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27.エンディング3

アラン・ギィズリードは自分の前世が日本の男子高生・新妻亜嵐だったこと、この世界が乙女ゲーム『おとせか』こと『聖女おとめは世界樹の花を咲かせる』の世界であったことを思い出した。


明日は悪役令嬢との婚約を破棄し、聖女との婚約を発表する断罪イベント。


だがアランの推しは悪役令嬢の兄なのだ。


アランは推しを幸せにするため、そして自分も幸せになるために奮闘する!


北の森の調査は順調に進んでいるようだ。


俺は届いた手紙を読んでほっと息をついた。

『おとせか』のストーリー通りなら、世界が闇に包まれているはずの時期だが、実際はゲーム後半のおどろおどろしい空気とはまったく違う。

俺は手紙を運んでくれた魔鳥専用の餌を小さな餌箱にいれた。鮮やかな羽根の鳥は、嬉しそうに餌箱をつつく。頭をちょいちょいと指先で撫でると、高い声でくるる、と鳴いた。


「ふたりは、なんて?」


ロディの声で、俺は顔を上げた。

今日はいろんな人を呼んで、こまごまとした打合せをしていた。その最中に手紙が届いたので、一旦休憩にしてもらっていたのだ。ロディは急かすでもなく俺の向かいのソファに深く座って、ゆったりと口元にティーカップを運んだ。


*エンディング3


ロディは今日も顔が良い。最近はもろもろあって毎日見ているが、毎日美しい。

俺はうっとりとロディの顔を眺めてしまう。


「…アラン?」


はっ

ぼーっとしていた。


「あ、あの、予定通り帰ってこれそうだと」


俺は手紙をたたみながら、慌てて言う。

ふたりの帰還に合わせて俺たち…というかバミッド家・ギィズリード家の両家の主催で正式に婚約披露パーティを行うことになっていた。


最近はその打合せで、毎日バタバタしているのだ。


「みんな大きな怪我もなく帰ってこれそうで良かった」

「はい。本当に…」


アルカンナとバレリアナからは、時々手紙が届く。『おとせか』の世界では、この調査に入ってすぐに魔王の復活の兆候が見え、国全体が混乱に陥っていた。だが、アルカンナたちは北の森に入ってすぐ瘴気の湧きどころを見つけて浄化し、被害が広がるのを防いだそうだ。今はところどころにある小規模に瘴気が湧いている場所を探して、こまめに浄化を行っているらしい。だがそれも、もう数日で一旦の区切りを付けられそうとのことだ。


「バレリアナたちが喜ぶような、素敵なパーティにしよう」


ロディは嬉しそうに言うが、正直まだ俺には実感がない。

結婚…って、本当にするんだろうか。俺が?推しと?


結婚ってことは、毎日ロディと会うのか。毎日一緒にご飯を食べたり…くだらない話をしたり…なんか…何するんだろう…。ちょっと想像つかないけど、とにかく毎日めちゃくちゃ一緒に時間を過ごしちゃうんだろう…。


えっ…俺の心臓大丈夫か…?


「やばい…」


想像しただけで喉から心臓が出てきそうで、慌てて口を押さえた。


「アラン?大丈夫?」


ロディが心配そうに俺を見ている。俺を見てるっていうだけでやばいんだから…。


「だ、大丈夫です。ちょっと、胸が苦しくて…」

「え?本当に?医者を…」

「いや、大丈夫です本当に!あの、病気とかじゃなくて…、その、いまだに信じられなくて。ロディ様と…けっ、こん…するっていうのが…」


結婚、と口に出すだけでいまだにかぁっと頭に血が昇る。

どうにもこんな反応をするので誤解されてしまっている気がするが、俺は断じて夢男子ではない。ただ、誰でもロディと結婚するなんてことになったら、こんな反応になってしまうだろう。

こんなに顔がいいのだから。


「胸が苦しいくらい、幸せってこと?アランはかわいいことを言うね」


俺は剣術が得意なれっきとした男で、かわいいわけがないと思うが。


「あの…本当に、良いんですか。俺で…」


いくら子供の頃から親しかったといっても、結婚とかを意識していたわけではない。俺は、まぁ…いくら夢じゃないって言っても、それ推しなわけだし…棚ぼたとも言えるけど…。    

「まだ信じていないんだ。アランって、けっこう強情なところもあるよね」

「だって、ロディ様は、身分も高いし、見た目もきれいだし、優しいし…俺じゃなくても……」


俺だって、そりゃ伯爵家の人間だけど三男だし、見た目…は悪くないけど、きれいだったりかわいいご令嬢は他にもいっぱいいるし、性格も普通だし…。


「俺は、アランがいいんだよ」

「……」


う~ん…。

そんなこと言われても、謎でしかない…。


思わずじとっ、とロディを見る。

卑屈になっているわけはないけど、俺がいいって言われる理由なんて…。


ふふ、とロディが笑ってティーカップをテーブルに置いた。

立ち上がって、俺のとなりに座る。俺が座っていたのは大人が3人はゆったりと座れるような広いソファだったけど、ロディはせっかくの広いソファにもかかわらず、ぴったりとひっついてきた。


最近、ロディはなにかと距離が近い。

俺は平静を装ってはいるけど、その度にいちいち心臓が口から飛び出てこないように慌ててぐっ、と口を噤んでいる。


「こっちを向いてよ、アラン」


くい、と顎に手を添えて逸らしていた顔をロディのほうに向けさせられた。

わー!推しの顎クイやば!てか顔ちか!


「僕は、気が長いほうだからね」

「はぁ…そうですね…」


「だから、ゆっくり待てるよ」

「は…なに、が……」


待てるとは、何を。

俺が話している間も、ぐんぐんロディの顔が近づいてくる。

ぐんぐん、ぐんぐん。

俺は思わず口を閉じた。もし万が一、唾が飛んだりしたらまずいと思って…。


そんな俺の気遣いに気付いているのかいないのか、まだまだロディの顔が近づいてくる。

いや、本当に!近い近いちか……。


むちゅ。


やわらかい感触がした。

唇に。


俺は本当に、めちゃくちゃ近い位置にあるロディの顔を見る。

あんまり近いので、ふぁさ、とまばたきをした睫毛が触れたんじゃないかとまで思った。実際どうだったかはわからないけれど。


「とりあえず、明日から毎日学園の送り迎えをしていい?」


あぁ…もちろんです。

とりあえず、世界は平和そうだ。




END.


ここまで読んでいただきありがとうございます!


これで一旦このお話は終わりです。

機会があればスピンオフなども書きたいと思います。

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