第98話 本能
結局この日は魔法少女コメットを捜す気分じゃなくなり……というか、絶対見つからないってわかっていたから、一先ず解散することにした。
あのまま凜々夏と一緒にいても、そっちの方が気になっちゃうからな。戦略的撤退というわけで。
「それじゃあ凛々夏、また明日学校で」
「は、はぃ。ぉ……ぉゃすみなさぃ……」
顔を真っ赤にして小さく手を振る凛々夏に、俺も手を挙げて返す。
そそくさと自分の部屋に戻る凛々夏を見送り、俺も自分の部屋に入った。
あれから答えは出なかった。凛々夏が抱いてる感情を俺が断定するのは違うし……何より、俺が凛々夏に対してどんな感情を抱いてるのか、わからない。
(思えば、リリーカさんやビリュウさんと隣同士で、魔法少女っていう秘密を共有していて、オマケに子作りを迫られたりキスされたり……こんなこと、世の魔法少女オタクにバレたら殺されるな)
思わず変な笑みが浮かんだ。
恵まれてる。……と思う。その分、大変なこともあるけど。
布団に寝転がり、ツグミの姿になる。
最近こっちでいることが多いからか、こっちの方が落ち着く。
……これ、ダメだよなぁ。ツグミでいられるのもあと1年と少しなんだし。
そっと嘆息して目を閉じると、思いの外疲れていたのか、直ぐに意識が無くなっていった──。
◆リリーカside◆
「ビリュウさん、恋とはなんですか?」
「いきなり来たと思ったら唐突ね」
私から思いもしない言葉を聞いたからか、意外そうに目を丸くするビリュウさん。
それもそうか。凛々夏の時の私も、今の私も、恋愛には程遠い性格をしているからな。
「最近、ツグミを見ていると……いえ、継武の時もそうですけど、体が熱くなるんです。手足が痺れたり、思考がぼやけたり、胸が締め付けられたり……」
「なんだ、自覚しているじゃない。それはもう立派な恋よ」
ビリュウさんはお茶をすすり、しれっと断定した。
やはりそうなのだろうか。私は、彼に恋を……。
継武の笑顔。ツグミの笑顔。継武の真剣な顔。ツグミの立ち向かう顔。継武の眠そうな顔。ツグミの優しい顔。
今では……思い出すだけで、体が燃えるみたいだ。
私、絶対顔が赤い。外でこんな顔できない。
「可愛いわね、あなた」
「か、からかわないでくださいっ」
「ふふ、ごめんなさい」
ま、まったく、変なことを言う人なんだから……。
「ねえ、知ってるかしら? 魔法少女って、他の女性と較べて恋に落ちる確率が高いらしいのよ」
「え、そうなんですか?」
初耳だ、聞いたことがない。
ビリュウさんは指をピンと立て、小さくほくそ笑み説明する。
「理由は単純。種の保存本能が人より強いから」
「種の保存本能……?」
「私たちは、大なり小なり一般人より力が強い。ということは、この強い力を後世に残そうとする力が強いのよ。昔の英雄だって、何人も奥さんがいたって言うじゃない」
あ……なるほど。確かにそれを言われたら、納得がいく。
「表向きは普通の生活を送りながら、裏では魔法少女として魔物と戦う。文字通り、命懸けでね。そんな生活を送っていたら、誰だって子孫を残したくなるものよ。高まって、体が疼いて……とか、あなたにも覚えがあるでしょ?」
「いっ、言えません……!!」
「それ、ほぼ言ってるようなものよ」
「ぐっ……」
私は違う、なんて言えない。心当たりがありすぎる。
恥ずかしくて顔を伏せていると、ビリュウさんは笑みを崩さずに肩を竦めた。
「そんなに思い悩む必要はないわよ。本能には誰も抗えない。あなたも素直な気持ちでアプローチすればいいじゃない」
「で、でも私、やり方とか……」
「私だって知らないわよ。私も本能に従って、ガンガン子作りアプローチしてるだけだもの」
……正直、羨ましい。私にはそんなこと、到底できない。
私の素直な気持ち、か……。
「……ん? 待ってください、ビリュウさん。もし私がアプローチなんてしたら、あなたと1人の人を奪い合うのでは……?」
「……あなた、人の話聞いてた?」
やれやれ、と言うようにジト目を向けてきた。私、何か聞き逃すようなことしたっけ?
「昔の英雄は?」
「な……何人も奥さんがいた。……って!? だ、ダメですよ! 現代社会……少なくとも現代日本で、そんなこと許されません!」
「存在自体が非常識な私たちが、今更常識を説いてどうするのよ」
ぐうの音も出ない。
「よく考えてご覧なさい、リリーカ。ツグミは世界屈指の力を持つ魔法少女。しかも素の姿は男……そんなこと知ってしまったら、種の保存本能の強い私たちが黙ってられると思う?」
「し、知りませんっ」
確かに非常識な存在の私たちだけど、生きているのは現代日本だ。なら、ルールに則って生きていくのが筋だろう。
「……ま、知らぬ存ぜぬで突き通すなら、私からは何も言わないわ。でも──後悔だけはしないようにね」
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