軽く開かれた。


「だから、私にわざと距離を作るのはやめてほしいの。」


「うん。」


メドゥーサの垂れ下がった腕が時間の束縛を解き、氷のように固執な心が、エミリーの朝日のように暖かい抱擁に包まれた後、頬を伝う二本の溶ける涙に変わった。城壁の階段で互いを抱きしめる二人の女性は、柔らかさと強さを兼ね備えた姿が、戦場に煙を浸した双生の薔薇のようで、空を覆う砲火と地獄のような血の雨風の中で、人間界にしかない最も珍しい美しさを咲かせていた。


城壁の上で、攻城軍が行雲流水のように整然と退いていくのを見送り、林文は守備兵の半分を撤退させ、負傷兵を城中に仮設した医療陣幕へ運ばせた。蛇人族の司祭に治療を受けさせ、看護師の手厚い看護を受けさせた後、彼は額の汗を拭い取り、クルレンと共に城楼の展望塔へ上った。


「村上幸あやつ、意外と凄いじゃないか。敵軍の大将と互角に戦えるなんて。」


林文は高所から見下ろし、城壁下の平原で熱く繰り広げられる対決を眺めた。村上幸の鋭い剣技に、カイザーの泰山圧頂のような重い一撃が弾かれる様子に、彼は興奮し、柵に拳を叩きつけた。まるで今下で戦っているのが村上幸ではなく、自分自身であるかのようだった。


「初対面の時、自己紹介で『鏡新明智流』の剣術伝承者だって言ってたよな?」


傍で、クルレンは豪快に酒を一口飲み、目尻の余光が村上幸の変わる技の構えに追いかけるように動いていた。彼は興奮して酒壇を城外に投げ、砕ける音を聞いた後、熱く林文を振り返った。


「俺、聞いた瞬間すごいと思った。だったら…俺たちも自分たちの流派を作ろうか?」


「いいぜ!」


言い終わるや、林文はすでにクルレンと対視し、指腹を顎に当ててゆっくり撫で、神秘的な雰囲気を装いながら落ち着いた態度を取った。


「俺は武蔵文妃流・林文です。今日から、特別にお前を門下に許す。」


彼の高深莫測な外見の下で、実は心の中でひそかに考えていた。


「俺の名前の『文』とソフィーの名前の『妃』を組み合わせると、人々に、『まさに才郎美女で天造地設のカッブルダ』という感じを与える。俺、天才だな。」


「じゃあ俺は?俺の流派は何と呼ぶ?」


林文がソフィーとの愛情を幻想している最中、クルレンは彼の不器用な一面を完璧に発揮した。両手を突然林文の肩に置き、巨獣のように幻想の泡から引き戻された林文を凝視した。彼の瞳に燃える炎に、怒りを爆発させそうになった林文は気が引けた。


「え…まで手を離してくれ。じっくり考えてやる。」


「わかった林文。お前の言う通りにする。」


クルレンは鉄ペンチのように林文の体を縛っていた手を離し、素直に展望塔の隅で背中を向けて立ち、林文が考え込んでいるように見えて実はまた幻想に浸っている狡猾な様子を見守った。彼が子供のような純粋な心で期待しているところへ、兵士に案内されたメドゥーサとエミリーが城壁に上り、怒りを込めて隠していた影を引き裂いた。


「大軍が迫る中、お前らはまだここで冗談を言っているのか。」


言い終わるや否や、メドゥーサの指先から凝り固まった蛇鞭が、残り火星を纏った蛇刃と共に、林文の身側の柵を真っ直ぐに貫いた。


「今、清川は城外で木村洋介と白雪を救っているが、まだ消息はない。城下では村上幸一人で大局を支えている。」


「守城の重任を担う大将として、お前らの態度はあまりにも軽率で、心を冷やすじゃないか?」


指先を少し曲げ、柵から蛇刃を抜き出すと、ガチャンと木屑が散り、林文の頬元を撫でながら蛇鞭が引く軌跡に沿って、まるで踊る蛇の頭のようにメドゥーサの周りを絡みついた。


「メドゥーサ、俺は…」


林文は否定しようと声を上げかけたが、溢れる恥ずかしさが喉の奥で言葉を押し戻し、重く目を伏せ、指を揉みしめるクルレンのそばに立ち立ち尽くした。エミリーの斜めに差し込む影が前を過ぎるのを見下ろしながら、彼女は何も叱らなかったが、その無関心な黙りが、二人を氷雪で積み上げられた深淵へ突き落としていた。


「もういいメドゥーサ。今は城中の怪奇な動向に警戒することが最優先だ。」


『怪奇の動向?』


「誰がお前に話すのを許した?クルレンの謝り方をちゃんと勉強しろ。」


林文はそっと顔を上げたが、メドゥーサとエミリーの足元に視線が届く前に、高慢な態度は空気の圧迫に砕かれた。メドゥーサの逆眉の視線は冷たい刃のように、林文の甘い勘違いを突き刺し、怯えた唇を微かに震わせた。


「ただ…城中の隠れた危険を心配して聞いただけなの…」


彼は頭を下げて指を揉みしめる姿が、いたずらをして先生に叱られた悪い生徒のようだった。その時、エミリーは二人の横をすり抜け、展望塔の階段口で立ち止まり、護城河の向こうの平原でカイザーと戦う村上幸を見つめた。彼女の固く閉じた唇がやっと開いた。


「城中の隠れた危険を心配するなら、クルレンと一緒に…背負う責任を真剣に受け止める。」


「はい。」


言い終わるや、林文とクルレンは急に厳粛な顔で、光の中に立つエミリーを見上げた。彼女の背後に漂う威厳の聖光は、まるで天照大御神の化身のようだった。二人の声はまだ激くぶつかる前に、空気と溶け込んだ静かな淵へ沈んでいった。


村上幸の残影が交じり合う体が急にカイザーに突き進み、奈良神鹿の優雅な姿を目にした後、軽やかな足取りで開かれた城門に入ると、まるで体の鎖を断ち切ったように、精神が一気に蘇った。カイザーへの攻勢はますます激しくなり、蒼穹に集まる雲のように、余裕綽々としていた。二人の決闘は、空の向こうで巡る夜明けと共に、翌日の朝日が照らす新しい光景へと移り変っていた。


「カイザー、君のような賢明な人が、なぜライン三世のような暴君を補佐するのか?理解できない。」


「ふん、我々ユリウス家は代々皇室を守る崇高な使命を負ってきた。草賊ごときが理解できるものか――八岐大蛇の怒り!」


カイザーは剣を振り、村上幸が近づく姿を退けた。筋肉が隆起した右足を地面に踏み込むと、地面に蜘蛛の巣のような亀裂が広がり始め、その亀裂から獣が死ぬ前の悲鳴のような音が上がった。続いて、彼の手に握られた螣蛇凶剣が震え、地割れから立ち昇る黒霧を飲み込み、空間を切り裂く気刃がカイザーの頭上にあつまり、やがて目底に邪気を放つ八岐大蛇の姿を作り出した。


「死ね、若造!この一夜の戦いで、僕は若い頃の感じを取り戻した。」


「俺の生死は、お前のような愚か者が決められるものか。」


村上幸は両手で剣を持ち、出雲の剣の剣格を軽く弾いた。空中に揺れていた波紋が急に収まり、熱い空気が震えながら裂け、長い間眠っていた幽冥剣歯虎が上空の黒洞から現れた、目を下げて向かいの八岐大蛇を見つめた。


「この一撃で、勝負を決めよう。」


二人の声が同じ時に響き、二つのエネルギー旋渦の中心で爆発した。この瞬間、空に舞い散る砂塵が大地を巻き込み、震える中で激しく衝突する二筋の流れ星を覆った。


将星の栄光と時空を切り裂く侍の魂が、異世界の大地でどれほど激しい花火を撒きらすのだろうか?


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