3.世界一ビジュが良い俺の推し、ロディ様
アラン・ギィズリードは自分の前世が日本の男子高生・新妻亜嵐だったこと、この世界が乙女ゲーム『おとせか』こと『聖女は世界樹の花を咲かせる』の世界であったことを思い出した。
明日は悪役令嬢との婚約を破棄し、聖女との婚約を発表する断罪イベント。
だがアランの推しは悪役令嬢の兄なのだ。
アランは推しを幸せにするため、そして自分も幸せになるために奮闘する!
あ、推しのいいとこ語り良いですか?
まずビジュが良い。世界一のビジュ、常に世界一で、毎分毎秒最高を更新し続けるすばらしい推し。髪はサラサラの金髪で、肩につくかつかないかくらいの長さ。少し太めの眉が凛々しい。瞳は吸い込まれそうなアイスブルー、切れ長で涼しげな目元が惚れ惚れするほどかっこいい。それから、彫刻のような横顔も美しい。すっと通った鼻筋がすばらしくて課金させてほしい。ちょっと酷薄そうな薄い唇もまたいい。お肌はもちろん、すべすべ。顔だけじゃなく、身体付きもバランス良く均整がとれていて、頭は小さいし、手足が長くてすらりとしている。
は~~~ビジュが良すぎる、俺の推し。すばらしい。
3.世界一ビジュが良い俺の推し、ロディ様
「ぶしつけにすまないね、アラン。大きな声が聞こえたものだから、入らせてもらったよ」
ロディの向こうに、困った顔のメイドがいる。メイドにはロディは止められないだろう、仕方ない。
「いえ…、こちらへどうぞ、ロディ様」
部屋の主として俺はロディに椅子を勧めた。俺ができることと言ったらそれくらいだった。
「ありがとう、わが義弟どの」
にこり、と微笑みかけられる。うわ…っまぶしい…!
すごい、ゲームだと限られたスチルしかないのに、この世界では毎秒新規絵だ…うそ…うれしい…。
「ところでね、ちょっと信じられないことが聞こえてきたのだけど…なんでも、バレリアナとの婚約を、解消したいとか」
唇は微笑みの形のまま、ロディは並んで座る俺とアルカンナに射貫くような鋭い視線を向ける。
か……っこいい、けど、怖い!
そうだ、これもロディ様のいいところだ。
冷たそうに見えるが、ロディ様は実はとても妹想い。もちろんロディはビジュもいいが、俺はビジュだけでロディ推しになったわけではない。断罪された妹をかばう姿、修道女になった妹を思って涙を流すその美しい心に感銘を受けたのだ。同じ妹を持つ兄(前世)として…。
「あ、の…ロディ、様」
「ん?」
あぅあぅそんな目で見ないでください!どうしたらいいかわかりません!
「アランは私と婚約してくれると、言ってくれました」
「ん?君は…あぁ、聖女候補の。直接話すのは初めてだね」
「私のこと、ご存知なんですか?」
「もちろん」
「…!うれしいです!」
って、え?
待って待って、なんかいいムードじゃない?
いや待て。そうだ。ロディルートは前半でアランルートに入っていることが条件。いまこのふたりにはフラグが立っている状態なのだ。
待って待って待って…、それは良くない。良くないよ…。
赤くなったり青くなったりしているであろう俺を、バレリアナは怪訝な顔で見る。あぁ、きっと俺が滑稽に見えているんだろうな。でも、このままだといったいどうなるんだ。バレリアナは。そしてロディは…。
「待ってくれ、アルカンナ。俺は学園生活で、これからも君をサポートするつもりだ。だが婚約というのは…ちょっと、考え直させてほしい」
「…え?」
アルカンナは大きな目をさらに見張って、俺を見た。
あぁ、まっすぐなその視線が痛い…。でも、俺だって傷つきたくない。だって俺は学園卒業と同時にフラれるのが確定しているんだから。
「そんな、私なにかした?アラン、私のこと嫌いになったの?」
「そうじゃないよ、アルカンナ。でもバレリアナと婚約破棄してすぐに君と婚約なんて、良くないと思ったんだ。俺だけじゃなく、君の評判も落としかねない」
「評判なんて!私、アランのこと好きなんだよ」
「それは、もちろん分かってる。でも聖女候補の君には、どんな形であれ傷ついてほしくないんだ」
「ちょっと、いいかしら。アラン」
ヒートアップしそうな俺たちを、バレリアナが遮った。
さっきまでの甲高い、怒り狂った声じゃない。バレリアナの様子に、俺もアルカンナも思わずぴたりと動きを止める。
「少しだけ、ふたりで話したいのだけれど」