寺への来訪者
私の名前は天空、とあるお寺の住職をやっています。
今からする話は私が経験した体験談です。
ある日の早朝にお寺の社務所のドアを叩く音が聞こえました。
何かと思って戸を開けると、女性が立っていました。
その女性は男性を抱き上げていました。
抱き上げられていた男性はぐったりしていて、ただならぬ様子なので私は一言「どうされました?」と尋ねると女性は「夫を埋葬したいのです。お願いできませんか?」と言いました。
そこで初めて私は男性は死んでいるのだと理解しました。びっくりしましたよ。
その場でどうしたものかと悩みましたが、とりあえず話を聞いてみることにしました。
女性を和室に通してから、遺体を別の部屋に寝かせて私は女性のところに向かいました。
和室に着くと、女性は正座して不安げにされていました。
私は女性の向かいに座り「話を聞かせてくれませんか?」と尋ねました。
女性は恐る恐る口を開いてまず一言「私はアンドロイドなんです」と言いました。
私はそれを聞いてまた驚きました。
寺にアンドロイドが訪ねてくるなんて初めてですから。
私がびっくりしていると女性のアンドロイドは続けて「びっくりさせてごめんなさい。私は夫とは駆け落ちしたのです。色んなところを転々として隠れながら逃げてきました。先日、夫を看取ってどこにも行くところがなく近くにあったこのお寺を訪ねてきたのです。どうか夫を埋葬させてください。」
泣きそうな顔で女性はいいました。
私は困ってほおを掻くと女性は深々と頭を下げて来ました。
それをみて私は可哀想に思ってしまい
「わかりました、どうにかしてみましょう」
と気づいたら私は言っていました。
すると女性はホッとした顔をされてまた深々と頭を下げました
それから私はどうにかツテを使って表向きは無縁仏として火葬をして骨壷に納め寺に戻って供養のためにお経を唱えました。
お経を唱えた時そばには女性が座ってじっと私のお経を聞いていたのが印象に残っています。
お経を唱えた後、私は女性にこれからどうするのか尋ねました。
すると、女性は「わかりません。行くあてもないのでどうしたら良いのか....」と不安そうに言いました。
それを聞いて私は「よければ、しばらく寺に居ませんか?この寺は昔は駆け込み寺のようなこともしていたので、心配は入りません」と穏やかに言いました。
私の言葉を聞いて女性は悩むような顔をしましたが一言「よろしくお願いします」と頭を下げました。
私は「頭を上げてください。こちらこそ、よろしくお願いしますね。あぁ、そういえば名前を聞いていませんでしたね?ここに居るなら呼び名は必要です。お名前を聞かせてくれますか?」とまた穏やかに言うと女性は「私は桜と申します。夫がつけてくれた名前です」と顔を上げて言いました。
「桜さんですね。私は天空と言います。呼び方は住職でも構いません」とお互いに自己紹介をしました。
考えてみれば遅い自己紹介ですが、この日から全てが始まりました。
つづく