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シーカーの理由

 あれからビジネスホテルにチェックインし、一通り荷物を整理したあと、夕食を食べに出かけることとなった。バミィのおすすめに従い、二連泊の予約をしてあり、ダンジョン攻略は明日だ。


 ホテルの外で待っているとバミィがやってきた。


「おまたせー」


 笑顔でやってくる。


「ね! 何食べようか」

「うーんどうしましょうか」

「何系がいい? あっさり? がっつり?」


 いつも適当に食べているので何も思いつかなかった。


「どっちかというとがっつりの気分ですかね」

「よし! じゃあボク牛丼食べたい! 近くに松どんあるらしいからそことかどう?」


 ビシッと手を挙げられる。松どんは牛丼のチェーン店だ。フェクトも何度も利用自体はしている。


 てっきりおしゃれなカフェみたいな場所に行くと思っていたので面食らった。


「……いいですね。そこにしましょう」


 慣れ親しんだチェーン店の方が気が楽ではあったので、喜んでバミィの希望に沿うことにした。







「温玉牛丼並盛つゆだくでお願いします。あとー」

「牛丼特盛お願いします」


 お互いに注文を済ませる。テーブル席に向かい合う形で座っている。バミィはニコニコしながら牛丼が来るのを待っていた。


 対応した男性店員がちらちらバミィを見ていた。フェクトは店員の気持ちが痛くわかった。自分でも同じ場面にいたらそうするかもしれない。


 しばらくもしないうちに牛丼が目の前に置かれる。


 バミィは温玉牛丼、フェクトは特盛の牛丼だ。


「やっぱ男の子だね、いっぱい食べるんだ」

「まぁ、はい」


 お互いに手を合わせて食事を始める。


「……フェクトさんはさ。なんでシーカーやってるの?」


 食べながらバミィに聞かれる。


「なんで、ですか」

「うん。答えづらいならいいんだけどさ」

「……笑わないでくれます?」


 目をそらしながら聞くと、バミィは目を輝かせながら子リスのように頷いた。


「その、最強になりたいんです」

「最強」

「はい。最強です」


 我ながら子どもっぽい夢だと思いながら、バミィに語る。


「子どもころのヒーロー番組の主人公だとか、大手ダンジョン配信者みたいな、安心感、格好良さ、そういうところに、凄い憧れたんです」


 拳を握りしめる。


「圧倒的な強さがほしいわけじゃないんです。だけど、誰もがダメだと思ってるときに笑っていられて、不安を吹き飛ばしてやれるような最強の男になりたい」

「ヒーローになりたいってわけじゃなくて」

「子どもっぽい夢ですからね。ヒーローみたいに立派な精神で強くなりたいわけじゃないんですよ。でもそういう最強ならかっこいいじゃないですか」

「かっこいい……か」


 ヒーローになりたいわけじゃない。でもヒーローみたいな強さを持ちたい。逆境に負けず、大敵に立ち向かい、皆に安心を与えられるような――そういう意味で最も現実にできそうなのがシーカーという職業だった。


「叶ったところでなんだ、って感じなんですけどね」


 取り繕うように笑う。

 バミィは馬鹿にするわけでもなく、微笑んだ。


「いいなぁ」

「そうですかね?」

「そうだよ。子どもの頃からの夢ってことでしょ」

「はい」


 大人になったのだからもう少し現実的な夢を持つべきだろう。だが、フェクトにはあまり他の夢が思いつかなかった。子どもの頃のキラキラした思い出が、胸に残り続けている。


「ずっと変わらないって素敵だと思うな。なんていうか、かわいい」


 そういって、バミィは手を振る。


「男の子がかわいいってあんまり嬉しくないよね。ごめん。でも、言い方が見つからなくて。夢ってやっぱり良いなって思えるんだ。誰の夢を聞いてもだいたいそうなんだけどね。でも、フェクトさんの目、イキイキしてたし、子どもの頃の思い出大事にしてるんだなって思うと……うん凄くいいなって」


 馬鹿にするでもなく、ただただ真剣に返してくれた。優しく受け入れられたような感じがして、少し照れくさくなる。フェクトは頬をかいた。


「バミィさんはなんでシーカーしてるんです」

「お金」


 即答だった。


「ごちそうさまでした」


 いつの間にか食べ終えて空になった器を前に手を合わせる。軽く水を飲んでからスマートフォンを取り出した。そして、画面のフェクトに見せる。


「どう? この服。ボクに似合うかな」


 レースとリボンのついたいわゆるロリータ・ファッションのドレスのようだった。フェクトはファッションに明るい訳では無いため、ロリータぽいということしかわからない。


「似合うと思います」


 正直、服の組み合わせが異常にちぐはぐでない限り、だいたいのものが似合いそうだった。


「これね、三万くらいするんだ。シリーズっていえばいいかな、一式揃えようとしたらもっとする」


 女性の服は高いイメージがあったからそういうものなのだろうと思う。それにしても三万はお財布に厳しい。細かい装飾やいい生地を使っているように見えるため、そのお値段には納得だが、手は出しづらいだろうなと思った。


「ボクね、服いっぱいほしいんだ。コスプレもしたい。なんなら服をいっぱい収納できる家もほしい。若いうちに。いっぱい楽しみたい」


 その願望は非常に女の子らしいと思った。


「スキルがダンジョン向きだからダンジョンならすぐ稼げそうだったし、早いうちから服買えそうかなって」

「な、なるほど」

「それにボク可愛いじゃん?」

「自分で言いますか」

「可愛いでしょ?」


 少し前のめりになるバミィ。フェクトは目をそらした。


「はい」


 バミィは頬をふくらませる。


「そーいうときは可愛いって言葉にするの」

「可愛いです」


 フェクトがちらりと目を合わせて言うと、バミィは顔を赤くした。


「ふへ……」


 笑みをこぼすバミィ。自分で促しておいて照れたらしかった。フェクトもフェクトでそんなバミィにドギマギしてしまうのだが。


「で、ボクなら配信の道具揃えば、配信でも稼げるかなって思って。ダンジョン用のデバイス見るのも凄く楽しいし。いろいろ買いたいものも多いからダンジョンと配信、動画でハイスピードでがっぽり稼げたらなぁって」

「実際稼げてます?」

「ランクがBになってからは下手な仕事より稼げてるんじゃないかな」


 まぁ、動画サイトの登録者数も結構あって、ダンジョンの収入もあれば、という感じだろう。


 フェクトは牛丼を食べ終わり、手を合わせる。腹八分目で丁度良かった。


「お、食べ終わったね。行こうか」

「はい」


 立ち上がり、財布を出す。するとバミィが手のひらを突き出す。


「おっとここはボクが奢るよ。命の恩人だし」

「いえ、Bランクダンジョン付き合ってもらってあれですし、俺が払います」

「いーや! Bランクダンジョンを攻略できるのはメリットなのです。ボクの希望で牛丼になったのでボクが払います」


 両腕でバツマークをつくり、バミィが強く言う。


「じゃあせめて支払い別にしましょう。あとは割り勘とか」

「ダンジョンが終わったらフェクトさんが食べたいものを食べに行ってそのときにフェクトさんが払う! これでどうだ!」

「ラーメンとかになっちゃいますよたぶん」

「ラーメン!? ボクとんこつがあると嬉しい」


 目を輝かせながらバミィが答える。普通に嬉しそうだった。


「よしじゃあ、今日はボクが払うねー」


 さらっと伝票を持っていくバミィ。


 結局、ごちそうになった。

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