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民国エレジー  作者: 上村将幸
日出する国編
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第49話 君の世界のすべてに立ち止まる

「ケイ、王都征討軍の進軍ルートの偵察はどうなっている?」


市役所の三階、村上幸を筆頭とする軍方代表、そして林文とロバートの二人が共同で政務を統括する幹部が、今日集まり、新生の議事庁の円卓前端に正座していた。彼らの凝重な表情の前には、現や情報長官に任命され、聖マゴフ城に新設された諜報部隊を率いる首席負責人――ケイ・ロビンソンがいた。彼は手に近日部下が集めた情報記録を握りしめ、深い瞳はまるでブラックホールの奥に潜む秘密を見抜くかのように、密集した記載内容を素早く掃いていた。やがて負手を組み、落ち着いた目光に当局の最高権力者三人を映し出した。中央に座る林文に向かって軽く腰を屈め、左右の村上幸とロバートに頷首致意した後、表面的な礼儀が終わると、ケイはゆっくりと背筋を伸ばした。その目には、一筋の冷静さが宿っていた。


「偵察した情報を分析すると、王都から派遣された征討軍は北へ一直線に進軍、現在…」


彼の指先が刃のように、円卓中央に広げられた羊皮紙の地図を突き刺した。濃い緑色の湖の印が、斑駁な光暈に照らされ、不気味な幽光を放っていた。


「今はここで休息を取っている。予定では五日後に、彼らの鉄蹄が聖マゴフ城の城下に到達するだろう。」


言い終わると、議事庁に沈黙の死寂が訪れた。林文が机に押し付けた両手が急に締まり、たとえ滄瀾の上で光明を司る神祇が目を伏せても、彼の眉間の憂慮を払うことはできなかった。


「残り五日…準備する時間はあるのが?清川…なぜ君はいつも肝心な時に側にいないんだ!」


しかし、流れる時間は彼を感慨の思いの海に浸す余裕を与えなかった。林文は急に立ち上がり、ケイと視線を交わした。


「ケイ、配下の斥候をすべて撒き散らせ。征討軍の動向をリアルタイムで把握したい。」


「はい。」


ケイは右手を握りしめ、胸元で叩いた。


ケイの姿が議事庁からゆっくりと退出するのを見送った後、林文の収縮した瞳は、唇元に飽き飽きしたような余裕の笑みを浮かべた村上幸に向けられた。


「軍隊の新兵訓練も急がせなければならない。」


「安心して。もう命じておいた。」


村上幸はにっこりと笑い、席を立ち、ゆっくりと揺れるカーテンの近くまで歩み寄った。大地に降り注ぐ暖かい光を見上げ、彼は指を唇に当て、怠けたようにあくびをした。


「城壁の改修が順調に進んでいるから。クルレンに新兵の訓練に重点を置くよう命じた。」


すぐに振り返り、両手を背中に組んだ林文を見上げ、鮮やかな赤みを帯びた唇に剛愎な戻気を浮かべた。


「だから安心していいんだ。」


「クルレンのことなら当然信頼している。責任感の強い男だからな。」


林文は蒼松のように凛とした背筋を伸ばし、窓枠の障子が遮る量子微粒子の向こうに静かに立ち、光の簾に包まれているかのようだった。両腕を組み、冷たい目で村上幸を睨みつけ、鼻で笑った。


「ただ、君は軍隊を統括する執行人として、自分の担当する公務にもう少し心を入れてくれないのか?」


彼は微しく曲がった指節を木の縁に力を込めて叩いた。それに驚いたのは、隣に座って落ち着いていたロバートだった。彼は茶碗を手に取り、ちょうど一口飲もうとしたところだった。鋭い音波が耳の膜を突き刺し、腹の中まで満ちた濃い茶の香りが内臓をかき乱した。まるで虚空を裂いて死神の手が喉を絞めるような感覚で、咳が止まらず、胸が火で焼かれるように痛んだ。


林文は振り返ってロバートの狼狽な様子を一瞥し、次の瞬間、冷たい光を宿した目を村上幸の、潮の満ち引きを眺めるような平然な顔に向けた。


「毎日通りでぶらぶらして、女好きのような顔をして、すべてのことを無関係なクルレンに押し付けるな。」


「わかった…わかったよ。本当にうるさいな。」


村上幸はカーテンの揺れる波に指先を軽く引っ掛け、逃げるようにドアに向かった。不満の色が彼の垂れた目底に漂っていた。


「お前は母さんみたいだ。」


余韻がまだ廊下に響いているうちに、村上幸の逃げる姿は廊下の突き当りで、まるで空から降る星砂のように、淡い黄色い光の中に溶け込んでいった。


議事庁に残された林文は、村上幸が逃げ去った後、まるで空気を抜いた風船のように力を失った。机に顔を近づけた頬は、薄い紗のような白さに染まっていた。体を曲げて木椅子に腰を下ろした瞬間、声にならないため息が微かに開いた唇から漏れた。


「本当に大変だね。」


その時、ロバートの低い声が空気の乱れた流れと激しく衝突し、議事庁の穹頂で鈍い音を立てた。それが林文の漂っていた意識を引き戻した――林文は目を上げ、先日まで自分の会長だった男を見た。浮かび上がる口角に、迷いのある光が踊った。そして、机の縁に置いていた手に力が込もり、体がまるで運命の糸に操られるように、急に椅子の背に寄りかかった。


「仕方ないさ。清川がまだ楽そうに床に横になっている限り、俺が臨時政務官の重荷を背負うしかないんだ。」


「どうだ?市場を乱す黒市商人たちは、最近控えめになったか?」


ロバートが渡してきた茶碗を受け取り、林文の指先に凝った微光が、立ち上る湯気に沿ってちらちらと輝いた。まるで、暗い中で苦し元清川を見通せるかのようだった。


「城が落ちた日、彼らは手元の資源で大金を稼いだな。」


「最近は落ち着いてきた。市場の崩れた秩序も再建されつつある。」


ロバートは茶碗を唇に近づけ、染み込む茶の香りが鼻から心へと届いた。彼は満足そうに椅子にもたれ、林文の観察する視線に気づいた時、顔に浮かぶ笑いは幸せに包まれていた。三日月のように細くなった目を潜め、舌で歯の間を貪るように動かし、口の中に残った香りをすべて捉えようとした。しばらくして、動いていた唇が微かに開いた。


林文は席から立ち上がり、椅子をゆっまくりと机の下に押し込み、ドアに向かって歩み始めた。その一歩一歩は、霧のような軽やかさで、足元に眠る獣を驚かせまいとしていた。そして、振り返った目が、ロバートの瞳に隠れた狡猾な光を捉えた瞬間、ドアノブに触れた指が急に引っ掛けられた。


「じゃあ…次も頼む。」


彼はゆっくりと身をかがめ、眼底に長廊の揺らめく光点を集めた。意識を取り戻した瞬間、ひらひらと流れる暖かい風が、潤った水蒸気を巻き込み、跳ねる髪の先にそっと触れて通り過ぎた。


「今から医務室へ清川を見舞いに行く。用があったらそっちへ来て。」


医務室の中では、エミリーとメドゥーサが元清川の日常看護を終え、疲れた様子でベッド横になり、彼の寝顔を静かに眺めていた。


「エミリー、君は…清川もこっそり私たちを観察してるんじゃないかな?」


メドゥーサが指で元清川の額際の乱れ髪をそっとかき分けた、口に溢れる優しさが、真っ赤な唇に甘い笑みとなって広がった。まるで雨夜に咲く紅桜のように、傲慢な外見の下に隠れた柔らかく可愛らしいを映していた。指は彼の高い鼻筋を伝い、淡い赤みを帯びた唇にそっと滑り落ちた。


「この町を占領してから、彼はもう半月も昏睡している。私たちのために…早く目を覚まさないかな…」


急に身をかがめて元清川の耳元に寄り添い、眸に哀怨の色を浮かべ、開いた唇から暖かい息が漏れ、彼の耳の奥に染み込んだ。


「全然私たちを憐愛してくれない。」


「私にも分からないわ。」


エミリーはそっと元清川の頭元に顔を寄せ、二本の指で自分の髪の房を軽く捻り、彼の動く喉仏をいたずらっぽく撫でた。


「ただ…彼が私たちのそばにいてくれればいいの…」


彼女の指はゆっくりと元清川のベッドサイドに置かれた手に上がり、開いた指の隙間に沿って滑り込み、自然に十指を絡めた。


「あなたが私のそばにいる限り…いいの。」


二人が元清川への独占欲に浸っているとき、医務室のドアが、風のため息を混じえて、光の粒が降り注ぐ中でゆっくりと開いた。そこには、林文とソフィーが並んで立っていた。


「エミリー、メドゥーサ、昼食を持ってきたわ。」


ソフィーの穏やかな声が、銀の鈴のように軽やかに響き、暖かい風の流れを乱し、優雅な清らかな音を立てた。背中に隠した指が、林文の張り詰めた背中をそっと突いた。


「最近、元清川の顔色が少しずつ良くなってきたみたいね。」


横を向いて林文をじっと見つめながら、スカートの裾を揺らしながら、砕けた光の上を歩いている。まるでこの瞬間、何千何万の光と風の精霊がソフィーの周りを飛び交っているようだ。


林文は宙に浮かぶ果籠を受け取り、ソフィーの淡い香りのする足取りを追い、病床のそばに来た。中から四つの弁当を取り出し、料理の香りが漂っている。でも、彼の目の余光は、ドアに入った瞬間から、元清川の穏やかな表情に留まっていた。


「いつ目を覚ましても、俺たちはずっとそばで守るから。」


彼は病床を囲む三人の女性を見回し、笑顔の中に冬の蓮のような清らかな笑みが咲いているのを見た。そしてそっと病床に近づき、元清川の温もりが残る手を握り、口角を上げて安心そうな笑みを浮かべた。


「なぜなら、あなたは俺たちの全世界だから。」

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