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民国エレジー  作者: 上村将幸
王城へ旅立編
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第46話 彼岸花の仮面

大地は生臭い風と矢海霧、激しい火球に覆われ、鳴り響き震えていた。空に映る落ちゆく陽が、人間界に切ない火の赤を残した。両軍が対峙する場所では、無数の松明が日没と共につき、明るい暖かい光がだんだん沈みゆく夕暮れの中で、再び世に戻ってきた。ただ、この火の簇で築かれた天蓋は、その温度が夜と数多の星が交じる瞬間に上昇し続け、銀河の星図に拒絶されるかのように、喊声と血の匂いの中で静かに崩れていった。


城壁の上で防衛に当たる兵士たちの顔には、一隊一隊の蛇人兵士が視界に入ると、死の恐怖を表す灰色と青の色合いが滲んだ。蛇人兵士たちは火球の轟撃の援護の下、薄い黄色の蛇の瞳に興奮の血色を染めた。まるで前に待つのは命を奪う矢海霧ではなく、食卓に並べられた美味しな饗宴のようだった。


この攻城戦が膠着状態に陥る中、二つの影が青い光の矢の援護を受け、足下に積もる蛇人の死体を踏み台に、夜の闇を切り裂く熱い流れ星のように雲梯を駆け上り、城壁の柵を突き破り、この不気味な対陣を引き裂いた。


馬車の中で、エミリーは固く握りしめた両手を胸に組み、瞬く瞳に映るのは頭上の華ヤカな星海ではなく、前の方に広がる死の戦場だった。城壁でも地上でも、この人間の惨状を目の当たりにし、瞳に深く刻まれた瞬間、ついに頬を伝って、儚く消えゆく命に対する哀れみの涙が二筋流れ落ちた。


血の匂いをまとった林文は、攻城する蛇人軍の中に静かに紛れ込み、小指を軽く曲げて淡い蛍光を放つ弓弦を引き、青い光の塊の中で三本の矢が瞬間に実体を成し――城壁の上で弓を構える三名の兵士の眉間に命中した。彼らの体が城壁から転落し、地面に激突して鈍い音を立てるのを見て、林文の目には飽きるような色がよぎった。


城壁上の居城では、城主が目を見開いて前から次々と伝わる戦況報告を聞き、額に豆粒大の汗が密集し、遠くから見ると蜂の巣が熱い雨にさらされたようだった。震える声が重い雰囲気の中でゆっくりと漂っていた。


村上幸は城壁の地面に足を踏みしめるや否や、槍を突き出してくる七名の兵士の首を斬り落とした。そして三名の城壁を登ってきた蛇人兵士が背後に迫った瞬間、彼の目に凶暴な光が走り、集まってくる蛇人兵士を率いて、潮のように押し寄せる敵兵の群れの中に突っ込んだ。村上幸の剣の舞いの下、地獄のような叫び声は肉の欠片となり、剣圧の範囲内で蒸発、熱い息吹となって立ちこめた。


背後では、クルレンが筋肉が隆起した腕で大斧を振り回さし、単純な攻撃ラインの中で左右に薙ぎ払うい、瞬間に密集した首が彼の前進の足取りに落ちていった。クルレンの怒りに燃える目には、あの居城が水面に映る絵のように、虚無の束縛から解き放たれ、人間界に儚く霞む繊細な美しさを見せていた。


高く掲げられた斧の刃が雷火の勢いを帯びて激しく三名の兵士に斬り下ろされ、彼らの体を真鍮製の槍身ごと腰間ちにした。クルレンが大斧を逆さに持ち、斧刃が地面にぶつかる際に散る無数の火花の中で、薄暗い黄色い火光が届かない闇がリに溶け込んだ。


「怪我をした兵士を後方の陣幕に運べ。木村洋介と白雪が治療を担当する。」


硝煙が立ち込める戦線の後方で、メドゥーサは細いてを胸元で組、目を閉じて血まみれの体が陣幕に運ばれるのを見つめていた。彼女の指先にしっかりと握られた蛇の鞭が清らかな低吟を発し、まる運命に喉を絞められた霊蛇のように、生きと死の狭間で徒労な闘いを続けていた。その震える音と負傷兵の痛みの呻きが交じり、無声の嘆きとなり、彼女が垂らしたまっ睫毛の下で、暗く湧き上がる瞳は戦争の不条理を審視し、自身の力を限界を問いかけていたようだった。


メドゥーサは視線をゆーくりと後方の陣幕に向けた。中で二つの慌ただしい人影が蝶のように飛び交っていた。彼らが負傷兵の前で立ち止まるたび、白雪の指先が引き寄せる緑の光が春蚕が糸を吐くように傷口を絡みつけ、木村洋介の低い呪文が光の輪となって噴き出す血を抑えた。淡い緑が優しく溢れる痛みを包み、折れた骨が光の中でかちかちと音を立て、再び生命力を取り戻した。その間、彼女の指先の蛇の鞭は静かに収まり、鱗が素れる小さな音は呪文の声に飲み込まれた――その緑の光が咲く瞬間、まるで彼女の腕の中の霊蛇の闘いさえ弱まったかのようだった。


城壁の上で居城の二枚の重い扉が斧の冷たい光によって轟音と共に砕け、木くずが雪崩のように飛び散った。その時、鉄甲の冷たい輝きを纏った足が闇を踏み破り、力強く地面を下押しした。震動は地竜が転がるような音で、レンガがカチカチと落ちた。振り返ろうとした城主は気波に煽られてよろよろと転び倒れ、太った体が驚いたネコのように丸まり、逆立った毛が一本一本張り詰め、喉から細い鳴き声が漏れた。まるで爪牙すら抜け落ちたかのようだった。塵芥の中で、彼は震える目をあげ、自分の玉座を踏み砕いた戦靴――靴先が真っ赤で、無数の守備兵の血に染まっているのを目にした。


火光が壊れた城楼を赤く照らし、クルレンは大斧を肩に担ぎ血の池を踏み越えた。一歩ごとに腥さが跳ね上がった。その時、彼のそばを蛍のような淡い青い剣光が掠め、村上幸の剣先が城主の喉元に突きつけられた。血の玉が刃に凝り、曼珠沙華が咲き落ちるように、彼の震える指の間に滴り落ちた。村上幸は冷たい目で城主の震える背中を見下ろし、瞳の底に軽蔑の色を浮かべた。酔っ払いの臭いが伏せた体の下から炸裂し、彼は口角を上げて皮肉な弧を描いた。


「お前が城主か?」


「お願い…殺さ…殺さないで!」


城主の震える声が涙と共に絡み、濁った瞳が極限まで見開きかれ、すべての懇願の言葉を崩れゆく瞳孔から絞り出そうとしていた。


「その首、貸してくれ。」


言葉が落ちるや否わ、剣先が皮膚に切り込み、喉から漏れた最後のうめきが、剣の冷たさの中だ砕け散り、枯木が竜巻に引き裂かれる残響のように消えた。


「行こう。この真っ赤な血雨に、幕を引こう。」


村上幸は腰をかがめて首を持ち上げた。潮のように噴き出す血が髪の毛を伝い。彼の半袖を浸した。立ち上がる瞬間、剣先の最後の血玉が青レンガの隙間に落ち、無数の緋色の星子のように砕け散った。跳ねね上がる血の霧が、城壁の亀裂から漏れる火光に照らされ、まるで無数の彼岸花が崩れた壁の間で誇らしげに咲き誇るようだった。猩紅の花びらが腥風の中で広がり、また散っていった。彼は親指で剣格を軽く押し、出雲剣が遊竜帰海のように鳴り、烏鞘に収まった。剣穂の血玉が地面に落ち、七弁に砕け、まるで彼の目の中を流れる冷たい光のようだった。


村上幸は表情を厳かにしてクルレンのそばを通り過ぎた。城檐で揺れる火光が夜空に飛び散り、氷と火のエネルギーが衝突するような光景を描いた。


「行こう。この真っ赤な血雨に、幕を引こう。」


言葉が落ちると、城壁の残った軒先に垂れ下がっていた血のカーテンが夜風に引き裂かれ、細い「シズシズ」という音を立てながら血雨が降り注いだ。その腥気が二人の去っていく背中を一気に覆った。村上幸は首を後ろに投げ、クルレンの鉄塔のような体が一震した。鉄の手が空中で受け止め、五本の指が額骨に鉄釘のように突き刺さり、指節が皮膚に深く食い込んだ。死の淵でさえ狼狽する表情の中、城主の瞳はまだ夜空を見上げていた――濁った瞳孔には、新月が雲を裂く残像が映っていた。それが、彼の生涯で最後に見た、誰にも属さない夜明けだったのかもしれない。


クルレンは喉の奥で低い吼えを上げ、首を握る手が微かに震えた。鉄甲の下の胸が激しく上下した。村上幸は彼の浮き出た青筋をちらりと見て、口角に皮肉な笑みを浮かべ、より深い夜の中へと足を踏み入れた。新月の銀色の光が降り注ぎ、満地の血の池を鱗のような冷たい光に染めた。まるで無数の破鏡が集まって、この血まみれの饗宴の残局を映し出しているかのようだった。

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