6.他人になる
アラン・ギィズリードは自分の前世が日本の男子高生・新妻亜嵐だったこと、この世界が乙女ゲーム『おとせか』こと『聖女は世界樹の花を咲かせる』の世界であったことを思い出した。
明日は悪役令嬢との婚約を破棄し、聖女との婚約を発表する断罪イベント。
だがアランの推しは悪役令嬢の兄なのだ。
アランは推しを幸せにするため、そして自分も幸せになるために奮闘する!
屋敷の中は今夜のパーティの準備で忙しい。
俺はロディと庭に出ることにした。子供の頃、初めてロディに会った庭。思い出して、俺はなんだか変な気持ちになる。
「…ロディ様。こんなことになってしまって、申し訳ありません」
「…残念だよ」
ロディは嫌みではなく、本当に悲しそうに目を伏せた。愁いを帯びたその表情は、うっとりするほど美しい。思わず見とれてしまいそうになるが、俺のせいだとおもうと胸がズキズキと痛んだ。
「きみの本当の兄になりたいと、ずっと思っていたんだ。…僕には弟がいないから」
それは俺も同じ気持ちだった。アランとしての俺の記憶が、ロディとバレリアナの3人で過ごした日々を覚えている。
年の離れた実のふたりの兄より、ロディとバレリアナのほうがよほどきょうだいのようだったのだ。両親もそれを喜んでいた。いろんな人の期待を裏切ってしまうのが心苦しい…。
「ロディ様…」
「もうお兄様とは呼んでくれないか」
いっそう悲しげに、ロディは言った。
ふたりきりの時だけ、アランはロディを『ロディ兄様』と呼んでいた。呼んでいたけれど…。
「もう私に、そんな資格はありません…」
将来は兄弟になるはずで、親しくしていたのだ。バレリアナとの婚約を破棄すれば、もうただの他人でしかない。
「そうか…」
ロディの耳に心地よい声が、虚しく空に吸い込まれているように感じた。
6.他人になる
もうバレリアナとアルカンナの話は終わったのだろうか。
ロディは言葉もなく、佇んでいる。もう部屋に帰ればいいのかもしれない。でも、この時間が終われば…もう本当に、ロディと他人になってしまう。
アランの記憶が、それは嫌だと訴える。大好きな兄を失いたくないと。だが、どちらにしろロディとはこれまでだ。
バレリアナと婚約破棄しないというストーリーは、アランルートにはない。むしろ、バレリアナが理性を取り戻している今が最善だろう。
このままアルカンナを友人としてサポートして…魔王との戦いに向かう彼女を送り出す。
その後のストーリーは、アランにはない。そこからは、自分でどうにかしないといけないのだろう。
だがどうなろうと、バレリアナとロディの人生が少しでもマシになったなら、本望だ。
でも…やっぱりさみしいなぁ…。