13.瀕死イベント
アラン・ギィズリードは自分の前世が日本の男子高生・新妻亜嵐だったこと、この世界が乙女ゲーム『おとせか』こと『聖女は世界樹の花を咲かせる』の世界であったことを思い出した。
明日は悪役令嬢との婚約を破棄し、聖女との婚約を発表する断罪イベント。
だがアランの推しは悪役令嬢の兄なのだ。
アランは推しを幸せにするため、そして自分も幸せになるために奮闘する!
遠くで俺を呼ぶ声が聞こえる。
あぁ、アラン瀕死イベントだ。ということは、俺は死にかけてるのか。痛い…という感じはない。頭がぼんやりして、もやがかかっている。
やばいな…。アルカンナはちゃんと回復魔法をかけられるのか…。せっかくダンジョンに行って、しかもこんな目に遭っているのだから、せめてアルカンナにはレベルを上げてもらわないと…。
つらつらとそんなことを考えながら、俺は意識が遠くなっていくのを感じていた。
*瀕死イベント
「アラン…」
呼ばれている。俺を呼ぶ声が聞こえる。
返事をしようと思うけれど、声が出ない。瞼がとても重く、目すら開けられない。
「すまない」
ぎゅぅ、と手が強く握られている。痛いくらいだった。
「すまない…」
絞り出すような悲壮感漂う声がなんだかかわいそうで、応えてやりたいのに声が出ないのが申し訳ない。そんなにつらそうな声を出さないでほしい。
俺は全力を瞼に込めた。
目の前に広がったのは金色。
今まで真っ暗だった視界がキラキラと眩しい色が広がった。
「ぅ……」
「…アラン?」
わずかに喉から漏れる声を、どうやらしっかりと捉えてくれたようだ。
俯いていた金色…ロディがばっと顔を上げた。いつもきちんと整えられた金髪が乱れているし、目の下に涙のあとが見える。
なんで泣いているんだろう?
「アラン!良かった、目を覚ましたのか」
「う…、ッ」
声を出そうとして、俺はゴホゴホと咳き込んだ。喉がヒリヒリしてうまく話せない。
ロディはすぐに気付いてくれたようで、水差しで水を飲ませてくれた。まるで病人だ。……そうだ、思い出した。アラン瀕死イベントだ。俺は…なんとか生き延びたのか。
「ありがとうございます、ロディ様。…バレリアナとアルカンナは、」
「あぁ、彼女たちは無事だよ。…ダンジョンで魔物に襲われたことは覚えているかい?」
「…なんとなく」
「そう。アランは本当にひどい怪我だったんだ。…一時は、本当に駄目かと思った。でも、
アルカンナ嬢が強力な回復魔法をかけてくれてね。なんとか一命をとりとめたものの、なかなか意識が戻らなくて…。数日は、アルカンナ嬢もそばにいてずっと回復魔法をかけてくれていたんだ。彼女は、あんなに強力な回復魔法を使えたのは初めてだと言っていた」
あぁ、アルカンナはレベルアップできたんだ。俺はほっと息をついた。痛い思いだけしてレベルアップしないんじゃ、意味がない。
「数日は粘ったんだが、呼び出されて仕方なく今朝学園に戻ったよ。バレリアナに付き添ってもらっているから、彼女のほうは心配ない。…それにしても」
ふ、とアランは力なく微笑んだ。
「意識が戻ってすぐ、他人の心配なんて…。きみも死にかけたんだぞ」
「すみません。…ご心配を」
「そうじゃなくて、…ふふ、きみらしい」
ロディは笑ったけど、また目尻からぽろぽろと涙をこぼした。
ベッドに横たわったままの俺の頬に涙が落ちる。
きれいな人は、泣いていても美しいんだなぁ、と俺はぼんやり思った。




