第1話 彼のいない民国
「中山先生。」
青年軍官が悲しみにくれて地面にひざまずき、両目は虚ろでまるですべてを透き通して見抜くかのようだった。痛惜に満ちた声を天に向かって叫び上げる。その男の名は元清川。孫文先生を追いかけるために台湾海峡を越え、遥かな道のりを越えてきた「三民主義」の忠実な信奉者だ。今でも鮮明に蘇るのは、民国初期、広大な民衆の支持と革命仲間の信頼のもと、孫文先生が民国初代臨時大統領に当選したという選挙結果が発表された瞬間だ。その知らせは、中国が旧社会を脱却し民主制度へと転換する第一撃を放つ象徴となった。
その瞬間、中華大地に新たな生命の色が吹き込まれ、芽吹く種が土を突き破って芽を出そうとしていたかのようだった。
民国政府の成立と孫文先生の大統領就任の報が広まるや、世界の主要諸国も次々と動き出した。東洋の古い大陸に屹立する新生政府に友好を示すため、祝賀のための使節団が殺到した。南京に設置された各国大使館には訪問者が絶え間なく押し寄せ、接待担当者は朝から晩まで忙しく、一瞬も休む暇もなく、その賑わいはまるで門前市のようだった。往来する賓客の中には、各国が潜入させた諜報員も少なくなかった。
孫文先生が臨時大統領に就任したというニュースが告示に次々と掲示され、町中に広まると、民間や軍政界、文人雅士たちが一堂に会し、次々と友人を呼び寄せて自発的に祝賀を繰り広げた。全国中に「民国万歳」の歓声が轟き、海外の華僑たちも電報や文書を送って故郷と遠く離れた地から祝い合った。これほど孫文先生の国際的な名声と影響力が広大なものであったことは、言葉にせずとも明らかだった。
しかし、情勢が徐々に好転し安定していく中で、かつて水面下に潜んでいた暗黒勢力が動き始めた。熱い鍋の上の蟻のように頻繁に足取りを速め、至る所に眼線を張り、独自の諜報網を張り巡らせた。この瞬間、世界の地政学的な均衡は静かに微妙な揺れを見せ始めた。
ところが、人々が「民国万歳」を叫び続け、孫文大統領が旧社会の陰を払いのけてくれることを熱望していた最中、その熱気がまだ冷めきらないうちに、ある悲報が雷のように全土を襲った。
民国初期の四月一日。この日は多くの人にとって忘れがたい日となった。孫文先生が正式に臨時大統領を辞任するという通告が発表されたニュースが、まるで疫病のように蔓延し、人々の心を蝕み始めた。それはウイルスが骨髄の隅々まで侵食するかのように、力強く浸透した。あたかも元気に活気に満ちた若者が、思い切り働こうと意気込んだ矢先に、急に不治の病を宣告されるかのように、まるで神が突然世界と小さな冗談を交わそうとしたかのような衝撃だった。
元清川は、三民主義を絶対的に信奉する者として、「三民主義」の揺るぎない擁護者でもあった。彼は、救国運動のために台湾海峡を越え、遥かな道のりを越えて大陸へやってきた青年将校だ。この日、新任大統領の親信による権力移行式典の最中、彼は周囲の注目を浴びながら軍営を飛び出した。仲間たちの愕然とした表情も、上官の厳しい制止の声も、すべて耳に入らず、心に留めなかった。そして軍営外の崖へと駆けつけ、声を荒らして空に向かって叫び上げた。涙は場面を問わず溢れ出し、止まらないほどだった。
「中山先生のいない民国なら、袁大頭(袁世凱)の一人専制の匪軍閥に任せればいい。」
すると、重厚で力強い声が響いた。元清川は体を震わせ、振り返ると、そこには同連隊の直属長官・孫堯が立っていた。孫堯は孫文先生と同じ広東出身で、最初期から救国運動に従事した数少ない古参だった。元清川が台湾から大陸へやってきて孫文先生に従うことを決意した際、孫堯は自ら孫文先生に推薦し、ついに先生の顔を拝む機会を得させてくれた。その恩を受け、元清川は興奮のあまり一晩中眠れず、翌朝の訓練に欠席したため、上官に激しく叱責され、一週間も台所の手伝いを命じられたことを思い出した。
「孫堯?お前、一体何を言い出すんだ?」元清川は立ち上がり、孫堯の襟首をつかみ、歯を食いしばって一語一語を叩きつけた。それは高所から落ちる小石のように、力強く響いた。
孫堯は口角を上げ、皮肉を込めて笑った。「そうなら、君は自分が築き上げた理念を裏切り、三民主義の精神に反し、次善の策として袁世凱のそのような匪軍閥を擁護するつもりか?」
「それに、大逆不道と言うなら、君の今日の行動も負けず劣らずだ。新任の長官が意気込んで三把火を焚こうとしている最中に、式典の最中に勝手に姿を消し、長官の顔を潰すなど。上官に逃兵罪で処罰しようと言われたそうだが、周囲が止めなければ死刑になっていただろう。まあ、死罪は免れたが、厳罰は避けられない。僕が営を出るとすぐに、君を捜索する部隊を派遣した。」孫堯は元清川の肩を叩き、彼の鋭い視線に応えるように冗談めいて言った。
元清川は気落ちした様子で崖の方へ背を向け、数歩進むや否や、急に地面に伏して頭をつけた。
「僕は中山先生に従い、危機に陥った国家を救うために台湾を離れた。母と祖父母が涙を流しながら見送る中、遥かな道のりを越えて海峡を渡ってきた。それは中山先生が民国を率いて新時代の輝きを切り拓くその日を目撃するためだった。でも今、中山先生がいなくなった。僕の三民主義への信仰は揺るぎないが、袁世凱の走狗になることは絶対に嫌だ。……おそらく台湾に帰ることになるだろう。家族のそばで、母の願いを聞き入れ、妻を迎え、子孫を育て、世俗の煩わしさから離れて平穏な生活を送る。」
話し終わるや否や、激しいパンチが飛んできた。元清川はその衝撃で倒れ込み、頭がぼうっとした。手で後頭部を撫で、力を込めて振り回しながら、憤りに震える目で孫堯を見上げた。孫堯の爪から流れ出た血が、枯れ草の生えた崖に鮮やかな赤い跡を残していた。
怒鳴り返そうとした瞬間、孫堯の表情は急に落ち着き、大股で立ち去った。残されたさりげない一言が、まるで空から落ちてきた隕石のように、死んだような沼の底に再び波紋を広げた。「君を見誤った。」
夜が急に訪れ、元清川はまるで望夫石のように、眼前の果てしない暗闇をじっと見つめながら、崖に跪いて動かなかった。荒々しい山風が体を包み込んでも、彼は微動だにしなかった。台湾が今なお帝国主義の植民地支配下で苦しんでいること、台湾を離れる際に母と祖父母に約束した言葉を思い出し、元清川は拳を握りしめて崖に血を付け、そして暗闇の中へと消えていった。
在外で元清川の逮捕を担当していた者たちが次々と帰営し、報告を行った。直属の長官である孫堯は、二人の凶悪そうな警備兵に挟まれ「護送」される形で、壮大な軍帳の中へと連れて行かれた。待ち受けているのは、根拠のない罪状での糾明なのか、それとも巧妙な策略による対話なのか——。
帳内に入ると、正面の太師椅子に腰を下ろしていたのは、今朝、権力移行式典に威張り込み、大いに演説をぶつけようとしたところを元清川に冷たい顔で追い払われた袁世凱の腹心、馬喆陸軍少佐だった。油断臭い顔立ちで、太った腹が特に目立っていた。傍らには、あごひげを生やした中年男性が師爺ぶりで立ち、細目で背の高く立派な体つきの孫堯を上下にじっくりと観察していた。
孫堯は振り返り、兵士から渡された馬鞭を丁寧に手に取り、馬喆の前に差し出した。馬喆はそれを手に取り、なめらかに撫でながら、今日の悔しさを下級軍官の指導不行き届きの責任者である孫堯に晴らそうとする雰囲気だった。
「そこにいるのは、逃亡兵の元清川が所属する作戦連隊の連長、孫堯か?」馬喆は皮肉な口調で訊ねた。
「はい、その通りです。」孫堯は余計な説明をせずに答えた。
孫堯が落ち着いた様子で質問に応じるのを見て、馬喆は急に立ち上がり、太った腹が勢いよく揺れながら階段を駆け下り、手にした馬鞭を孫堯の顔に向かって疾走させた。赤い跡が孫堯の頬に焼き付き、血が口角から垂れ落ちたが、孫堯は平然と舌で血を舐めながら訊ねた。
「他に何か指示がありますか?」
この言葉に馬喆は激怒し、体が後ろに傾きそうになった。後ろにいた師爺が慌てて駆け寄り、必死に力を入れて馬喆の重い体を支えなければ、床に大きな穴が開くほど転倒するところだった。しばらくしてやっと体勢を整えた馬喆は、息を切らしながら邪魔な馬鞭を床に投げ捨て、師爺が持ってきた太師椅子に腰を下ろした。
「犯官の孫堯、軍紀を乱し、職務を怠り、特に部下の下級軍官を指導しなかったため、その横柄な態度を助長し、上官に反抗させた。さらには、今朝の元清川の無礼な行動は、君がそそのかして起こした軍事蜂起ではないか? 朕——いや、袁大統領に対する示威行為だろう? 正しいか?」
馬喆の根拠のない非難を聞いた孫堯は、落ち着いた正気な声で答えた。
「私は今の岳飛ではないし、閣下も秦檜ではない。なぜ冤罪をでっち上げ、当今天下の英明な大統領を誹謗するのか?」
この言葉は衝撃的で、「たとえ千万の人が立ちはだかっても、我は進む」という壮絶な雰囲気を漂わせた。帳内には緊迫した空気が漂い、わずかな火花でも大爆発を引き起こしそうなほどだった。
孫堯の堂々とした返答に、馬喆は額に冷や汗を流し、反論する言葉すら見つからなかった。