22.食事会
アラン・ギィズリードは自分の前世が日本の男子高生・新妻亜嵐だったこと、この世界が乙女ゲーム『おとせか』こと『聖女は世界樹の花を咲かせる』の世界であったことを思い出した。
明日は悪役令嬢との婚約を破棄し、聖女との婚約を発表する断罪イベント。
だがアランの推しは悪役令嬢の兄なのだ。
アランは推しを幸せにするため、そして自分も幸せになるために奮闘する!
しばらくゆっくりとしていると、メイドが俺たちを呼びに来た。準備がしてある広間へと向かう。
広間には大きなテーブルがあって、一番奥のいわゆるお誕生日席に、ロディとバレリアナの両親であるバミッド侯爵夫妻。長い辺の奥から、アルカンナ、バレリアナ、ロディとバレリアナの兄君、そして空席。長い辺の手前側に俺の両親、長兄、次兄、そして空席。
この空席に、俺とロディが座るのだろう。
「お待たせいたしました」
ロディが頭を下げるのに、俺も倣う。まさか俺たちが最後だとは。
すでにそろって談笑していた面々は、俺たちに優しいまなざしを向けた。
「かまわないよ。色々と準備もあるだろう」
余裕のある声音で言ったのは、この場の主人であるバミッド侯爵。バミッド侯爵はさすがロディの父親だ。背が高くてとてもかっこいい。
別に俺たちはだらだらしていただけで準備なんてないけど…ちょっとした無作法も、身内なら許す優しい人なのだ。
ロディが年をとったらこんな感じなんだろうなー…と俺はちょっと見とれた。
*食事会
「今日は疲れただろうが、なかなかちゃんとした食事もとれなかっただろう。バレリアナと、アルカンナ嬢の好物ばかりを用意したから楽しんでくれ。
出発は3日後だ。今日はゆっくり語らおう」
乾杯、と言うバミッド侯爵の声に合わせてグラスを持ち上げる。すぐさま料理が運ばれてきて、食事会が始まった。
席順については妥当なところだが、アルカンナたちとは話せそうにない。
「ていうか、小兄様も呼ばれてたんだ」
「あぁ、まぁ」
長兄は王城での壮行会に出席したまま来たんだろうけど、次兄はなぜ呼ばれたのだろう。アルカンナともバレリアナとも、あまり関わりがないのに…次兄だけ呼ばないのもかわいそうだと思われたんだろうか?
バミッド侯爵は優しい人だから、ありえそうなことだけど。
「俺も家族だし…」
「…?そりゃそうだけど…」
家族は、今日はあんまり関係ないと思うけど…?
俺が話せるのはとなりの次兄か正面のロディくらいだが、ロディはなぜか口数が少ない。はりつけたような笑顔で、食事もあまり進んでいないようだ。
「ロディ様?あまりお腹が空いていませんか?」
「え?あぁ…」
「ロディ様もお好きな、鹿肉のパイですよ」
これはバレリアナの好物だ。香草の香りが良い。同時に、俺とロディの好物でもある。
「バミッド家の料理人の鹿肉のパイが美味しくて、いつもお願いして作ってもらっていましたよね。何か隠し味があるんだろうなぁ。うちのよりおいしくて…」
3人の思い出はたくさんある。
昔のことを思い出すと胸が詰まる。子供の頃には戻れない。バレリアナのことが心配だが、何も俺にできることはないのだ。
「……」
黙り込んでいるロディも、きっと俺と同じ気持ちなんだろう。
なんとか励ましたくて話を振っても、ロディは上の空だ。空回りしている。
そっとしておいたほうがいいのかな…と、俺が口をつぐんだ時、ロディはナイフとフォークを置いた。
「……アラン」
「はい、ロディ様」
呼びかけられたと思ったら、ふいにロディが立ち上がった。
食事中に立ち上がるなんてどうしたのだろうと思っていると、ロディは俺のとなりに来て「立って」と俺を促した。
「え?ロディ様?」
「お父様、お母様、ギィズリード伯爵夫妻。…みんな。私、ローディアン・バミッドは、アラン・M・ギィズリードと婚約いたします」




