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民国エレジー  作者: 上村将幸
日出する国編
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第48話 風雨來々山満楼

議事庁の会議が終わった翌日、村上幸と林文は私服を着て路地裏をさまよっていた。町の繁栄ぶりは、空中に浮かぶ絵巻の中に描かれた錦繍の玉ひものようで、人間の華やかな煙火の匂いが次々と目の前に現れていった。民族の隔たりを越えた子供たちの笑い声が、密集した人々の影の中で戯れ回っていた。通りの上でどんどん遠ざかる二つの姿を眺めると、まるで山の穹の滝をぴったりとすり抜けて飛び隼のように、彼らの耳元にはっきりと伝わってきた。


先日の攻防戦で聖マゴフ城の城壁の大半が機能停止状態になっていた。ライン三世国王の討伐軍が到着する前に間に合うように、破損した城壁の修繕を完了するため、町の住民は過去の遺恨を捨て、蛇人族と手を組んで城防工事に参加した。クルレン率いる軍隊の協力で、崩れた城壁は春の蚕が織る蝶の羽のように、ゆっくりと形を取り戻していた。


活力に満ちた朝日が東城区の高塔に昇る瞬間、まるで神様から「可能性」という生命力を授けられたかのように、レンガと粘土の積み上げによって、破損した骨組が急速に修復していた。それは、今この瞬間家屋で眠っている元清川のように、繭を破って変身するときを待っているかのようだった。


衣の裾が風に揺れ、長髪の青年――村上幸は空を流れる雲のかたまりを見上げた。口の中に含めた飴が、眉間の微かな皺と共に「カチッ」という清々しい音を立てた。彼は指の間に溶けかけた木串を挟み、横に向かって軽く投げた。空中を切る弧線が、まるで完璧と定義された瞬間に静止したかのようだった。そして「コン」という音と共に、ゴミ箱に落ちた。


「本当に参ったな…あのおじさんの頭の中は、一日中何を考えてるんだ?」


村上幸は閉じた二本の指を虚の刃のように変形させ、風が長髪をなびかせるとすぐに斜めに振った。まるで気流の流れを断ち切ったかのように、小さな爆発音の中で、思い出の焦燥感が湧き上がってきた。


「ロバート会長、さっき何を言ってたの?」


ロバートの言葉の余韻が重苦しい議事庁の穹頂に響いているうちに、村上幸は立ち上がってテーブルを強く叩いた。掌に込めた気が、虚空に漂う熱さを砕いた。指がテーブルの縁に触れた瞬間、亀裂が毒液のように内部に染め込み、ポロポロ落ちる木屑は散る枯れ花のようだった。ほとんど音も立てずに床に近づき、落ちる途中で束縛から解放された木の精霊に変わり、流れる風の音に乗ってガラスの亀裂から飛散した。


「建国?君は狂ってるの?俺たちは仕事を放ってきたのに、まさかお前の冗談に付き合わされるためだったのか…!」


「行こう、林文、クルレン。」


彼は振り返って、慌てている林文とクルレンを見た。ドアに向かって足を踏み出した瞬間、長机全体が時間の残酷な侵食を受けたかのようだった。林文たちが次々と立ち上がるのに合わせて、蜜蝋の表層の鮮やかな色が一瞬で風化した。出雲剣が鞘に収まる清らかな音が、議事庁に残っていた矜持を打ち砕いた。


ロバートは両手で苦笑いの波紋が滲んだ文件を握りしめ、最後に立ち去る姿を睨みつけた――ソフィーの細い指がそっとドアノブに触れ、戸惑った目元に短い迷いがよぎった。


「なぜ私の説明を聞いてくれないの…」


ロバートの最後の言葉が、勇気を奮い起こして窓を叩くように響いた時、砕けたガラスがピアノの鍵を弾くように揺れた。しかし、音も立てずに閉まるドアの隙間が、この滑稽な個人秀に強く幕を引いた。


「何だ?一路文句を言わせてくれるつもりか?」


林文は通りすがりの木村洋介と白雪に声をかけ、二人の元気な姿が風塵を蹴って、香り高い肉脯屋に入っていくのを見送ると、上がった口角に浅い笑いが浮かんだ。しかし、視線が村上幸に合うと、すぐに退屈な平淡さに切り替わった。


「実はロバートの発足点は良いんだ。ただ今の状況では、急ぎすぎてるだけだろ…」


風に差し込んだ指先が、そよぐ落葉を軽く摘む。晴れれた光が雲と対照する葉陰を貫き、葉脈に秘められた豊かな温もりが、林文の清冽な瞳に刻み込まれた。


「元蛇人軍団を基盤に、町に残る人間兵士を統合したけど…」


太陽の温もりを吸った葉を、彼は唇に軽く当てた。流れるエネルギーが葉脈から四方に広がり、苦みと甘みが混ざった芳醇が喉を伝い、毛穴に溶け込んでいく。


「実力は著しく増え、町の支配権も握った。でも…」


「司法を管轄する裁判所だげが、最後の頑固さを守り続けて、我々の統治を認めようとしない。」


村上幸が暗黙の了解のように、林文の喉元で躊躇していた言葉を吐き出した。そして北西方向に風で揺れる、法律を象徴する浅緑の十字鷹旗を見上げた。


「恐らく我々の報復を恐れてるんだろう。前代城主の横暴で、元清川を死の淵に追い込みかけたから…元清川が目を覚まし、彼の寛恕を得るまで、ずっと見守る姿勢を続けるだろう。」


二人の足取りは、蒼穹を裂く白羽の隼がホワイトハウスの穹頂を旋回する瞬間、交差点で同時に止まった。林文は急にしゃがみ込み、緩んだ靴紐を締め直した。


「まずはライン三世国王が派遣してきた討伐軍を実力を磨く試金石にしよう。建国のことは、清川が目を覚ますまで待とう。」


「ふん。」


林文の言葉が落ちるや否、村上幸が硬い冷笑を漏らした。


「その豪快な宣言は、王国の正規軍を、川堤に殺到する蟻のように見てるのか?」


彼は目尻の余光で、城壁で働く蛇人を盗み見た。以前破壊された穴が、今や蛇人と人間の汗で新しいレンガに埋められ、頑丈な鉄壁が築かれていく…


「我々の寄せ集めの集団…本当にアテナ大陸を制覇するジョージ連合王国に、力を試す資格があるのが…?」


王都・チャーリス台湾皇府。


ライン三世国王が、竜金の御座に高く座り、握りしめた指先が火竜の露出した牙のように、手に収めたばかりの神器――バル聖龍の槍を強く掴んでいた。狻猊の戦靴の靴先が青玉を嵌めた階段を軽く蹴り、一躍して目の前に並べられた文書の山を越えた。そして、燃え上がる怒りの雄獅のように、素早く身を撃ち出し、目の前で体を丸めて震える獲物に襲いかかった。


皇府内に上がった腥風がゆっくりと静まると、彼の手に握られた青白い炎を纏った長槍は、短い呼吸の間に、一頭の凶獣の体を貫いていた。


「御膳房に命じろ。今夜の主菜の食材は、これを使うことにしろ。」


そして語気が急に変わり、彼の万年の氷河を切り裂くような沉穏な目光が、目の前の金甲将軍に向けられた。金甲将軍が地に伏して震える姿を見下ろし、ライン三世は口角に冷たい笑いを浮かべた。皇府内に響く笑い声が隕石のように地面に叩きつけられる中、彼の槍先から滴る血が、足下の赤い絨毯に触れた瞬間、ふわりと白い煙が立ち上がった。その息苦しい焼け付き感が、将軍の額に滴る汗の傍で、まるで人間を見下ろす魔神のように、躍動する息遣いを侵略していた。


「それで…聖マゴフ城は…」


ライン三世国王は両手で槍を構え、急に背後に向けた。槍先が虚空を切り裂き、いちれんの爆裂音と共に花火を散らした。そして、槍先がまだ裂けたせネルギーの穴から抜け出さないうちに、台殿下の文武百官が慌てる目に映ったのは、金石で鍛えた玉案が一団の猛火に包まれ、白い光を放つ槍先に吸い込まれて黒煙となる光景だった。


「まさか…一族のような異民族に…聖マゴフ城を占領されたとは…」


言い終わると、彼は右手で背中の披風を払い、軽く階段に座った。バル聖龍の槍の槍頭が金甲将軍の肩に勢いよく叩きつけられる、将軍はよろめきながら地面に叩きつけられ、額骨が鉛の雲のように地面と溶け合った。


「大将軍、貴殿が自ら三軍を率いて、半月以内に聖マゴフ城を取り戻せ。」


「は…」


額から流れる血が、叩き込まれた穴を小さな血池に満たした。しかし、目の前の威厳ある君王に対し、心の中にどれだけ迷いがあっても、外には少しも表さなかった。そして金甲将軍は、重い責任を引き受けた。たとえ、この行が死に戻りであることを知っていても。

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