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天井裏シリーズ

天井裏は今日も暑苦しい

作者: 泉川葉月

「公爵令嬢、貴様との婚約を破棄する!そしてこの男爵令嬢を新たに婚約者とする!!」


 陽が落ちても蒸し暑い、夏の夜のパーティ会場。王立学園の王太子主催のパーティである。


 そこに響き渡る不機嫌そうな王太子の声。


 その王太子の腕には、学園で噂の平民上がりの男爵令嬢が絡みついている。

 そしてその背後には宰相の息子である公爵令息、王国騎士団団長令息、表向きは魔法科教師で、兄とは年の離れている王弟。


 未来の王国を担うと言っても過言ではない錚々たる面子が公爵令嬢を取り囲んでいる、その頭上。


「あ、どうも王太子殿下のところの——」

「お疲れ様です。遂に始まっちゃいましたねぇ、公爵令嬢様のところの——」


 影。


 それは王家や高位貴族など国の要人の情報を収集する諜報や、見えないところからひっそりと護衛する裏方役である。


 天井と床の間にある僅かな隙間に潜み、階下で繰り広げられる茶番劇を観察するのが今日の彼らの任務だ。


「うちのお嬢様、この日の為に随分準備してきましたけど、こんなに情報貰っちゃって良かったんですか?警備穴だらけだったの、ワザとでしょ?」


 王太子殿下の私室には、拍子抜けするくらいあっさりと忍び込めた。


「ははは。()が今回の件は、呆れ切っていたんでねぇ。むしろ、ご令嬢の手腕を拝見したいそうですよ」


 主とは国王のことである。国王も王太子殿下(馬鹿息子)には見切りをつけてしまった様だ。


「こんばんは〜殿下と〜、ご令嬢の〜——」

「どうも」

「お疲れ様です、宰相殿のところと、騎士団長殿のところの——」


 影。この三年間よく顔を合わせたメンツが揃った、と言っても目元以外は頭巾に覆われているので互いの風貌は知らない。


 階下では男爵令嬢が公爵令嬢からされたという虐めや嫌がらせについて、公爵令嬢が証人を交えて一つ一つ反論している。


「子供のお守りなんて〜、ちょ〜っと面倒だと思っていましたが〜、こうして他の家の同業者()さん達と交流が持てたのは、た〜のしかったですよ〜」

「本来の任務だと、有り得ないですよね」


 授業中、教室の天井裏から。屋外では物陰から。忙しい保護者に代わって、子供達の様子に気を配る「子供たち見守り隊」が彼らの任務である。


「次期宰相だ、次期騎士団長だとか優秀なんでしょうけど、まだまだ子供ですねぇ」

「未熟者」

「詰めの甘さがあったおかげで、公爵令嬢家(ウチ)としてはそんなに傷付かずに済んだのは有難いですが…」


 男爵令嬢の取り巻きになっている令息達の婚約者の令嬢達が現れ、それぞれに引導を渡している。

 浮気ダメ、絶対。


「とっくに成人済みの王弟もいらっしゃいますけど、良いんですか?」

「あいつは一度痛い目にあえば良い、と主が仰ってるので。放置ですねぇ」


 公爵令嬢に何やら耳打ちされ、端正な顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら土下座する王弟が見える。


「え〜?何囁いたんですか〜!」

「それは秘密です」

「気になる」

「調べてみよっかな〜」

「宰相には利益にならない情報ですからねぇ。調査費出ないかも知れませんよ」

「あの狸親父ぃ(宰相)、ケチだからな〜」

 

 公爵令嬢達に追い詰められ、逆ギレした男爵令嬢が暴れ始める。しかしあっという間に拘束され、喚きながら退場して行く。恋人だと思っていた男爵令嬢の裏切りを知り、へたり込む王太子。


「青春っていいですね〜」

「そんな爽やかなもんじゃないでしょ」

「修羅場」

「何人か首が飛びますねぇ、物理的に」


 男爵令嬢は他国のスパイであった。


「この四人で揃ってお会い出来るのは今日が最後かも知れないですねぇ」


 公爵令嬢以外は退学になりそうだ。


「あと数年したら、各家の弟妹の方々が入学予定ですから」

「その時も〜子供たち見守り隊(担当)だったら〜、よろしくお願いします〜」

「じゃあ」


 音も立てずに公爵令嬢以外の影は消えた。この場から退場して行った、それぞれの対象者を見守りについて行ったのだ。


 この狭い天井裏のスペースで、護衛対象を観察する任務は疲れる。主に姿勢的な問題で。


 今日も狭い天井裏はとても暑苦しい。



数ある作品の中からお読みいただき、ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
とても面白かったです。 こーゆー視点(影のみ)ってのも中々興味深いです。 そっかー、こんな風に蔭さん達も頑張ってるのかもしれないなぁと、ほのぼのしながら読みました。 影の日常、良いですね。
 おざなりダンジョンで女学園に潜入した時もこんな感じだったか。利害がぶつかる訳でもないし、同業者だからとそれなりに良好な関係を築いてたっけか。
この人たちの会話は声を出さずにハンドサインや読唇術でやってそう
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