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5.婚約破棄イベント終了

アラン・ギィズリードは自分の前世が日本の男子高生・新妻亜嵐だったこと、この世界が乙女ゲーム『おとせか』こと『聖女おとめは世界樹の花を咲かせる』の世界であったことを思い出した。


明日は悪役令嬢との婚約を破棄し、聖女との婚約を発表する断罪イベント。


だがアランの推しは悪役令嬢の兄なのだ。


アランは推しを幸せにするため、そして自分も幸せになるために奮闘する!

好きじゃん…!


ゲームが始まる前になんてイベントしてるんだ、俺…!推しが尊すぎる!!


「なんて顔をしていますの?」


バレリアナの呆れた声が、俺を現実に引き戻した。


「あ、いや…その。ともかく。それは誤解だよ。俺がロディ様を、…」


好きだなんて。


いやぁなんだか今日は暑い。


「あなた、ご自分の顔をご覧になったら?見ているこっちが照れてしまいますわ」


わー俺のバカ!でも推しのビジュがよくって…気持ちをおさえるなんて無理!


「別に問題ないでしょう。アランもロディお兄様も跡継ぎというわけでもありませんし。むしろ…今まであなたの気持ちに気付けなかったこと、謝罪いたしますわ」

「え、いや…そんな」


あれ、この世界って男同士とかに抵抗ないのか。そういう世界だったんだ。それは知らなかった。

確かに俺は三男だし、ロディは次男。しかもバミッド家の長男は年齢が離れていて、父親の仕事をかなり実践的に手伝っているとか。跡継ぎとしては俺もロディも出る幕がないってことだ。


いやでも、本当にそうじゃない。俺はロディとどうこうなりたいとは思っていない。


そりゃあの顔に迫られたら、コロッといっちゃうだろうけど…でもそんなの全人類そうだ。あの顔だもん。


「あぁ、わたくしを気遣ってくださってますのね。大丈夫ですわよ、わたくしなら。あの女に盗られると思ったら無性に腹が立ちましたけど、そもそもわたくしたち熱烈な恋人同士というわけでもありませんでしょう?」


バレリアナとは子供の頃からお互いに知っている中だけど…確かに、愛し合っている恋人同士というわけではない。婚約者同士なんてそんなものだ。貴族同士で恋愛結婚をする人もいるが…ごくまれだ。


「想いあっている人同士が恋人になったほうが、絶対にいいですわよ」


あぁ、バレリアナは恋愛にあこがれているのか。

幼い頃に婚約者を決められて、他の人を想うなんて考えたこともない。そんな生活で、誰かを想い想われる…そんな生活を夢見ているのかもしれない。


「その様子だと、まだお兄様に気持ちを伝えていないのでしょう?」

「あぁ、まぁ…」


そりゃ、そんなんじゃないから…。


「わたくし、応援しますわ!」


5.婚約破棄イベント終了


「わたくしたち、婚約を破棄することにいたしましたの。円満に」


別室で待ってもらっていたロディとアルカンナにそう告げた。


「婚約破棄って…」

「申し訳ありません、ロディ様!」


険しい表情のロディの言葉を俺は遮った。ロディの言葉を遮るなんて、俺は普段絶対にしない。それだけに、ロディはとても驚いたようだ。


「すべて私の不徳の致すところです。私は聖女候補であるアルカンナ嬢が力を伸ばせるようサポートしておりました。国に仕えるギィズリード家の者として、それが最優先だと思ったからです。ですがそのためにバレリアナ嬢を蔑ろにしてしまいました。そのために彼女の心を傷付けてしまったことは、深く反省しております」

「…アラン、頭を上げて」


ロディは珍しく戸惑った声音で、俺に頭を上げるように言った。


「そうですわ、アラン。今回のことは、あなただけの責任ではありません。わたくしにも悪いところがありました。…だから、お兄様。わたくしも、アランも、少し落ち着いていろんなことについて考えたいと思いましたの。お互いのために。それで、婚約破棄しましょうということになりました。……アルカンナ様」


バレリアナはアルカンナに向き合った。アルカンナはびく、と身体を震わせる。アルカンナにとって、バレリアナはまちがいなく自分をいじめた相手だ。その事実は、変わらない。


「あなたにした、いろいろな…嫌がらせについて、謝罪いたします。申し訳ありませんでした」

「え…っ」


バレリアナが頭を下げた。

これには、この場にいた全員が驚いた。バレリアナはとてもプライドが高い。同級生や、ましてや平民であるアルカンナに頭を下げるなんて…彼女の性格を考えれば、ありえないことだった。


「バ、バレリアナ様…、」

「わたくしは、本当に…どうかしていました。あんなひどいことを、なぜできたのか…でも間違いなく、わたくしがやったことですわ。どうか、謝罪を受け入れてください」

「私は、あの…っ、もう、なにもされないならそれでいいです!バレリアナ様、頭を上げてください!」


アルカンナの言葉に、バレリアナはようやくゆっくりと頭を上げた。


「わたくしがしたことは、なかったことにはなりません。でもそのかわり…これから、わたくしができる限りのサポートをさせてくださいませ」

「え…っ、えぇ…っ!?」

「お兄様、問題ありませんわね?」

「あぁ、それは…バレリアナの良いように。だが…」

「それで…アルカンナ様。ちょっと相談したいことがありますの」

「相談ですか?」

「そう。アラン、お兄様。…ちょっとアルカンナ様とふたりきりにしてくださる?アルカンナ様、あなたを決して傷つけたりしないから、ふたりで話せるかしら」


バレリアナの言葉に、アルカンナは少しおびえるような表情を見せた。

だが、ここが俺の家であることを思い出したからか、おずおずと頷いた。


「ありがとう。アラン、お兄様。申し訳ありませんが…」

「あ、あぁ…席を外すよ。ロディ様、こちらへ…」


ふたりで話したいというのは、打合せしていなかった。なぜバレリアナがそんなことを言いだしたのかはわからないが…彼女に任せよう。

バレリアナは元の、聡明な彼女に戻っているように俺には見えた。ひっそりと婚約破棄の打診をしたことで、彼女への瘴気の影響がもしかしたら薄れたのかもしれない。

念のため、扉の近くにメイドを控えさせて俺はロディと一緒に部屋を出た。


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