第14話 (お茶に行かない?)
「お母さん、学校行くよ!」
元清川は軽やかな足取りで玄関をすり抜け、腰をかがめてスッと革靴を履き込み、低い棚の上に置いたハンドバッグを器用につまみ上げた。
包丁とまな板がぶつかる清らかな音が急に止まった。張婕桜は声を聞いて顔を上げ、切り分けたオレンジ色の蜜柑と真っ赤な水梨を急いで弁当箱の瑠璃の仕切りに重ね込んだ。果実の香りが朝露の清涼さと混じり合い、空気中に広がっていく。
「待って、小川!弁当忘れたでしょ?」
彼女は木製の弁当箱を手に駆け寄ってきた。エプロンのしわが足取りに合わせて揺れ、頬を伝う汗が幾粒か落ち、朝陽の中で小さな琥珀に固まっていく。
元清川は既に靴を履き終え、低い棚にもたれかかり焦って待ち構えていた。腕時計の秒針が一つ一つ進むたびに、鼓動が朝風と共にドキドキと高まっていく。
「早くしてよ、お母さん、本当に遅刻するよ!」
彼は焦って靴の表面を指先で軽く叩き、羽ばたこうとする雛鳥のようだった。張婕桜はゆっくり近づき、エプロンで汗を拭い、目尻から笑みがこぼれた。
「昔はこんなに学校に行くのが積極的じゃなかったのに?」
二つの弁当箱を受け取ると、元清川の耳の先が少し赤くなった――もう一つの弁当はもちろん林文のためではない。その想いは今でも手のひらに熱く残っていた。彼は弁当を鞄にしっかりと入れ、恥ずかしそうに母の口を押さえて笑う様子をにらみつけ、ついに「もういいよ」とブツブツ言いながら急いでドアを開けた。
張婕桜は息子の矢のように飛び出す背中を見送り、また目尻に笑みを浮かべた。まるで幼い頃、腹を立てて幼稚園へ走り込んでいく姿を思い浮かべているかのようだった。
漁港の朝露を踏む元清川の背中は、波を追うシラサギのようだった。彼は遠くへ航海に出る漁師たちににっこりと笑いかけ、その笑顔はまるで朝日を砕いて海面に撒いているかのようだった。
「おじさんたち、今日も大波を切って航海してください!放課後は魚の選別を手伝います!」
「よし、清川!力を貸してもらおう!」
船上の男たちはごつごつした手を振り回し、海風が漁船を枯れ葉のように波間に翻弄するが、彼らは岩礁のようにしっかりと舵を取り、白い波を切り裂いて果てしない深海へと進んでいく。
元清川の心は新生の春の渓流のように高鳴り、調子の外れたメロディーを口ずさみながら進んだ。ズボンの裾が風に膨らみ、まるで枝をくわえて縁起を告げるカササギのように、喜びのエネルギーを道端の人々に撒き散らしていた。
校門をくぐると、彼はまっすぐ高校三年生の教室へ向かう代わりに、高一学級棟へ曲がっていった。足取りは317番教室の前で止まり、彼はいたずらっ子のような笑みを浮かべ、音も立てずにドアを開けた。
「後輩たち、おはよう!」
清らかな声が教室全体に波紋を広げた。女の子たちは次々と席から飛び上がり、瞳に星のような驚きを浮かべた。
「え?元清川先輩!」
「マジ?大スターが授業を急襲!?」
「先輩、どうして突然こっち来たの?」
教室は一気に沸き上がり、まるで春の花畑に突然蜂の群れが押し寄せたかのようだった。元清川はにっこりと周りに殺到する後輩たちに手を振りながら、落ち着いて乱れた人混みを抜け、目的を持って教室の後ろの窓際へ向かった――そこには李敏が、まるで幽霊に会ったかのような表情で彼を睨んで座っていた。
「敏ちゃん、おはよう。」
彼は慣れ親しんだように隣の空き椅子を引き抜き、ハンドバッグを勝手に机の端に置いた。まるでここが自分の領地のようだった。バッグから二つの弁当を取り出した時、朝日が丁度弁当箱の滑らかな漆塗りの表面に斜めに差し込み、細目にした笑顔をより輝かせた。
「この二つとも母が今朝作ったばかりだ。どっちがいい?」
真剣に弁当を並べると、留め金がカチッと音を立てた。それは、彼の今ドキドキと高鳴る鼓動のようだった。李敏は机の上に突然現れた二つの弁当箱を見つめ、驚きでまつ毛まで震えていた。一方元清川は彼女をじっと見つめ続け、唇の弧をひたすらに描き続けていた。まるでプレゼントを開けるのを待つ子供のように。
ああ、そうか。「敏児」とは李敏のことだったのか。朝焼けが広がる頃、元清川が急ぎ足で学校へ向かうその姿に、ようやく答えが見えた――彼が懸命に会いたかったのは、窓際に座り、胸をドキドキさせさせたその少女だったのだ。張婕桜は息子の気持ちを見抜いていただろう。二つの弁当を丁寧に詰め込む時、一方は母親から息子への思いやり、もう一方は敷居を越える優しさだった。弁当箱の中には果物の甘みだけでなく、李敏がこの厳格な校則の学校に入るために、静かに敷かれた温もりの糸が込められていたのだ。
なぜ李敏が高一の生徒として、元清川と同じ学校に通えるのか?その背後には複雑な勢力が静かに動いていた。
果物屋の商売が軌道に乗り始めると、元清川と林文は助手の立場を離れ、再び学生として学校に戻った。それに伴い、李敏と会う機会は引き潮のように減っていった。ある夕暮れ、下校してすぐに鞄を置く暇もなく、元清川はほこりまみれに果物屋へ駆けつけ、李聞昌に丁寧に李敏を自分の通う高校に転入させる提案をした。李聞昌は聞いて眉を上げ、目元に喜びの波紋を浮かべたが、すぐに雲がかかるように表情を曇らせた――当時台湾は植民地の枷に囚われており、台湾出身の学生の入学敷居は険しい崖を登るようなものだった。しかも天文数字の学費を用意しなければならず、貧しい李聞昌の家にとっては、鉄で固めた銅の壁のような不可能な壁だった。
元清川は李聞昌の眉間に刻まれた「川」の字のしわを見て、頭の中で春の小川が氷を解いて流れるように閃きが湧き上がった。彼は急いで家に帰り、祖父であり現彰明協会会長の張継忠に人脈を頼むよう懇願し、さらに木村洋介をけしかけて父の木村青原に助力を依頼した。両勢力が両翼となって舞い上がるように動き、ついに入学許可書が李敏の手元に届いた。その知らせが届いた夜、元清川は部屋の中を跳ね回り、眠らない星のように興奮して明け方まで踊り続けた。家族全員もこの喜びに包まれ、笑い声は軒下の風鈴のように清らかに響き渡り、一晩中家全体に響いた。まるで軒先の月光まで蜜の色に染まったかのようだった。
「じゃあ、これにしようかな。」
李敏の指先がトンボが水を撫でるように、淡青竹色の弁当箱にそっと触れた。竹の模様が朝焼けに輝き、山の竹の葉のような清涼感まで伝わってきそうだった。その瞬間、彼女の笑顔が花開くように広がり、春の朝に固まった蜂蜜のような琥珀よりも三分ほど甘く見えた。唇のかすかな曲がり方は、まるで花びらが初めて開くときの最も柔らかいひだのようだった。
元清川の眉と目がすぐに三日月のように曲がり、声にも嬉しそうな震えが込められた。
「いいよ。」
言葉が落ちるや否や、彼は我慢できずに弁当箱を彼女の前に捧げ上げた。その動作は、まるで初雪を運ぶように優しかった。
元清川は人差し指を少し曲げ、彼女の小さな鼻先を軽くなぞった。指先の薄い手ひびが、繊細な肌をかすめた。そして身をかがめてハンドバッグから、弁当箱と色合いの似合う弁当袋を取り出した。横に傾けて机の中に押し込むとき、指先の温度が服越しにお腹を撫でるように伝わり、彼女は思わず体を震わせた。春のヤナギの穂が肌を撫でるような、そっとしたかゆみが腰から耳元まで駆け上がり、頬に淡い赤みが広がった。
周りの女子生徒たちが次々と羨ましそうな視線を投げかけ、それらは春の雪解けのように優しく李敏に降り注いだ。彼女の頬に広がる笑顔は、新しい竹が地面から出るときの最初の朝日のようで、蜂蜜が溶けるような甘さを帯びていた。肌の隅々まで幸せの光に包まれているように見え、その表情はあまりに生き生きとしていて、周囲の空気まで琥珀色の蜜に固まったかのようだった。
朝焼けが窓の桟から斜めに差し込み、元清川の視線は李敏の笑う顔に釘付けになった。まるで周りの空気すら、琥珀色の蜜に変わってしまったかのように。
突然、軒先に吊るされた銅鈴が風にぶつかって鳴り響いた。澄み切った鈴の音が銀糸のように耳元を撫でた。元清川はふと振り返り、教科書を握りしめたまま床をつま先でこすり、赤ちょうちん色の頬に薄い赤みを浮かべた男子生徒を見つけた。その目には、臆病そうな頼みごとが隠れていた。
「先輩……授業のベルが鳴りました。この席……お譲りいただけませんか?」
李敏は指の関節を唇に当て、笑い声が指の隙間から漏れた。春の木の枝に咲き誇る新しいナシの花びらのように、甘く震える音色だった。そして人差し指で元清川の肩を軽くつつき、頬に梨渦を浮かべた。
「いいわよ。早く教室に戻らないと、先生に手のひらを叩かれちゃうわよ。」
しかし元清川はそれを気に留めず、瞳にはいたずらっ子のような波紋が広がり、唇が三日月のように曲がった。
「敏ちゃん、私と林文が授業をサボって街をさまようのはもう『お決まりのシナリオ』なの。先生たちはもう珍しく思わないわ。もし私がちゃんと教室に戻ったら、珍しい出来事として学園新聞に載るかもしれないわね。」
言葉が落ちるや否や、彼は急に表情を引き締め、机の上の朱墨色の弁当箱の竹模様を無意識に撫でた。窓から吹き込む風がかすめると、耳の先が急に赤らみ、朝露に濡れた暁霞のようだった。
「でも、敏ちゃんがそう言うなら……」
弁当をハンドバッグにしまい込み、彼は急に振り返り、困り果てて手足がどうすればいいか分からない学弟に席を譲った。その動作には珍しく丁寧さが加わっていた。そして教室に入ってくる先生に向かってあごを上げ、明るい笑顔で声をかけた。
「先生、おはようございます。」
いつも厳しい中年男性の眼鏡まで震わせてしまった。元清川はベルの余韻を踏んで高校三年生の校舎へ向かった。廊下の床板が足音を吸い込む中、彼は振り返って李敏を見た。少女は窓枠に寄りかかり、髪の毛先に細かい光の粒が散りばめられながら手を振っていた。まるで教室全体が彼女の笑顔に染まり、暖かい蜜色に包まれているかのようだった。その瞬間、彼の足取りは急に軽やかになり、廊下の床板さえ、雲よりも軽いため息が静かに落ちたことに気づかなかった。
元清川が教室に入ると、まさに呉純言先生の鋭い視線が講壇に釘付けになっていた。その男は手を背中に組み、戒めの尺を掌で軽く叩きつけていた。カチカチという断続的な音が、張り詰めた弦を叩くように響いていた。元清川が近づくと、呉純言は急に首を仰げて低く笑い、喉元を震わせる笑い声は氷を噛んだような冷たさを帯びていた。彼は身をかがめる際に袖が講壇を撫で、皮肉な風を巻き上げながら、唇を歪めて戯曲的な弧を描いた。
「元様、お越しいただきました。お足元を清めるために、私が地面に跪いてお迎えしましょうか?さっき林大少が机に向かって一生懸命勉強しているのを見ていたのに、あなたこの『貴賓』が遅れてくるなんて……侍従の不手際かと思い、他の先生のところへ行くつもりかと心配していたのですよ。」
呉純言の蜜を塗ったような冷たい皮肉に対し、元清川は春の夜に突然降る雨に驚いた軒先の風鈴のような低笑を漏らした。唇の弧度は変わらず、瞳の奥には戯曲的な炎が燃え上がっていた。掌を上に向けて丁寧に広げる姿勢は、幼い子供のように従順そうに見えたが、その手のひらは日光に照らされて玉のような冷たさを放ち、周囲の空気すら薄氷のように凍りついていた。
「生徒が先生にご挨拶を申し上げるなど、とんでもないことです。この『迎えの儀式』は、総督府の役人の方々にお預けするべきでしょう。」
呉純言の冷笑が唇に固まり、戒めの尺を掌でひと回りさせた後、結局講壇を軽く叩くだけに留めた。
「私この下手な腕前では、あなたこの金仏を動かすことなどできませんよ。廊下で立ち仕置きにしましょう——ある人が私の学校は狭すぎて、真の龍を収められないと文句を言うのを避けるためです。」
言葉が落ちるや否や、元清川はのんびりとドアへ向かい、声は廊下を吹き抜ける柳の花のようにのろのろと流れたが、瞳には若者特有の意地っ張りが燃えていた。
「いいですか?それなら林文も一緒に立ち仕置きにしてください。彼を一人で空き教室に残すと、『風邪を引いて』困るでしょう?私らの『お決まりのシナリオ』が台無しになるじゃないですか。」
「え?」
林文の喉から漏れた疑問は、切れた琴弦のように途切れた。彼は驚いた鶴のように席から飛び上がり、椅子の足が床板を軋ませながら抗議の音を立てた。弁明する間もなく、呉純言は手首を振って尺を振り下ろし、冷たい刃物のような音が響き渡った。
「君の仲良しと一緒に行け!あいつを一人で外で『風邪を引いて』困らせるなんて、総督府の息子の薬代なんて私には払えません!」
冷笑の尾音が消えるや否や、元清川は林文の後ろ襟をつかみ、銀魚をつまみ上げるようにドアの外へ引っ張った。二人の背中は廊下の光と影が交錯する場所で次第に小さくなり、笑い声が飛び散り、静かな池に投げ込まれた玉の欠片のように広がっていった。
廊下に差し込む日光が窓枠を斜めに流れ、二人の影を揺れる葦のように長く引き伸ばしていた。元清川は廊下の柱に寄りかかり、指先で漆塗りの柱をぼんやり叩きながら、のんびりと語りかけた。
「聞いたか?城南に新しく西点屋が開いたらしい。アーモンドクッキーが総督夫人の宴席で出されるものより本場っぽいって。サボった日に探検に行かない?」
林文はちらりと彼を横目で見やり、教室から漏れる墨の香りを纏った髪の毛先を揺らしながら、鼻で笑いながら返した。
「お前みたいに先生に目をつけられる不運な体質で、店に入る前に戒めの尺で『お茶を飲みに行く』ことになるだろうな。」
二人の声が高く低く交じり、軒先の風鈴が風に撫でられるような細かい音が混じり、立ち仕置きの冷たい寂しさを、春の小川がせせらぐような活気に醸造していた。
教室の中で、呉純言は目を落とし、戒めの尺に入った蛇行する亀裂をじっと見つめていた。窓から漏れる日光が尺の表面に金色の縁取りを施し、突然その亀裂が総督府前の石獅子の口角にある笑いのしわに似ていることに気づいた――威厳の下には、すべて時代に蝕まれた空っぽの殻があるのだ。そして廊下の果てにある、勝手に談笑する二人の背中は、まるで殻を破って生まれたばかりの蝶のようで、羽ばたくたびに振り落とすのは、植民地の鉄の幕の下でめずらしい、反逆の光を帯びた朝焼けだった。