第99話 星
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「おはよう、継武。よく眠れたかしら?」
「……あ、うん。おはよう……?」
朝早くにチャイムで起こされたと思ったら、なぜか龍安が立っていた。……後ろに、凛々夏を連れて。
俺と目が合い、龍安の後ろに隠れてしまった。やっぱ、まだ俺と一緒は恥ずかしいか。
一先ず2人を家に上げて、冷蔵庫から麦茶を出す。
「どうしたんだ? まだ登校するには早いぞ。てか俺、見ての通り寝起きなんだけど」
「一緒に学校に行こうと思ってね。どうせならと思って、凛々夏も誘って来ちゃった」
来ちゃった、じゃないわ。こっちの都合も考えてくれ。
仕方なしに2人に座布団を渡すが、凛々夏は座ろうとしない。顔を真っ赤にして固まっていた。
「凛々夏、どうした?」
「やっ……ややややややっぱりゎたしっ、1人で行きます……!」
「えっ?」
踵を返して靴を履き、外に飛び出す凛々夏。止める暇もなく逃げ出してしまった。
いや……ホント、何しに来たの?
「やれやれ。あの子も大概臆病者ね。魔法少女の時はあんなに豪胆なのに」
「なんの事だ?」
「気にしないでちょうだい」
いや気になるだろ。こっちはチャイムで起こされたんだぞ。
はぁ……仕方ない、学校には早すぎるけど身支度するか。
「あら。朝から美少女2人が起こしに来てあげたのに、ため息とは贅沢者ね」
「確かに一瞬で目が覚めたけど、眠いもんは眠いんだよ」
えーっと、歯を磨いて顔洗って飯食って……。
寝ぼけた頭で洗面所に入り、鏡を見る。
龍安が後ろにいた。
「うおっ!? な、なんだよっ、ビビらせんな……!」
「ふふ、ごめんなさい。それじゃあ、早速……いい事、しましょうか♡」
……はぇ? りゅ、龍安……?
頬を染めて舌なめずりをし、1歩ずつ近づいてくる。
その目の奥にあるのは……捕食者。獲物を狩る狩人の目だった。
に、逃げ……って、こんな狭い場所じゃ逃げられねーじゃん……!
直ぐ壁際に追い詰められ、龍安の腕が俺の首に回される。しなやかな太ももを股の間に差し込まれた。
か……完全に捕まってしまった。
「りりりりりりり龍安っ、朝から何を……!?」
「昨日凛々夏とあんなこと話したら、疼きが止められなくてね。本能の赴くままに……子供が欲しくなっちゃったのよ」
どんな話をしたらそうなるの!?
そのまま更に体を密着させ、胸元に顔を埋めてきた。
当然、俺も男だ。そんなことをされたら、色んなところが反応するわけで……。
「あら、やる気満々ね」
「そ、そりゃ、こんなことをされたら……! でででででもこれから学校行かなきゃ……!」
「ふふ。なら、急いでこさえないとね」
表現が生々しくてなんか嫌だ! 美少女の口から聞きたくない!
龍安の口が僅かに開き、伸びた犬歯がちらりと見える。いや……犬歯というより、牙だ。ドラゴンと契約している影響なのか、異様に鋭く長い。
そしてそのまま、俺の首筋に牙が触れ──
『緊急――茨城県南部に魔物の出現を感知』
「「ッ……!」」
龍安の動きが止まり、ゆっくり離れる。
「仕方ないわね。行きましょう」
「あ、ああ。だな……」
助かったと言うべきなのだろうか。残念と言うべきなのだろうか。
安堵半分、残念半分の気持ちでツグミの姿になった。と、その時……チュッ。
「んくっ……?」
「んっ……ぱっ……。ふふ、女の子同士でキスしちゃったわね♡」
え……今、唇……ま、マウストゥーマウス……!?
「あ、いや、その……!」
「ほら、惚けてないで行くわよ。準備なさい」
いつの間にか魔法少女姿になったビリュウさんが、バハムートを召喚して外に出た。まるで、さっきのキスが無かったかのように。
(なんで俺ばっかりこんなモヤモヤしなきゃなんねーんだよ、くそっ……)
ビリュウさんに続き外に飛び出し、茨城県南部に向かって走る。
先に飛んでいたビリュウさんとバハムートに追いつき、更に後ろからリリーカさんも追いついてきた。
「見えてきたわね」
「む、ホーンウルフか。久しぶりに見たな」
6本脚に8つの目、2本の角が特徴のホーンウルフ。俺が魔法少女になり、最初に倒した魔物だ。
あの時はかなりデカかった気がするが、今回はそうでもない。……けど……。
「なんか……多くないか?」
歪みの穴の数が異様に多い。そこから引切り無しにホーンウルフが現れていた。まずいな、10や20じゃきかないぞ。
「ツグミ、リリーカ。即殲滅!」
「「了解!」」
接近戦がメインの俺とリリーカさんが田畑に降り立ち、近くにいるホーンウルフを片っ端から退治する。ビリュウさんとバハムートは、その援護を行っていた。
他にも、近場にいた魔法少女たちが集まり、それぞれホーンウルフを倒していく。
ホーンウルフは魔物の中でも弱い方だ。今更苦戦はしない。
が、それは実力のある者ってだけで……。
「キャッ!?」
少し離れた場所で、魔法少女がホーンウルフに押し潰されていた。
中途半端な力の魔法少女は重傷を負うことも、ましてや死ぬこともある……!
バハムートは別のホーンウルフを相手にしてるし、他の魔法少女たちは気付いていない。
クソッ、間に合わない!
ホーンウルフが大きな口を開け、魔法少女の頭にかぶりつこうとした……次の瞬間。バッ!! と青い閃光が瞬き、地上を照らした。
「なっ、なんだ……!?」
閃光で目が眩む。が、それも一瞬で、直ぐに元の世界に戻った。
……あれ、ホーンウルフは……? 一体だけじゃない。他のホーンウルフまで消滅していた。
その中心で佇む、青い炎を纏っている魔法少女が1人。
揺れるショートボブ。宙を内包したような瞳。動いただけで周囲に飛び散る星屑のような光り。軍帽、軍服、ロングブーツ。
あの姿は……間違いない。
──魔法少女・コメットだ。
星の輝く瞳が、真っ直ぐ俺を射抜く。
あぁ、ようやく……。
「「見つけた」」
図らずも、俺とコメットの言葉が一致した──。
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