7.そして未発表ルートへ…
アラン・ギィズリードは自分の前世が日本の男子高生・新妻亜嵐だったこと、この世界が乙女ゲーム『おとせか』こと『聖女は世界樹の花を咲かせる』の世界であったことを思い出した。
明日は悪役令嬢との婚約を破棄し、聖女との婚約を発表する断罪イベント。
だがアランの推しは悪役令嬢の兄なのだ。
アランは推しを幸せにするため、そして自分も幸せになるために奮闘する!
「ロディお兄様、アラン、お待たせいたしました」
ぐだぐだしていると、ついにバレリアナのほうが迎えに来た。少し離れたところに、アルカンナもいる。
あぁ…時間だ。悲しいし、悔しいけれどここまでだ。
ごめんなアラン、と俺は過去の自分に謝った。お前の大好きなロディお兄様とはここまでだ。俺の推しでもあるけど。
「アラン、わたくしたちはそろそろ時間ですし、控え室に向かうことにいたします。パーティは予定通り。ただし婚約破棄は内密に。…これでよろしいかしら?」
「あぁ。それで問題ない。…いろいろごめん」
「かまいませんわ。参りましょう、お兄様、アルカンナ様も」
みんな行ってしまった。
これから…どうしよう。
7.そして未発表ルートへ…
アルカンナは間違いなくアランルートに入っていると思う。だがバレリアナの断罪イベントを回避してしまった今、もはやゲーム本編のシナリオからは外れてしまった。
今はゲーム前半の、比較的平和な時だがあと数か月もすれば魔王が復活し、ゲームの雰囲気はごろっと変わってしまう。そこからはアルカンナは本当に強い国の精鋭たちと魔王を討伐しに行くことになるのだ。それまでに、アルカンナのステータスをある程度上昇させなければならない。
ゲーム中では、アランルートのアルカンナはかなりアランとラブラブだ。その絆で大きく成長するのだが…
あ、そうだ。俺このあとレベル上げに向かったダンジョンで大怪我するんだ。
アルカンナは愛する人(アランこと俺だ)の大ピンチに聖女としての力を覚醒させ、俺が負った大怪我を治すんだけど…。
このイベント、大丈夫かな?
アルカンナは婚約していない俺のために、そこまでのパワーを発揮できるだろうか?
あくまでもこの力の目覚めはアルカンナの意図するものではないから…やっぱり婚約者とただの友人では、気持ちも違うよな…。
最悪、死…。
俺はさぁっと血の気が引くのを感じた。ぶるぶると指先が震える。
「…アラン!」
ぐるぐると考え込む俺に、声がかけられる。振り向くとそこにいたのはアルカンナだ。立っているだけで庇護欲をそそられるような、かわいらしい女の子。つい昨日までは心から愛していて、結婚まで考えていた子。
「ごめん、…私やっぱりアランと話したくて…」
「あ、あぁ…」
「私とは婚約しないって…言ってたの、本気なの?」
あぁ、ちゃんと話していなかった。
「ごめん。でもそのほうが良いと思って…、」
言いながら、段々気分が重くなる。
婚約なんてしても、どうせ数か月後には別れる運命であることがわかっているんだ。でも、ダンジョンイベントで俺は、もしかしたら…。
「アラン!」
ずんずんとアルカンナが近付いてくる。
「え、」
「私…応援する!」
「応援?」
「これからは、いいお友達になろう!私たち!」
ぎゅっ、と手を握られた。突然のことに、俺は頭がついていかない。
「応援?って…何を?」
「え…っと、アランの、人生を!」
「人生?」
どういうことだ?
俺はわけが分からず首を傾げたが、アルカンナはうんうんと頷く。
「婚約のことは、気にしないで。あ、でも、今まで通り特訓には付き合ってほしいんだけど」
特訓することで、アルカンナのステータスが上がるのだ。俺はもちろん、と頷いた。
「それは、もちろん。アルカンナが嫌じゃなければ」
「嫌なわけないよ!友達だもん!」
友達はこんなふうに手を握ったりしないんだけど…。アルカンナはずっと母親とふたりで暮らしてきたから、ちょっと距離感がおかしいところがある。
そんなところがかわいいんだけど。
「私、バレリアナ様とお話して仲良くなったんだよ。それで、バレリアナ様と、ローディアン様も一緒に特訓に行ってくれることになったの」
「え…えっ!?」
アルカンナが、バミッド兄妹と特訓?しかも、そこに俺もいる!?どういうルートだそれ。
「だから、4人でダンジョン行こうね。本当に、私のことはただの友達と思ってくれていいから。それだけ言いたくて…じゃ、またね!」
アルカンナはにっこり、笑顔で俺に手を振りながら去って行った。
あぁ、そんなに走って…。淑女たるもの、常に優雅でなければならないのに…。
ていうか、え?
ちょっと俺の知らないルートに入っているようだった。