14.過保護な俺の推し
アラン・ギィズリードは自分の前世が日本の男子高生・新妻亜嵐だったこと、この世界が乙女ゲーム『おとせか』こと『聖女は世界樹の花を咲かせる』の世界であったことを思い出した。
明日は悪役令嬢との婚約を破棄し、聖女との婚約を発表する断罪イベント。
だがアランの推しは悪役令嬢の兄なのだ。
アランは推しを幸せにするため、そして自分も幸せになるために奮闘する!
「アラン、ほら。口を開けて。あーん」
「あ…あーん…?」
フォークに刺さった桃が差し出される。
いまいち状況が呑み込めていない俺が口を半開きにすると、ぎゅぅ、と半ば強引に桃が押し込まれた。
しっかり熟した桃の果汁が顎に垂れる。
「あぁ、ちゃんと口を開けないから。こぼれてしまったよ、もう」
幼児のように顎を拭われて、もう一度。
「あーん」
にっこりと眩しい笑顔で俺に桃を差し出す推し。
俺は今度こそしっかりと口を開けて、しっかりと桃を口に入れてもらった。
*過保護な俺の推し
ダンジョンでのアラン瀕死イベント以降、おそらくいろんなことが起きている。ゲームではダンジョンで一気に力を覚醒させたアルカンナが、聖女候補から正式な聖女にすべきだと王宮で議論されはじめるのだ。そしてそれに伴って王子や騎士など新たな攻略対象に出会い、俺とは疎遠になっていく。
おそらくその流れが進んでいる。
ただしゲームと明らかに違うのが、アルカンナがバミッド侯爵家預かりになったことだ。知らない内にアルカンナとバレリアナがかなり親しくなり、バレリアナがアルカンナを公私ともにサポートする立場になっているとのこと。貴族社会の常識を知らないアルカンナはかなり助けられていると、先日アルカンナに手紙をもらった。
もはやアルカンナは気軽に俺に会いに来れるような立場ではなくなってしまった。それでも、せめてと手紙をくれたのだ。
その手紙を持ってきてくれたのは、ロディだ。アルカンナにかわって、なぜかロディが頻繁に俺を訪れるようになっていた。
「ロディ様。…俺は本当にもう大丈夫です。医師からも、そろそろ訓練に戻っていいと言われていますし」
ダンジョンでのイベントから1週間ほど経っている。
意識が戻った時点で身体的にはほぼ問題がなかったから翌日から学園にも登校しているし、念のためと止められていた身体を動かす鍛錬も、週明けから開始していいと許可が下りた。
それなのに毎日仕事の後にロディはギィズリード邸に寄り、寝台に押し込めるのだ。
これは、…看病ごっこ?
確かに乙女ゲームでは、看病イベントはわりとあるけど。最初は甲斐甲斐しい推しが見れてラッキー☆って喜んでいたけど。
さすがにこうも続くと、過保護すぎない?と思うわけで。
もう大丈夫です、と看病をやんわり拒否する俺の言葉を聞いたロディは、輝くような笑顔をふっ、と消してそれは悲しそうな顔をした。
「…そうか。さすがに毎日通うなんて、迷惑だったね」
「えっ、いや…迷惑ってわけじゃ、」
あぁ、待ってくれ。そんなに悲しい顔をしないでくれ、俺の推し。
せっかくの美しい顔が曇るのを見たくない。
「僕ももう大丈夫だと、本当はわかってるんだ。でもね、…あの時の光景がふとよみがえってきて…」
ロディはぎゅっ、とフォークを強く握った。少し震えているようにも見える。
…うわ、罪悪感ヤバい…その顔でそんなしょんぼりされたらさぁ…!
「でも、これじゃぁアランにも迷惑をかけてしまうね。やめないと」
「その、心配してくださっているのはありがたいのですが…」
「じゃぁ、ひとつだけお願いしてもいい?」
ロディはフォークを置いて、今度は俺の手をぎゅっと握った。
どんなお願いでも、断れるわけないよこれは…。




