18.進路について
アラン・ギィズリードは自分の前世が日本の男子高生・新妻亜嵐だったこと、この世界が乙女ゲーム『おとせか』こと『聖女は世界樹の花を咲かせる』の世界であったことを思い出した。
明日は悪役令嬢との婚約を破棄し、聖女との婚約を発表する断罪イベント。
だがアランの推しは悪役令嬢の兄なのだ。
アランは推しを幸せにするため、そして自分も幸せになるために奮闘する!
「本日は足元の悪い中、ご足労いただき…」
「どうしたのアラン。そんなにカチコチになって」
「えっと…」
だって、なんだか久しぶりで。
一時期は毎日のように見た顔で、毎日見ても顔が良いな~なんて思っていたが、久しぶりに会うとやっぱりその顔の良さに打ちのめされる。
眩しくて目が開けられないが、俺はめちゃくちゃ頑張って平静を装っていた。
*進路について
俺はバレリアナの助言通り、ロディに手紙を書いた。
まずは看病のお礼。それから、改めてわが家に招待して、直接お礼を伝えさせてほしいと。
返事はすぐに届き、週末ロディがギィズリード家に来ることになった。
「あの…本当は両親も、ロディ様にぜひお礼をと言っていたのですが、急遽王城からのお召があり…」
「あぁ、うちの両親も呼び出されたから知っているよ。大丈夫。それにギィズリード家からのお礼なら、正式に受け取っているから」
「とはいえ、本当にお気にかけていただいて…なんとお礼を言ったらいいか…」
「しおらしいね。あんなに迷惑そうだったのに」
「迷惑だなんて…!」
俺はぎくりと身体をこわばらせた。
ちょっと過保護すぎると思っていたのは、正直図星だったからだ。
「いや、僕もかまいすぎたかなと反省していたんだよ。嫌われたのかなって」
「そんなわけありません!」
それは断じて違う。
ロディは俺の一推しなのだ。俺は一度推すと決めたら、簡単に推しを変えるタイプではない。
「ロディ様が、俺を心配してくださったことはわかっています」
「そうかい?」
「はい。ダンジョン内で、俺の油断から怪我を負ってしまい、本当に申し訳ありませんでした。アルカンナが回復魔法をかける間、ロディ様が魔物を退けてくださったと聞いています。俺は自分の回復に精一杯で、ずっとそばにいてくださったのにきちんとお礼もできず、子供っぽい態度を取ってしまいました。ロディ様は命の恩人なのに…」
「大げさだよ」
「大げさではありません!一生かけても、お礼していきたいと思っています」
「…一生かけて?」
ふふ、とロディが笑う。
「じゃぁ、ひとつお願いをしようかな」
「俺のできることなら、なんでもします!」
「なんでもかぁ…」
なんでも、と繰り返すロディは楽しそうだ。
「本当にいいの?アランの卒業後の進路のことだけど」
「進路ですか?」
そういえば、この間進路のことを聞かれたな。
俺は騎士団の試験を受けるつもりだと答えたけど、ロディは俺に部下になってほしいんだろうか?
「俺で、お役に立てますか?」
「もちろん」
ロディの仕事内容を詳しくは知らないけど、どちらかというと事務方だと聞いている。
俺の学業の成績は、極端に悪くはないけど良くもない。剣術の方が得意だから騎士に、と思っていたけど、絶対に騎士になりたいと強い希望を持っているわけではないし、父も三男である俺には好きにしろと言っている。
もしロディに強く望まれるのであれば、今から事務官の勉強をしたっていい。
「では、お受けします」
「本当に?!うれしいよ!」
ロディは珍しく少し大きな声を出した。そんなに喜んでもらえるなんて、俺も嬉しい。ロディは穏やかな人だけど、どちらかというといつも静かに微笑んでいるタイプだから、こんなふうに喜びを全面に出すのは珍しかった。
俺も推しの満面の笑みが見れてうれしいです!
卒業までもう間もないけど、これからは剣術より勉強を頑張ろう…と俺は誓った。