第11話 薬屋そばの果物屋、澄んだ渓流をめぐる新生の太陽
生活は戦火の煙だけでなく、人々の我儘な生き様だけでなく、農夫と果樹園もある。
晴れ渡った素敵な日、空には雲一つなく、紺碧の海のように青く、サファイアのような清らかな輝きを放っていた。
病気から回復した元清川は学校に戻り、教師室で先生に挨拶をした後、大勢の生徒の前で林文を引っ張って学校を飛び出した――いや、立派な言い訳をつけて授業をサボったのだ。
それに対し、先生は珍しく思わなかった。何度もあることだからだ。先生の寛大な心構えは、果てしない銀河の最も原始的な星の欠片から来ているかのようで、オープンな教育で人々の心の狭い邪悪さを照らし出していた。元清川は女生徒たちに力強く包まれ、まるで体の一部に溶け込ませるかのように、ここ数日欠席していた想いを癒されていた。女生徒たちの隙のない包囲の中で、元清川は逃げ道を探そうとしても少しの隙も見つからず、周りの林文はさらに手の施しようがなく、椅子に座って元清川の狼狽ぶりを面白そうに見ていた。
状況が悪くなったと悟った林文は、急に腹を手で覆い、悲鳴を上げて机に突っ伏した。元清川の古い傷が再発したと思った女生徒たちは慌てふためき、完璧だった包囲に少しの隙ができた。
教室の入り口から、一二人の女生徒が「医務室に行って先生を呼ぼう」と口論する声が聞こえてきたのを機に、気を失ったふりをしていた元清川は口角に意地悪そうな笑みを浮かべ、女生徒たちが気をそらした隙をついて林文を引っ張り、教室から飛び出した。女生徒たちはやっと元清川にからかわれたことに気づき、悔しさを抱きながら涙ぐんだ目で、浮気性の男の背中を見送り、視界から遠ざかっていくのをじっと見ていた。
「危ないわよ!お前、ずっとそこで見物してたなんて、義理人情ないわね!」
野ウサギ以上に強い生きようとする力を奮い起こし、元清川は林文を引っ張って学校を飛び出した後、のんびりと通りを歩いていた。
「あんな殺気だらけの場所で、助けに行けって言うなら、死ぬつもりで行けってこと?あの元気な女生徒たちに骨まで砕かれちゃうわよ」
林文は両手で後頭部を支え、青い空を仰ぎ見ていた。
「どこ行くの?お前の可愛い女の子に会いに行くの?ならなぜ俺を連れて行くの?意地悪するつもり?」
「付いて来れば分かる」
説明をせずに元清川は足早に進み、落ち着いた笑みを浮かべながら興味津々に唄を口ずさんだ。後ろでぼんやりとしていた林文は後頭部を撫でながら、文句を言いながらも、加速する元清川の足取りに追いつこうと必死に歩いた。
「電灯籠役にならされないならいいけど、そうなったら絶交するわよ」
数本の路地を抜けると、二人は中学校の校門前で立ち止まった。
半分理解しかできていない林文は、元清川の顔に浮かぶ喜びの表情が徐々にはっきりとしてくるのを見ながら、壁に寄りかかり、枝で力一杯鳴くスズメの声を聴きながら、不思議そうに訊ねた。
「そのガキ、この中学校の生徒か?」
「うん。」
元清川は淡々と返事をした。
「へえ。」
林文はそれ以上訊かず、空の向こうから漂ってくる白い雲をじっと眺めた。
放課のベルが鳴り響くと、木村洋介は教科書をカバンに戻し、クラスメートの畏怖の目で階段を下りた。彼はまるで孤狼のように校庭の道を歩いていた。誰も自発的に話しかけようとはしなかった。風に舞い散る木の葉でさえ、彼のそばを通ると、淋しげで切ない雰囲気を漂わせていた。彼は苦笑いを浮かべ、周りで談笑するクラスメートを見つめた。心の中には羨望の種が植えられていたが、それを育てる優しい農夫はいなかった。少しの露を与えて、表面に広がる乾ききった亀裂を潤し、稲の香りが漂う緑の芝生を再び敷くような存在はいなかった。
冷たい暗闇の中で一人立ち尽くし、絶望という名の取り憑く霊が毒蛇のようにしっかりと絡みつき、肌の一寸一寸を冷たい毒牙で突き刺していた。校門前に立ち止まり、ゆっくりと目を閉じると、枝で仲間と戯れるスズメのささやきが、隠すことなく木村洋介の耳元を漂っていた。彼らの甘い喜びが風に乗って広がり、付き合いを求めている木村洋介の周りを包み込み、静かに彼の脆い心を癒していた。
「おい、出てきたな。」
その時、声が聞こえてきた。木村洋介が振り返ると、元清川が落ち着いた目で彼を見つめており、顔には朝の陽射しよりも輝く笑みが浮かんでいた。そばには、無理矢理作り笑いをした林文が両腕を組み、横目でぎこちなく彼を見ていた。
「お兄ちゃん、どうしてここに?」
木村洋介は震える声で訊ねた。手のひらから滲み出た汗がカバンのストラップをぬらし、指先は力を入れすぎて少し白くなっていた。元清川はゆっくりと彼の前まで歩み寄り、唇に優しい弧を描いたが、何も言わずに手のひらをそっと彼の肩に載せた。まるで体温を掌の筋絡を通して、相手の緊張した体に伝えようとしているかのようだった。
壁に寄りかかっていた林文はゆっくりと立ち直り、眉間にはいつもの淡々とした表情を浮かべ、平坦な声で空気の揺れを起こしながら答えた。
「訊くまでもないだろ?君を迎えに来たんだ。」
「迎えに?」
木村洋介は困惑して首を傾げた。濃いまつ毛が目元に影を落とし、かつて輝いていた瞳は今や光を失い、まぶたが無意識に震えていた。それは風で消えた窓のようだった。
「まずは君のカバンを家まで持って帰ろう。」
木村洋介の震える手を握り、林文の背中を力一杯叩いた。
「笑いを上手く見せろよ。洋介弟を怖がらせちゃダメだぞ。」
元清川の春の陽射しのような笑みが広がり、「弟」と優しく呼ぶ声が響いた瞬間、木村洋介の耳元に熱さが急に広がった。彼は顔を横に向け、思わず壁際の林文を見た。その男は指先で唇角を押さえ、笑いを隠そうとしているように見えたが、指の隙間から漏れる低い笑い声と、言葉にできない恥ずかしさと冗談めいた表情が浮かんでいた。
木村洋介は家のドアを開け、カバンを玄関の低い収納棚にそっと置いた。振り返ると、母の木村優雪がキッチンの戸枠に寄りかかり、眉と目が優しい三日月のようにカーブを描き、春の雪解け水のように柔らかく彼の体をなぞっていた。三人は午後ののろのろとした陽射しを踏みながら家を出た。元清川が最前面を歩き、足取りは軽やかでまるで音のないメロディーを踏んでいるかのようだった。林文はゆったりと後ろをついていた。
やがて雑草に飲み込まれた小道に曲がると、その先には思いがけず果樹園が隠れていた。枝には熟れた実がぎっしりと実り、籐が青竹で編んだ塀にそって這い上がり、風が吹くと果実の香りを混じえた落葉と、まばらな虫の声が静かな土壌に落ちていった。
「ここって?」
木村洋介は小さな足取りで二人について果樹園に入った。果実の香りと土の湿気が混じり合った空気が鼻に入ってきた。目を上げると、李聞昌が背中を丸めて枝を切り揃えていた。枯れた黄色い落葉が足元に山積みになり、汗が首筋を伝って流れ、ボロボロのエプロンに濃い染みを作っていた。彼の娘・李敏は蝶のように果樹の間を駆け回り、器用な指先で余計な籐を切り取っていた。髪の毛先が風にそよがれると、後ろ首に細かい汗が浮き出ていた。
その頃、元清川と林文はすっかり普段着を脱ぎ捨て、粗末な農夫用の服装に着替えていた。裾は干された綿のようにだらりと垂れていた。元清川が引き返し、明らかにサイズが小さい服を手渡した。襟丈は木村の肩に届くか届かないかで急に細くなり、彼は不器用にボタンを留めた。胸元で布地が張り詰め、まるで体に合わない殻のように見えた。林文は木の幹に寄りかかり、口角にほのかな笑みを浮かべ、困った様子の彼の背中をじっと見つめていた。
三人は枝を整然と切り揃え、籐をしっかりと縛り、最後の一枚の枯れ葉が竹かごに掃き込まれた時、李敏は井戸端で腰をかがめて水をすくい、竹木の杯を木村洋介の手に渡した。水面にはまだ幾つかの光の粒が揺れていた。彼は割れやすい磁器のように丁寧に杯を持ち、指先でカップの側面に濡れた指紋を残しながらも、視線はずっと李聞昌の丸まった背中に釘付けだった。喉元に言葉が詰まって長い間、やっと風に吹き落とされた果実のように、静かな空気の中に落ちていった。
「おじさん、許してください。」
頭を深く下げ、頭頂が膝にほとんど届くほど、声は蚊の鳴き声のように小さかった。それでも李聞昌の鍬を持つ手が震えた。元清川は急いで半歩前に出て、この遅れた謝罪を台湾語に訳して伝えた。李聞昌の眉間に驚きが浮かび、しばらく固まった後、すぐににっこりとした笑みに変わった。彼は鍬を置き、手のひらを木村洋介の頭にそっと載せた。力加減は枝の葉っぱを払うような優しさだった。
「子ども、あのことはもう過去のものだ。ずっと前に風に吹き飛ばされたよ。」
まるで本当に理解したかのように、木村洋介の目尻に溜まっていた涙がついに溢れ出した。透明な涙が襟元に落ち、小さな喜びを跳ね上げた。果樹園の虫の声さえ、急に明るく響き始めたように思えた。
仕事が終わる頃、李敏の指が若い蔦のように木村洋介の手首にそっと絡みついた。彼女はエプロンのポケットから無地のハンカチを取り出し、広げると綿の模様の菊が日光に照らされて生き物のように広がった。ハンカチで手のひらの汗を拭く動作はとても軽やかで、まるで朝霧が新しいシダの若葉を撫でるかのようだった。顔を上げて彼を見ると、目元の優しさはまるで実の弟を見ているかのようだった。
その視線は溶けた琥珀の飴のようで、温もりと防備のない柔らかさに包まれていた。
一行は果樹園のそばの小道を進み、やがて水のささやきが聞こえてきた。茂みを曲がると、渓流が目に飛び込んできた。渓水が崖から落ちて、跳ね上がる水しぶきが夕暮れの中で何千何万もの琥珀の結晶を輝かせ、まるで星が流れる絹のように落ちていくかのようだった。残陽が渓面全体を蜜色に染め、遠くの山並みの輪郭は水に浸した和紙のようにぼんやりとしていた。風が吹くと、水の音さえ金箔の光沢を帯びていた。
元清川と林文が木村洋介を家まで送った頃、夕暮れはすでに半分の屋根を染めていた。翌朝、三人は思いがけず授業をサボり、露の残る石板を踏みながら、母・張婕桜の薬屋のそばにある長年放置されていた空き家へ向かった。ドアを開けると、腐った木材の匂いと古い巣の糸が鼻に入ってきた。日光が割れた窓から差し込み、床にはまだらな光の網を織り出していた。元清川の祖父・張継忠の協力は春風と雨のように、この空き家を記憶の中の廃墟から、まるで新生児のような新鮮な空間へと変えてくれた。
三人の手が午後の陽射しの中で躍り始めた。のこぎりの音と笑い声が交じり、汗が斑点だらけの壁に落ち、若さの露を跳ね上げた。李敏が張婕桜が煎じた涼茶を持ってきた時、磁器の茶碗の縁にはまだ薬草の香りが凝っていた。お茶は渓流の朝水のように清々しく、喉の渇きを一気に鎮めてくれた。
再び夕暮れが窓に染み込む頃、果物屋の看板がしっかりと軒先に掛かっていた。翌朝、朝日が昇ると、果物の香りと薬草の香りが朝風に絡み合い、塗装を剥がした木製の棚には真っ赤なリンゴと黄金色のナシが、検査を待つ兵士のように整然と並んでいた。李聞昌はカウンターを拭きながら、目尻のしわに溢れる笑みは、どの果実よりも豊かだった。
木村洋介は店先に立ち止まり、看板に斜めに差し込む日光を見つめていた。ふと、この新生した店舗は昨日の渓流のそばにあった夕日のようだと感じた。沈む余韻ではなく、昇る太陽のように、蜜色の光を路地の隅々に注ぎ込み、薬屋の苦みのある草の香りさえも、優しい砂糖の衣を纏わせていた。