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イレギュラーボス:アンノウン

 Bランクダンジョンってこんなに気軽に進めるものだっけ。もっと苦しくて、気を張り詰めていて――寂しい。そんなダンジョンだった気がする。


「ホワチャァ!」


 花ゴブリンの集団を回し蹴りで文字通り一蹴するフェクトを眺める。BランクのシーカーはBランクのダンジョンを単独で攻略できる。その資質が求められる今回のダンジョン攻略であるから、ほとんど戦闘はサポート程度にしているのだが、全て正面突破している。


「キシャッ」


 フェクトを抜けた花ゴブリンがバミィに迫る。本来なら色々戦法があるのだが、それをするほどの負担は現状バミィには存在していない。すっと攻撃を躱し、頭上からハンマーを叩きつける。それで十分だった。たまねぎのような花ゴブリンの頭が割れ、魔石に変化する。


「落ち着きましたね」

「うん、そうだね」


 静まり返った通路で、魔石を回収するフェクト。


「あの、聞きたいことあるんですけど」

「何かな」

「なんでダンジョン配信するんですか」


 落ち着いたところで、バミィはまた先頭を歩き出す。


「なんでって?」

「いや、危険な場所で配信をする理由って何かなって。バミィさんならゲーム配信でもいいわけじゃないですか。バーチャルなんちゃらとかそういうのでも稼げそうですし」


 バミィはフェクトに振り返り、頬をふくらませる。


「バーチャルって競争率えぐいんだよ? モデルつくるのだってものすごぉーく費用がかかるから大変なんだから。友だちにいるけどものすっごい頑張ってるし、ダンジョン攻略との兼業なんてとてもできません!」

「あ、そうなんですね。すいません無知で」

「まぁでもゲーム配信とかはできるし、実際にやってるよ。コスプレ配信とかもしたことあるし。ダンジョン配信よりものんびりみんなと話せるし、反応できるから、そういう配信のほうが伸びやすかったりするかな」


 バミィの場合は、であるが。

 ダンジョン配信も人気コンテンツだ。スキルに頼らずテクニックで攻略したり、スキルでド派手にモンスターと戦ったり。ダンジョンは「非日常(ファンタジー)」であり、見たいという欲求がある者は少なくない。


「ダンジョン攻略ついでに稼げたらなぁっていうのがきっかけだけど――寂しいからかな」

「寂しい、ですか」

「ほらダンジョン攻略って少人数か、ひとりで攻略しなきゃじゃない」

「そうですね」

「でも配信するとみんな褒めてくれたり、心配してくれたりするの。こういうBランクダンジョンは特に息苦しくて、敵がしんどくて、緊張感凄かったりするじゃん? 本当だったら上のランクほど配信したいくらい。だってひとりだと怖いから」


 暗闇で襲ってくるモンスター。一歩間違えば死に直結する環境。その中で死ぬとすれば孤独に死ぬ。そんなダンジョンの中で。


 コメントが流れてくるというのは、中々衝撃だった。


 応援してくれたり、心配してくれたり、質問があったり。モンスターの情報をもらえたり。


 スマートフォンにはシーカーをサポートするアプリや機能が一通り備わっているが、コメントには温かみを感じられて、それがありがたかった。


「だから、ボクの寂しさを埋めるためかな。配信は」

「そうなんですね! じゃあ配信見れない視聴者分、俺がんばります」

「五万人分?」


 その言葉にフェクトはたじろいで頬をかく。


「二〜三人分で」

「ふふっ。ありがとフェクトさん」


 大きな扉の前で立ち止まる。空中で浮かんでいたスマホを掴み、カメラアプリを起動する。モンスターの判定ができるアプリだ。


 おそらくボス部屋だ。ダンジョンに入ってから三時間ほどだろうか。ようやくという感じだ。


「俺が先行きますよ」


 扉に手を当てて、フェクトが言う。


「じゃあ、お願いね」


 首元の襟。そこにあるバッテリーを有効にするスイッチに手をかけながらバミィは準備をする。


 重々しい扉が開き、広大な部屋の中心にボスの姿が見える。樹木で構成された体から映える九つの首。ドラゴンの顔を持ち、背中には巨大な花弁が開いている。ヘビが九匹、胴体で溶接されたような外観を持つそのモンスターを――


 バミィは全く知らなかった。


 過去のデータとAIによってモンスターを識別するカメラアプリの結果は「オロチツリー」となっている。


 表示される画像は体を構成している木の色からして違う上に、首の数も目の前のボスのほうが一本多い。


 つまりはデータにないボスということになる。


「イレギュラー、ボス……」


 どんな強さか、どんなボスか全くの不明(アンノウン)


 最悪の遭遇だった。


「バミィさん?」

「帰ろう、あれはボクらじゃ手に負えない可能性が」


 アンノウンが大きく吸い込む動作をする。風が二人の身体をボス部屋に引き込み、そして扉を閉める。


 九つの口、全てに光が宿る。


 悪寒が走った。


「なんかまずそうですね!」

「そうだね、逃げ――」

「――失礼!」


 逃げようとするバミィの体を抱えて、フェクトが走る。

 二人のいた場所が眩い光の柱(ブレス)で潰された。

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