私と叔父は仲が良くない。
私――藤島菜月――は助手席に座っていた。右側をチラッと見ると、運転席には男が一人座っている。
私の父方の叔父、藤島喜重郎だ。いつも通りのむっすりとした表情で、前方を見据えていた。
喜重郎は、運転席に座っているとはいっても、ハンドルを握っているわけではない。というか、ハンドル自体がついていない。
今のご時世、手動運転車に乗る物好きなど、ごく少数だ。自分で運転するのは面倒だし、事故を起こすリスクも高い。こういうのは全部AIに任せておけばいいのだ。
アクセルもブレーキも、全自動。人間の関わる余地なし。
交通事故なんて起こりやしない。ときどき、手動運転車がアクセルとブレーキを踏み間違えて歩行者に突っこんだ、というニュースは聞く。馬鹿らしい話だ。自分から事故を起こして、何がしたいのだろうか。
喜重郎がうとうとし始めた。さっきから眠そうだったから、そろそろ寝るんじゃないかとは思っていた。
別に居眠り運転だって合法だ。AIに任せきりだもの。
私は深呼吸した。
忘れるな……二ヶ月前のことを。
おじいちゃん――そう、私の祖父。
私のたわいない話に、ニコニコしながら耳を傾けてくれたおじいちゃん。両親に叱られてしょげていた私に、こっそり飴玉を渡してくれたおじいちゃん。
私は運転席を一瞥する。
それをこの男……喜重郎は奪ったのだ。私へのあの愛情は、すべて失われた。こいつのせいでおじいちゃんは――。
私は喜重郎を睨みつけ、拳を固くした。
そんなことはつゆ知らず、彼は寝息もたてずに熟睡している。
私は喜重郎に覆い被さる。すると、ハッとしたように彼は目を覚ました。でももう遅い。
私は喜重郎の頭を鷲掴みにした。
「オギャア、オギャア!」
彼の泣き声は無視して、あらぬ方向へ回した。
ゴリゴリゴリッ。
首が180度回転し、耐えきれなくなった首の骨が砕ける。
哀れな私の叔父――喜重郎は、享年2ヶ月でその生涯を閉じた。
私は喜重郎の頭から手を離した。首の骨の支えを失った頭は、だらんと垂れる。目は見開いたまま、あさっての方向を向いていた。
私は歯ぎしりする。
こいつさえ産まれてこなければよかったんだ。こいつさえ産まれなければ、今もおじいちゃんの愛情は私に向いていたはずなのに。
おじいちゃんは孫娘の私なんかより、産まれたばかりの息子に目をかけるようになった。その結果がこれだ。
息子は殺され、孫娘は殺人犯に。
「これぐらいやれば、おじいちゃんも振り向いてくれるよね」