第45話 別の戦争…・後編
「処刑台の上にひざまずいているのは、ギルドの冒険者・元清川じゃないですか?」
「蛇人族と結託してるって噂だ…」
「そんなはずないでしょ?あの子はとても優しい子なのよ。ここに来て日が浅いけど、人柄は私が誰より知ってるわ!」
「そうよそうよ、俺の店でトラブルがあるたびに、友達連れで飛んできて手伝ってくれたじゃない」
処刑台下の群衆は沸騰する湯のように揺れ動き、囁き声が密やかに網のように張り巡らされ、まるで何千何万のスズメが巣の騒ぎを連れて押し寄せるかのようだった。白髪の老婆が涙を氷の泉のように湧き出しながら、兵士の押し戻しを振り切り、よろよろと元清川の前に駆け寄った。震える手で果物籠からパンを取り出し、指先が力まで入って白くなるほど、そのパンを元清川のひび割れた唇元にそっと当てた。
「子ども、一口食べなさい。安心して。おばあちゃんは信じてるわ。みんなも君を無実だと信じてるの」
元清川の、歳月に浸された青白い顔に、春の泉が岩の割れ目からせっせと湧き出すように、砕けそうなけれど純粋な笑みがかろうじて浮かんだ。
処刑台下の人々は、老婆に支えられながらひび割れた唇で柔らかいパンを噛み砕む元清川の姿を見上げ、胸の中に熱い湯が湧き上がるような衝動に駆られた。兵士たちが築いた人垣を突き破るかのように、かすれた叫びが嵐のように巻き起こった。
「元清川は無実だ!一体何の罪でここに立たせてるの!」
「城主様、どうかその子を許してください!」
騒ぎの波が処刑台を吹き飛ばしかねないほど高まったその時、氷のように冷たい威厳のある声が轟いた。
「みんな、静かにしろ!」
城主が槍の列が並ぶ通路をゆっくりと登り、処刑台に上がると、下で沸き騰する群衆を冷たい視線で一掃し、そして「人生最後のランチ」を噛みしめる元清川にちらりと目をやり、喉元で低い唸り声を漏らした。そして顔色を曇らせて群衆の方を向き——冒険者ギルド長ロバート・バーツビーが額に汗を浮かべ、黒潮に染まるような焦りを顔に滲ませているのを睨みつけた。唾を吐くようにして鋭く詰問した。
「ロバート、この件、説明がつけろよ」
ロバートはすぐに愁いを払い、目を細めて愛想笑いを浮かべ、城主の刃のような視線に応えると、すぐにソフィの方を振り向いた。
「ケイ、他のメンバーの行方は分かった?」
ソフィの小顔には葛藤と落ち着きが交じり合い、元清川の涙と汗で汚れた頬をじっと見つめた後、唇を噛み締めて手元の文字が密集した記録帳をめくり、小さく首を振った。
「今のところ、他の人の行方は分かりません」
しかし心の底では無言でつぶやいていた。
「真実…そんなに簡単に教えてくれるわけないでしょ?」
彼女は記録帳を閉じ、微かに閉じた美しい瞳が急に空の西側を見上げた——そこには、墨汁に染まったような薄暗い黒い紗が静かに織り上がり、まるで運命が垂らした幕のように、空際を息苦しい鉛色に圧し込んでいた。
「林文、このバカ!早くエミリーたちと一緒に元清川を救いに戻ってきて!そうじゃないと…」
ソフィの優しい視線が処刑台に留まった。白髪の老婆は二人の兵士に強引に追い払われ、よろよろと後退する。その足取りは不安定で、濁った涙が糸を切った玉のように飛び散り、石板の地面に斑模様の痛みを散らした。その時、神職者が手に聖典を捧げ、死を測るような重い足取りで元清川の前にやってきた。神聖な祈りの言葉が彼のささやく唇から飛び出し、音節が氷の錐が落ちるような音を立てた。そして、彼の口角が不気味にひそめられると、地底から青い光の輪が急に湧き上がり——その光は固まった涙のように、元清川を包み込む透明で冷たい檻となった。
「もっと早く戻らないと、元清川は…処刑されちゃう…」
彼女の指先が掌に食い込み、小さな声が青い光に引き裂かれた。
「早く!早くしないと!」
一方、林文が手に握る馬のむちが毒蛇のように空気を切り裂き、先端が鎧をまとった馬の腹に深く噛み込んだ。彼の眉間には深い皺が寄り、空に浮かぶ刺すような聖光を睨みつけた。憤りと焦りが胸の中で火の玉のように渦を巻き、歯の間から迸る叫びが空を裂く雷鳴のように響いた。鉄製のむちを握る指を締め付け、皮膚と金属の摩擦で生じる鋭い痛みが、疾走する馬の腹を刺激した。蹄の音が戦鼓のように地面を叩き、焦りに満ちた大地を踏み砕いていった。
「村上幸、後ろの蛇人軍隊の状況は?」
彼は憤りを込めて叫んだ。
村上幸は後ろを斜めに見た——鋼鉄の洪水のような蛇人軍団が轟音と共に押し寄せ、鱗の擦れる音と大地の震えが地獄の狂想曲を奏でていた。彼の落ち着いた声の中には、冷たい確信が隠れていた。
「心配するな。我々のメドゥーサ女王の統率の下、あの蛇人たちは溶岩で満たされた傀儡のようだ。一人も脱落する者はいない。彼らの吠え声が、我々の枷を打ち砕く戦歌になっている。」
手を耳元で風のように払い、腰に下げた出雲剣が突然清らかな鳴き声を上げた。剣身がブンと震え、星の軌跡のように流れる光となり、瞬く間に彼の手に収まった。村上幸は急に空に向かって大笑いし、その笑い声が風を切り裂き、周囲の空気を無形の刃で切り裂いた。眼底に閃く鋭い殺意が、空に浮かぶ青い光の輪を真っ二つに貫くかのように突き刺さった。
「元清川!我々が救いに来た!」
彼は叫び、轟き声のような声が処刑場の空に響き渡った。
「外には見せない、心の奥底に秘めた一面があるんだね、村上幸。」
林文と村上幸が疾走する背後で、鎧をまとった戦い犀に乗ったクルレンが淡々と笑った。口角の弧度は刃のように冷たく、瞳の奥には爆発するような炎が燃え上がっていた。まるで溶岩が沸騰するような光景だ。戦い犀の蹄音が戦鼓のように大地を叩き、その一歩一歩が山河を揺るがす轟きを立てた。三人が通り過ぎる場所では、風が砂塵を巻き上げ、殺意が波のように押し寄せ、処刑台の方向を指し示していた。
三人の後方で、木村洋介は幼さを脱いだ顔に、新芽が土を突き抜けるような笑みを浮かべた。春風に潤われた優しさが眉間に広がり、目元には明るい光が宿っていた。彼は腕の中に寄り添う白雪を見下ろし、少女の頭に編まれた二本のポニーテールが、馬の躍動に合わせて軽やかに揺れる様子を眺めた。その髪の毛先が風に乱されるのを、指先でそっと撫でながら、目には蜜のような柔らかい光を注いだ。
「白雪、見てごらん。あの三人——サンタのソリから飛び降りて、奇跡の贈り物を抱えた子供たちみたいじゃない?」
白雪の小さな体は、枝先に咲いた白蘭の花のように、その軽やかな笑い声に揺れた。指先で風に乱された髪の毛をくるくると巻きながら、木村洋介を見上げると、丸い瞳が月の欠片のように湾曲した。しかし、その底には朝露のような眠気が漂い、春の日差しに当たって眠そうになる子猫のようだった。「洋介、変なこと言うわね——」
尾を引くような甘い声で、睫毛が軽く震えると、いたずらっ子のような笑みが浮かんだ。
「彼らの目には、私たちこそが守られるべき子供に見えてるのよ。」
蛇人族の馬車が、険しい山道を黒い波のように押し寄せた。車輪が小石を軋む音と、鱗の擦れる音が交じり、不気味なリズムを作り出していた。メドゥーサとエミリーは車内に並んで座り、深い瞳の奥には深淵の崖底で鍛えられた冷たい堅さが凝縮されていた。まるで千年の氷で彫られた刃のようだった。しかし、腐葉の匂いを纏った風が耳元をかすめると、突然昨日の記憶の封印が解けた——
昨日、七人は気配を隠して蛇人族の密林拠点に忍び込んだ。血まみれの戦いが待ち受けていると思っていたのに、七つの影が夜明けの狼の群れのように暗い空気を切り裂き、不気味な静けさの中を洞窟の奥へと進んだ。冷たく暗い洞窟の中で、蛇人族の長老たちが石像のように立ち尽くし、白い髪が暗闇の中で磷火のように光っていた。メドゥーサが足元に散らばった鐘乳石を踏み砕きながら率先して飛び出し、暗闇が彼女の瞳の中で砕け散る中、長老たちの濁った瞳には、突然波紋のような慈愛が浮かび上がった。まるで枯れ枝に突然咲き誇る春の芽のようだった。
「聖女、ようこそ帰ってきた。」
老いた声が洞窟の中で響き渡り、まるで無数の忘れ去られた輪廻を越えてきたかのように、彼女の手に握る蛇の鞭が危うく落ちそうになった。
長老たちが鎖のような黒い法衣を脱ぎ捨て、ひれ伏す礼讃を捧げる中、メドゥーサは蛇の鱗模様が敷き詰められた古い図騰の上を踏み、陰気に揺れる洞庁の中央で聖女の冠を受けた。青銅の聖器が掌に鳴り響き、彼女の指に絡まる薄桜色の長髪が静かに垂れ、瞳の中には金色の縦瞳の輝きが流れていた。長老たちが額を地面につけ、血脈の契約を唱える古い呪文を詠むと、洞窟の天井から滲み出る月光が銀の蛇のように凝まり、彼女の肩に巻き付いた——仲間たちは雷に打たれたように固まり、驚きの視線の中で、少女の輪郭が蛇人族の何千年にもわたる図騰の虚影と重なっていく。
儀式が終わる瞬間、メドゥーサは袖を振って立ち込める陰霧を払い、冷たい声が洞窟を突き抜けた。
「伝令。蛇人族軍団は今夜軍を整え、明日の夜明けに聖マゴフ城へ——進軍だ!」
青銅のラッパがその後を追って夜を切り裂き、無数の蛇鱗甲が松明の光の下で赤黒い波を打ち上げた。まるで地脈の奥底から目覚めた溶岩のように、人間の城郭を覆す夜明けを渇望していた。
彼女は振り返り、エミリーの手を握りしめた。その柔らかい手のひらの紋路から、冷たい氷晶が滲み出る。まるで千年の雪淵の冷気が肌を透して湧き出すかのようだった。メドゥーサは朱い唇を軽く開き、血のように赤い声で、しかし鍛えられた刃のように鋭い言葉を吐き出した。それは車内に漂う重い沈黙を無言で切り裂いた。
「安心して、エミリー。きっと清川を救い出す。」
言葉が落ちるや否や、彼女の薄桜色の髪に散らばった金色の鱗が幽かに青い磷光を放ち、エミリーの頬に落ちる涙を輝かせた。エミリーは指先で涙を拭い、涙が落ちる軌跡が暗闇の中で小さな光の斑点を咲かせた。そして小さく頷き、声を震わせながら答えた。
「うん、信じてるよ、メドゥーサ。」
その震える尾音の中には、砕けたような嗚咽が混じっていたが、鍛え上げられた星の光のように、車内に漂う陰気を力強く突き抜けていた。
処刑台上で、兵士の粗い指が粗末な麻袋を握りしめ、袋の口が貪欲な獣の口のようにゆっくりと元清川の頭を飲み込んでいった。麻の繊維が肌を粗く擦り、彼を濃厚な墨のような窒息の淵へと投げ込んだ。五感は暗闇の中で縮こまり、触覚だけが死にかけの蔦のように残った感覚にしがみついていた——台下の群衆の息遣い、心臓の鼓動、ささやき声が、麻袋の隙間から浸透し、混沌とした温かい潮のように彼を優しく包み込んでいた。そのドキドキと共鳴するような響きは、まるで何千万もの心臓が同じ鼓動で鳴り、無数の見えない手が暗い檻を越えて彼の手を握りしめているかのようだった。この不気味な安心感は星火燎原のように広がり、窒息の感触の中で、彼は死を超えた何か温かさをかぎつけた。
「皆さん、この間の愛情に感謝します。」
「林文…この罪悪感は錆びた鈍刀のようだが、千斤の鎖を——君の肩に再びのしかけざるを得ない…きっと骨と血を誓って、あの王座の鉄石の心を動かし、人類同盟の聖なる契約を再開し、魔王が山河を覆す牙を防がなければ…」
元清川の額骨は兵士に乱暴に石の隙間に押し込まれ、石の冷たさが千年の鉄のように、一寸ずつ彼の額骨を抉り込んでいた。民衆の温もりが溶岩のように血脉の中を駆け巡る感触が、無数の細かい氷晶に引き裂かれていく。裁判台の槌が落ちる余韻が消える前に、彼は既に刃が空気を切り裂く灼熱感を耳にした。刃先が血の夕日を折射し、赤い稲妻のように彼の首筋へと突き下ろされる——その千鈞一髮の瞬間、林文の姿が暁の光のように突然彼の混沌とした頭脳を突き抜けた。その時、彼の唇には雪の中の紅梅のような笑みが浮かび上がり、まるで刃の冷たささえもその笑みの中で溶けていくかのようだった。時間は刃先で突き抜けられた琥珀のように、彼の最期の輝きを固めた——その笑みの中には、未練の遺言、無言の信頼、そして死を超える星のような頑固な希望が満ちていた。
斬刀が落ちる瞬間、ソフィは脊骨を抜かれた操り人形のように急にしゃがみ込み、両手で必死に目を覆った——元清川の首から噴き出す真っ赤な血が、刃の光と共に彼女の指の隙間を突き抜け、網膜に永遠の真っ赤な跡を焼き付けた。彼女はその血が地面に落ちる音が、呪いのように骨に染み込むのを聞くような気がした。そして、その瞬間、世界全体が息を飲むような粘稠な血の色に染まった。
彼女が涙を流し、指の隙間からまだ血が滲み出る震える手を握りしめていると、突然、空気を切り裂く荒々しい怒号が彼女の心を掴んだ。その声は砂利のような重い息遣いを込め、地獄の溶解炉からの轟きのように、彼女のほとんど聴こえない耳元に突き刺さった。
「大変です!城主様、城西の荒原で、蛇人の軍隊が集結して蠢動しています。一気に本城を陥れる勢いです!」
「え?!蛇人の軍隊?メドゥーサたちが来たのか?でも…もう遅い、元清川は…」
言葉が途切れた。ソフィの指先の血はまだ固まらず、涙で濡れた顔が硬直した。彼女はゆっくりと頭を上げ、裁判台を見上げた——その瞬間、瞳が急に縮み、まるで無形の手に喉を絞められたようだった。本来なら元清川の命を飲み込むはずの刃が、不気味に首筋から半寸のところで浮かび上がり、刃先に溜まった血の玉が、呪いのように宙に揺れていた。時間はまるで神様が砂時計を握りしめたかのように止まり、空気さえも砕けた鑽石のように固まり、元清川の落ちる首、刃に残る冷たい光、そして彼女の瞳に炸裂する驚きを、この永遠の、息を飲むような裂け目の中に封じ込めた。
兵士たちが血肉の壁を築いた城壁の上で、城主はよろよろと望楼に登った。彼の瞳は驚きで震え、護城河の向こう側の荒れ果てた平原を見つめた。蛇人の大軍が粘稠なアスファルトのように蠢動し、黒い鱗が日光に冷たい光を放ち、蛇の舌を吐く音が陰気な潮のように織りなされていた。そして、彼の背骨を凍らせたのは、七台の青銅の巨大な投石機が陣列の後方に堂々と架かり、荒々しい腕が力を蓄え、歯車の噛み合う音が地獄の歯ぎしりのように響いていることだった。彼は喉を絞めるようにして訊ねた。
「蛇人族…どうしてこんな精巧な攻城兵器を操るの? 彼らは毒牙と鋭い爪しか得意ではないはずだ…」
動悸が収まらぬ息遣いがまだ途切れない中、冷たく刃のような視線が城主の瞳を引き裂いた。駿馬に乗り軍勢の最前線に立つメドゥーサたちは、毒を帯びた瞳で光の輪を突き抜けていた。城主は噛み締めた歯の間からカチカチという鋭い音を漏らした。まるで黒い鉄のかけらに火星を纏わせ、青いレンガに激突して焦げ跡を焼き付けるかのように、空気さえも爆裂の亀裂を走らせた。
「やはり林文、メドゥーサ、そしてエミリー… 」
悪霊に取り付かれたような低い轟き声が歯の隙間から絞り出された。城主は急に振り返り、毒を帯びた瞳をロバートに突き刺した。指の関節を白くまで握りしめながら。
「お前のギルドが飼いならしている『災いの種』じゃないか? あのメドゥーサ…蛇人の血筋だというのに、お前は気づかなかったのか?!」
「城主、その傲慢さのために頭を下げて贖罪しなさい!」
ロバートは突然鉄拳を振り上げ、城壁に激しく叩きつけた。石のかけらが星のように飛び散り、亀裂がクモの巣のように広がった。まるで城壁全体が震えているかのようだった。彼の声は稲妻が空を裂くように轟き、灼熱の怒りを込めた言葉が次々と飛び出した。
「この町の安寧を守る背骨は、君の立派な権力でも、私のふらふらした腕でもない。お前が軽蔑の舌で『蟻』と貶めた冒険者たちこそだ! 彼らは血と骨で深淵の縁に壁を築いているのに、君は唾を刃に変え、彼らの熱い背骨を刺している!」
彼はゆっくりと目を向け、ソフィを見た瞬間、重荷を下ろしたようにため息をついた。眉間には消えない疲れが漂っていた。
「行こう。この時から、冒険者ギルド…メドゥーサの包囲網から正式に撤退する。」
城壁の下で、メドゥーサはロバートがソフィを連れて毅然と去る背中を見つめた。眉間に集まった霜が静かに溶けていった。ゆっくりと振り返ると、瞳が動くたびに何万本もの黒髪が風もないのに揺れ動いた。唇元には妖しい赤みが広がり、まるで血の蓮が咲くように美しい顔に染まった。
「君…この町の主人か?」
城主は鉄のような手を城壁に重ね、下を見下ろしながら冷たい冷笑を浮かべた。
「メドゥーサ、軍勢を率いて押し寄せてきたのは、一体何の目的だ?」
メドゥーサの眉が急にひそめられ、蛇の瞳から軽蔑の冷たい光が放たれた。まるで蟻を見下ろすように城主のふらふらした態度を一瞥した。細い指を軽く上げると、灼熱の炎が指尖から迸り、瞬く間に燃える矢となって空を切り裂いた。旗に向かって放たれたその矢は、灼熱の気流を巻き起こし、城主の顔に焼き付くような真っ赤な跡を残した。焦げた匂いが漂う中、彼女は赤い唇を軽く開き、氷のように冷たい声で言った。
「元清川を引き渡せ。そうすればわが軍は即座に撤退する——これが君の唯一の生き道だ。」
「ハハハ、そうか?」
高くそびえる城壁の上で突然大笑いが響き渡り、太い声が微風を突き抜け、城壁上空で揺れ返った。城主は両腕を組み、護城河に落ちた旗を見つめながら、冷たい声で言った。
「お前たちは元清川を欲しがっているのか?」
彼はのんびりと兵士たちの後ろを歩き回り、傲慢な表情を顔に浮かべた。目は刃のように鋭く、大きな眼球から迸り出るような視線が虚空を突き刺した。突然、大きな頭が二名の兵士の腕の間から突き出し、口角が筋肉の蠕動と共に歪んで上がり、醜い笑みの中で欲望の貪欲が溢れ出した。
「だからこそ、お前たちの存在は実に迷惑だ。」
彼は乾いた唇を舐め、錆びた鉄を引っ掻くような砂哑の声で、息を飲むような冷たさを込めて言った。
「そう…なのか」
メドゥーサは握りしめた右手が微かに緩み、指の隙間から迸る真っ赤な光が急に集まり、鱗のような紋様が光の渦の中で蜿蜒し、電弧を吐く蛇の鞭へと変わった。彼女は急に腕を振り下ろし、蛇の鞭が混沌を切り裂く雷のように地面に叩きつけられた。瞬く間に、砂利が逆巻いて天を貫く竜巻となり、轟音と共に城壁の外側に激しく叩きつけられた。轟き声が波のように引くと、竜巻に撃たれた地面にはクモの巣のような亀裂が走り、その裂け目が黒い毒藤のように城壁の根元を這い上がり、城主の立つ場所へと迫った。
「もし彼が死んだら——」
彼女の蛇の瞳に真っ赤な光が渦を巻き、声には骨を蝕むような冷たさが込められた。
「この町を、地底から城のてっぺんまで、一枚のレンガまでが殉葬者の血で染まるようにしてやる。」
「林文、村上幸、クルレン——即座に軍を率いて城攻めを始めろ!」
メドゥーサの瞳が急に収縮し、冷たい視線が三人を鋭く刺したが、言葉が落ちる瞬間に急に消えた。女王の周りには息を飲むような威圧が爆発し、薄桜色の長髪が乱れて腥い風を巻き上げ、後ろの蛇人軍団が真っ赤な血霧に包まれた。蛇の鱗鎧が震え鳴り、蛇の舌が毒霧を吐き出し、何千何万の縦瞳が血の中で光り、まるで地獄の門が開かれ、無数の妖魔が襲いかかるかのようだった。ただ、凝縮された怨念がメドゥーサの呟きの中で実体化し、千の刃のように空を切り裂き、蒼穹に真っ赤な亀裂を開いた。
「元清川が死んだら、必ず全員を殉葬させる。」