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11.馬上にて

アラン・ギィズリードは自分の前世が日本の男子高生・新妻亜嵐だったこと、この世界が乙女ゲーム『おとせか』こと『聖女おとめは世界樹の花を咲かせる』の世界であったことを思い出した。


明日は悪役令嬢との婚約を破棄し、聖女との婚約を発表する断罪イベント。


だがアランの推しは悪役令嬢の兄なのだ。


アランは推しを幸せにするため、そして自分も幸せになるために奮闘する!


俺たちが向かう予定のダンジョンは、街の門を出てすぐの所にある。そのため鍛錬のために訪れる人は少なくない。もし俺がひとりでダンジョンに行くとなったら、馬を使うだろう。だが今回はそうはいかない。

なにせアルカンナとバレリアナがいるのだ。この国では女性がひとりで馬に乗ることはほとんどない。そのため女性の移動は徒歩か馬車。貴族の令嬢であれば、自分の家で所有する馬車を使うことがほとんどだ。今回はバミッド家から中型の馬車を出してくれるとのことで、俺はその言葉に甘えることにした。


バミッド家は侯爵家だ。格下の伯爵家であるギィズリード家の馬車に乗せるわけにはいかない。

当日は俺がアルカンナを迎えに行き、自宅で待機。そこにロディとバレリアナが馬車で迎えに来てくれるという段取りだった。


だが、ふたを開けてみればギィズリード家に来た馬車は、馬2頭の小型の物だった。


「すまない、なぜか手頃な馬車が出払っていて…ダンジョンに行くのに大型の馬車はあまりに仰々しいだろう?女性ふたりが乗るには問題ないだろうから、私とアランは馬で向かうことにしてもいいか?」

「えぇ、もちろん問題ありませんが…」

「ごめんなさいね、アラン。私たちが馬に乗るわけにはいかないものだから…」


バレリアナは口では申し訳なさそうに言っているが、ロディの見えないところで俺に小さくウィンクをした。4人くらいが乗れるちょうど良い馬車なんて、バミッド家にはいくつもあるだろうに…俺たちをふたりきりにしようとして、バレリアナが何かしたのだろう。


「気にしないで…バレリアナ…」


確かに俺の心臓はバクバクしちゃうかもだけど。


*馬上にて


俺は厩舎から愛馬を引いてきて、馬車の後に続いた。ロディの愛馬と俺の愛馬は姉妹でとても仲が良く、久しぶりの再会に喜んでいるようだった。


「急なことだったけど、この子たちを久し振りに会わせてあげられてよかった」


ロディが優しい目で馬たちを見ているのを、俺はうっとりと見た。今日もやっぱり顔が良い。

ロディの美しさは、やっぱり自然光の元で一番映える。キラキラと陽光を跳ね返す金髪が美しい。何より、長い睫毛だ。睫毛の先まで神に祝福されたように輝いている。


俺はあくまでもロディとどうこうなるつもりはないが、やはり眼福。バレリアナたちの気遣いというか、策略というか、なんにせよまんまと幸せになってしまっていて悔しい。


「今日のダンジョン、アランは初めて行くの?」

「はい、学園ではあまりダンジョンに行くことは推奨されていないので…」


先を進む馬車の後をゆっくりとついていきながらの会話は、やや声を張らなければならない。

それでも低く耳障りの良い声は、聞いているだけでも幸せになれる。『おとせか』ではボイスはついていなかったので、キャラクターの声はどんなのだろうと想像しながらプレイしていたけど…。


優しくて、甘くて、良い声だ。もしロディが日本に転移したら、声優になってほしい。


「そうか、そうだったね。今回はアルカンナ嬢の鍛錬のために、特別に…ということか」

「はい。ロディ様はダンジョンに行ったことがあるんですよね。たのもしいです」

「行ったことがあるとは言っても、魔物と戦ったりしたわけではないからね。でも同僚からも色々と聞いてきたから、頼ってくれていいよ」

「ありがとうございます、ロディ様」


何気ない会話だ。

それなのに、ふとロディが俺をじっと見た。じーっ、と見つめられて、俺はちらちらとロディを横目で見ながら焦る。


何?俺なんかやらかした!?


「ロディ様…えっと…、何ですか?」

「前から気にはなっていたんだけど、アランって前より僕によそよそしいよね」

「えっ!?」


前、というのは…もしかして、亜嵐の記憶が戻る前、ということだろうか。

俺はうまくやっていないのか?だとしたら…まずい。


「前はもっと、『ロディお兄様は俺のお兄様なのに!』なんて言って、僕のことをバレリアナと取り合っていたよね。」


と思ったら、思いがけないことを言われた。

それって、もう10年前くらいの前の話だよな!?


「ロディ様、…それは子供の時の話で」

「だから、『お兄様はふたりの時だけ』って約束したのに。最近はそれもないじゃないか」


ぷん、と少し唇を尖らせるようすがかわいらしい。

う…っ美形の拗ね顔かわいすぎるんですけど…っ!致死量!


「やっぱり、僕はもうお兄様じゃないんだ」

「それは…だって、」


俺とバレリアナはもう婚約破棄してしまったのだ。まだ公にはなっていないけれど、両家の間でそれは正式に決定した。子供のうちに婚約をしても、それは絶対ではない。この国では、思春期になった貴族の子息の婚約破棄は珍しいことではなかった。だから両家ともすんなり納得し、円満に婚約破棄したのだ。両家のつながりは、子供の婚約だけではない。だからこそ、婚約破棄後もこんなふうに一緒にでかけたりできる。


「じゃぁ僕とアランは、今どんな関係になるの?」

「……それは、」


俺とロディの関係?

それは……。


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