第44話 別の戦争…・前編
「元清川、メドゥーサはどこにいる? お前の仲間たちはどこだ?」
審判所の中で、学識豊かな長老が学士杖を手にして立っていた。赤らんだ顔には威厳のある視線と優しい口調が糸繭のように絡み合い、まるで仮面の下で二つの顔が静かに拮抗しているかのようだった。学士杖がゆっくりと下ろされ、先端が床を叩く刹那、澄み切った音が雷鳴のように響き渡った。審判所全体が激しく震え、石壁にはクモの巣のような亀裂が走り、細かい塵が薄暗い光の中で舞い降りた。その下で、元清川は二名の兵士に鉄のような腕で柱に押し付けられていた。跪く姿は磐石のように沉々としていたが、高く張った背中からは反抗的な弧が滲み出ていた。汗で濡れた乱れた髪をかき分け、彼はゆっくりと顔を上げ、刃先のように鋭い視線を審判台の長老に突き刺した。
「彼らはもう去った。安全な場所へ向かった。」
言葉が落ちるや否や、長老の目が急に鋭い縫い目のように細まった。その背後にいた兵士がすでに勢いを蓄えていた——長槍が飢えた豹が獲物に飛びかかる時に広げる爪のように、元清川の後頭部を襲った! 金属の先端が空気を切る鋭い音とともに、元清川の体は糸が切れた凧のように前に倒れ込んだ。ぼんやりとした意識が暗い淵に落ちていく中、冷たい石床がすぐそこに迫っていた。しかし、危機一髪の瞬間、長老の声が再び響き渡った。それは血を飲むような釘のように、元清川の弧を描く背骨に突き刺さった。
「明日、元清川を市街地の中心へ護送し、公の場で処刑する。その情報は必ず広めろ。彼の仲間がどこまで隠れられるか、見てみたい。」
余韻が審判所の天井に響き渡り、その波紋は元清川の曖昧になった神経を刃物で削るように伝わった。しかし、彼の額が床にぶつかる瞬間、唇に浮かんだ安堵の笑みは、固まった夜明けの光のように、意識が暗闇に沈んでもなお、唇に頑固に留まっていた——まるで無言の宣言のように、生死をすでに超越していたかのように。
物語は昨夜に遡る。酒場の天井に灯る照明が風に揺れ、哀婉な光景が衆人の顔に暗い波のように明滅していた。
元清川は片手で日本刀を鞘に収めた。刃が鞘に入る刹那、清らかな音が百鳥が海に帰るように響き渡った。彼の目は氷を削る刃のように鋭く、濁った酒の匂いの中で凛とした空気を切り裂いた。
「林文、木村君、即座にメドゥーサたちと郊外の蛇人族拠点へ向かえ。」
声は鉄釘を木に打ち込むように、揺るぎない重みを帯びていた。
元清川は再び刀を鞘に収め、目元に冷たい光を宿した。
「必ずメドゥーサが蛇人族の指導者の座を握る手助けをし、犠牲を最小限に抑えろ。」
言い終わるや、彼は振り返ってテーブルにもたれかかり、口に茶碗をくわえた村上幸を見つめた。その男の宙に浮くつま先がテーブル下で軽く点り、まるで蓄勢の猛虎のように——突然力を込めて木製のテーブルを壁に向かって蹴り飛ばした。砕ける音は氷が割れるように清らかで、飛び散る木の欠片が光と影の中で乱れた軌跡を描いた。
「今回の作戦には、君の協力が必要だ。」
元清川の声は依然として落ち着いていたが、指先は稲妻のように空を駆け上がった——その茶碗が矢のように飛び来るのを、彼は軽々と手で受け止め、手首を微かに振ると、茶碗はまるで無形の糸で引っ張られるかのように後ろへ放り投げられた。背後に控える林文はすでに弓のように身をかがめ、落下する茶碗を正確に受け止めた。背中を伸ばす瞬間、息を吐く音には微かな震えが混じり、まるで千斤の重荷を下ろしたかのようだった。
「これ…どういう意味だ?」
村上幸は眉をひそめ、立ち上がる足取りが床に金石を割るような音を立てた。急な風が背後を吹き上がり、瞳にはまだ消えない疑惑が宿っていた。
元清川は腰を落として倒れた椅子を拾い上げ、左手を半空に弧を描かせながら、椅子の表面に積もった砂礫を撫でた。その感触は、屋根から剥がれ落ちた古い蜘蛛の巣のようで、酒場の濁った風に巻き込まれて戸外へと消えていった。窓枠のガラスが真ん中から割れ、亀裂がクモの巣のように放射状に広がり、欠片が落ちる蛍のように靴のそばに舞い降り、薄暗い光の中できらめいた。
「明日の朝、メドゥーサが蛇人であるというニュースが町中に広まるだろう。」
彼はエミリーから渡された熱いお茶を受け取り、湯気の中で眉間の愁いが深まった。
「民衆がパニックになれば、城主が介入し、ギルドの冒険者たちも捕縛に加わる…」
「だから、作戦を成功させるために…君自身を犠牲にするのか?」
村上幸は眉を寄せ、目つきが刃のように鋭くなり、突然元清川の襟首をつかんだ。指先が毒の針のように皮膚に突き刺さり、赤い跡を残した。
「もし計画通りにいかなかったら、分かってるだろ? 君は反逆者として…公の場で処刑されるぞ…」
彼は怒鳴りつけたが、押し付ける力には震えが混じっていた。手を離して背を向け、剣鞘に手を当てた指が激しく震えた。過去の記憶が冷たい刃のように心に突き刺さった。
「…それは、俺が最もよく分かっていることだ…価値のない駒は、簡単に捨てられる。」
「だが、これは必要なのだ。」
元清川の落ち着いた声は、夜を突き抜ける矢のように、酒の匂いと汚れた空気を纏った衣の裾が、声とともに揺れ動いた。その波紋が、砕けた欠片の山に舞う濁った風砂をかき起こした。
「何が必要だ…全く必要ない!」
林文は轟音を上げながら、両手を鋭い風の刃のように変え、元清川の垂れ下がる肩を急につかんだ。血の滲む唇元には深い歯跡が残り、瞳の輝きが急速に薄れていった。
「ここから逃げ出せばいい。誰にも見つからない片隅に隠れれば…全てが終わるのに…」
「でも、我々は神龍から与えられた使命を放り捨て、罪を恐れる者のように一生を逃げ続けられるのか?」
元清川は五指を広げ、ゆっくりと震える林文の頬に触れた。耳元からこぼれ落ちた冷や汗が、彼の指先で冷たい雫に変わった。
「君も僕も分かっている。この作戦で十分な時間を稼げれば、僕の犠牲には意味がある。」
風刃の鋭さが薄れ、林文の指先の震えが激しくなる中、元清川の瞳の決意は岩のように揺るがなかった。彼の目は場にいる全員を次々と見回し、唇元に漂う平穏が、雨の夜のバラのように揺れる光影の中で自信に満ちた笑みを映し出した。
「君たちが蛇人族の主導権を握れば、僕はきっと無事だ。」
掌を広げ、エミリーとメドゥーサの冷たい頬に軽く触れた。彼女たちの瞳に溜まる悲しみが、氷の錐のように元清川の心を刺した。彼は顔を下げて唇を噛み締め、血の糸が歯の間からこぼれ落ちたが、やがて穏やかな笑みを浮かべ、二人を見つめた。
「心配するな。時間を稼ぐから…君たちが来てくれるのを待つ。」
酒場の濁った風が吹き抜け、塵埃が光の隙間で浮き沈み、まるで声のないため息のようだった。
「元清川お兄ちゃん…」
白雪の瞼にたまった涙が急にこみ上げ、左手で木村洋介の手をしっかりと握りしめた。砕けたダイヤのように輝く涙が、二人の震える指の隙間に落ちた。木村洋介は涙を我慢して顔をそむけ、余光が壁の亀裂の上をよぎった——そこにある残った蝋燭が風に揺れていた。その時、蛾が必死の決意を込めて、破裂音を立てる蝋燭の芯に突きかかった。光と影が壁の亀裂間で細かい嘆きのように砕け散った。彼は喉を鳴らし、胸が無形の手に握られたように痛んだ。息を吸うたびに鈍い痛みが広がった。砂嵐が突然吹き込み、戸袋を揺らし、蝋燭の火を危うく消しそうにした。
元清川はゆっくりと二人の前に立ち、衣の裾が風に揺れた。手を上げて白雪の頬に流れる涙を拭い、指先は砂嵐に磨かれたように微かに痛んだ。そして木村洋介の頭を撫で、乱れた髪を整えた。
「白雪ちゃん、この弟は君に任せる。必ず見守ってね。」
声は寒い淵の底から響くように低く、冷たくても決然としていた。氷の欠片が落ちるような冷たさが胸に焼き付くが、彼は気づかず、二人をじっと見つめた。
「もしこの作戦が失敗し、僕がここで命を落としたら…」
蝋燭の光に染まった元清川の瞳は、最後に覆面で泣くクルレンに留まった。その背の高い体は蕭瑟とした夜風の中で微動だにせず、まるで雲に隠された太陽のように、かつての輝きを失い、濃い闇に嵌った嶙峋たる影と化していた。
「復讐に衝動的に動かず、必ず使命を果たし、魔王の復活を阻止してほしい。」
「そんなことにならない! 必ず蛇人の軍隊を率いて、お前を救いに来る!」
林文の震える声が酒場の陰気を払いのけた。握りしめた右手が胸を力一杯叩いた。
「メドゥーサたちの進捗はどうなってる?」
画面が審判所の独房に戻る。
元清川が気を失っている間、手錠を外されてこの陰湿な独房に投げ込まれた。濃い黒の苔が生き物のように壁一面を這い上がり、滲み出る水滴が水たまりに落ち、小さな波紋を立てた。腐った匂いと刺すような寒さが鼻に入り込み、彼は隅にくるまって震えた。鎖は外されたが、四肢には禁錮の鈍痛が残っていた。
「おい、早く歩けよ、そうじゃないと置いてくぞ。」
陰気な郊外の森の中、腐った血の匂いと湿ったカビの匂いが鼻に入り込んだ。ごつごつとした白骨が草むらに散らばり、ウジが骨の隙間を这い回り、かすかなカサカサという音を立てる。まるで無数の小さな歯が静けさを噛み砕いているかのようだ。村上幸は剣を振るい、荊棘を切り裂いた。剣刃が空気を切る音がそよぎ、額に冷や汗が滲み、目にはイライラが溢れていた。
林文は素早く弓を引き、放たれた羽翎の矢が村上幸の横に絡みつく蔓の腐れた木に突き刺さった。矢先は正確に毒牙を持つ蛇の頭に命中し、その尾が震えながら矢の胴に巻き付き、鉄のような体で矢を切断しようとした。林文はその死にかけの毒蛇を見て、地牢で苦しむ元清川を思い浮かべ、小さくため息をついた。羽翎の弓を収める際、村上幸の姿が映った瞳に、一瞬冷たい光が走った。
「行きたきゃ行け、俺らにはクルレンが案内してくれる。」
彼は「案内」の二字をわざと強調し、嫌悪の表情を浮かべて急に振り返った村上幸と向かい合い、口角に皮肉な笑みを浮かべた。村上幸が出雲剣を振るう動作は、交響楽団を指揮しているかのようだった。毒の棘だらけの藪が、剣身から放たれる鋭い剣気によって、真空の圧力でできた渦に巻き込まれ、粉々に切り裂かれた。
「お前は俺が来たいと思ってるのか?元清川に頼まれなければ、この汚い場所に来るわけがないだろ?」
冷たい光を放つ剣先が急に頭上を指さし、カビの生えた蔓に隠れた毒蛇が、カサカサと音を立てる尾を木の枝に巻き付けた。その毒蛇が噛み付く勢いを蓄えようとした瞬間、体が蛇の頭が開く弧に沿って、放たれる狠戾な剣気によって真っ二つに切断され、木村洋介の足元に落ちた。それを見た木村洋介は鬼のような悲鳴を上げ、急にクルレンの体に飛び移った。
「お前のこの臭い顔を見たいと思ってるのか?」
「喧嘩はやめて…清川の今の立場を考えて。どうしてまだ喧嘩ばかりしているの?」
エミリーの声は震えていた。まるで風に引き裂かれた薄い紗のようだ。彼女は手を上げて両目を覆い、指の隙間からこぼれ落ちる涙が薄暗い光の中で輝く結晶のように光った。それは、言い尽くせない不安をすべて込めた涙のようだった。目の前で対峙する二人の姿は、彼女の涙で曇った瞳に、霧に包まれた二つの影としてぼやけ、ますます遠く陌生に見えた。
その時、頭上に絡みつく蔦から、濁った汚水の玉が混じり霉の斑点をつけながら、エミリーの蒼白い頬に向かって落ちてきた。千鈞一髮の際、虚空に突然真っ赤な炎が噴き出し、金のような屏障が広がり、汚れた水玉を一気に包み込んだ。メドゥーサは眉をひそめ、蛇の鞭を握る手が氷の結晶が割れるような清らかな音を鳴らした。彼女は急に横に振り向き、腕を鉄のようにエミリーの細い肩に回し、力強く胸に引き寄せた。その力強さには、譲歩の余地が感じられなかった。
「エミリー、彼らの喧嘩は価値がない。涙を流す必要はない。」
冷たい声で言いながら、メドゥーサの蛇の鞭の先に絡まる鱗は、炎の光に照らされて青白い冷たい輝きを放った。一枚一枚の鱗は、毒を塗った氷の結晶のようで、周りでうねる蔦と無言の戦いを繰り広げていた。そして、彼女の薄桜色の瞳が急に横を向き、刃のような視線が、木村洋介を公主抱きで抱えるクルレンに突き刺さった。声には霜のような冷たさが込められ、木村洋介の止まらない悲鳴に沿って問いかけた。
「クルレン、拠点まであとどのくらい?」
言葉が落ちるや否や、クルレンの体は急に石像のように固まった。首筋に青筋が浮き、まるで無形の毒蔓に絡みつけられたかのようだった。彼はゆっくりと斜めにメドゥーサを見つめ、瞳に一瞬だけ不気味な陰を浮かべた。木村洋介を抱える腕を急に締め付け、指節が相手の肩甲骨に食い込みそうなほど力を込めた。それによって木村洋介は心臓を引き裂くような悲鳴を上げ、痛みと恐怖に浸った声が響いた。
「ここを抜ければ…すぐ着くはずだ。」
彼は歯を食いしばって答え、喉仏を動かして飲み込めない焦りを隠した。
「『ここを抜ければ』ってどういうこと?」
村上幸は急に出雲剣を鞘に収めた。剣が鞘に入る音が湿った空気に波紋を広げた。剣を捧げる手は力を込めて白くなり、林文を睨む目は焼き入れた矢のように鋭かった。
「ここの地形はどこを見ても同じように見える。君の案内は信用できるのか?」
「見えた…メドゥーサお姉ちゃん、エミリーお姉ちゃん!」
白雪の清らかな声が風鈴のように蔦の間を抜け、湿った重い空気に波紋を広げた。彼女の碧色の瞳は急に縮まり、元気な大きな目は蔦の迷路を透き抜けるように光った。遠くの洞窟の入り口で、崩れかけた木札が薄暗い光の中で青い磷光を放ち、辺縁には暗い赤い苔が這い、歪んだ蔦に絡みつけられて揺れていた。その木札に刻まれた曖昧な符文が、まるで無言の稲妻のように彼女の瞳に突き刺さり、頬を霜色の薄光に染めた。