第93話 恋慕
「魔法少女コメット? もちろん知ってるぜ」
翌日。学校に着いてから優里に聞くと、さらりと答えた。さすが魔法少女オタクだ、頼りになる。
「どんな奴なんだ、コメットっていうのは?」
「どんな奴と言われても、調べればすぐ出て来て……あれ?」
調べても出てこないのか、スマホを手に首を傾げる。やっぱり、誰の端末でも規制が掛けられているみたいだ。
少しの間優里がいろんなサイトを確認するが、全てノーヒット。肩を竦めて、もう一台のスマホを取り出した。
「優里ってスマホ二台持ちなんだな。初めて知った」
「ああ、あっちのは普段使い用。こっちのは魔法少女のデータ用。写真とかファイルとか文字データとかをまとめてんだ。すぐ容量がいっぱいになるからな」
ガチだ。ガチすぎる。ごめん、助けてくれるのはありがたいけど、ちょっと引いた。
サラッとやべーことをやっている優里が、コメット用のファイルを開く。ずらっと写真やら戦闘シーンやらインタビュー映像が保存されていた。
こんなに情報が出回ってたのか。逆に、アメリカの魔法少女協会は、これだけのものを全部規制したってことか。
「海外の魔法少女の情報なんて、よく集めてたな」
「別に海外の魔法少女だからってわけじゃない。可愛いから集めてたんだ」
なんとも潔い。俺は日本のMTuberや魔法少女をおっかけるだけで精一杯なのに。
「てか、なんでコメットちゃんのことが知りたいんだ? さては継武、推すつもりか? 大変だぞぉ~、海外の魔法少女を推すのは。生活する時間帯がまったく違うから生配信を見るのも一苦労だし、グッズなんて高くて高校生の俺らには買えないしよ」
「ま、まあ、気になるってだけだ。調べても出てこなかったから、どんな子なのかなって」
本当のことは言えない。お口チャック。
けど優里は信じてくれたみたいで、腕を組んで深く頷いた。
「わかる、わかるぞぉその気持ち。俺だってもっと推したい魔法少女がいるのに、時間はないし世界は広いしで、全部を推すのは無理だからなぁ。ロシアにいる魔法少女が、妖精みたいで可愛くてさぁ」
しまった。優里のオタク心に火がついてしまった。こうなると長いんだ、こいつは。
「わ、わかったわかった。優里の魔法少女熱は十分伝わった。それで悪いんだけど、しばらくコメットの情報を見てていいか?」
「ん? ああ、自由に見ていいぞ。欲しい情報があったら、手書きでメモするなり写真に撮ってくれ」
「ん? メッセージで飛ばせばいいんじゃないのか?」
「バカ野郎。これだけコメットちゃんの情報が規制されてんだぞ。メッセージでやり取りしたら、筒抜けになる可能性があるだろうがッ」
ものすごい剣幕で言われてしまった。ご、ごめんなさい。
仕方ない。必要な情報はノートに書き写すか。
優里からスマホを預かり、コメットの情報をノートに書いていく。
それにしても、可愛いな。写真越しでもわかる。優里が目を付けるのも納得の可愛さだ。けど、どこか外国人らしからぬというか、少し幼い感じもある。もしかしてアジア系とのハーフとか、クオーターだったりするのか? さすがにその情報は出回ってないみたいだけど。
いくつかの情報をピックアップし、コメットの顔を写真に撮る。
……そういや、ここまで情報を集めてるってことは、ツグミのことも集めてんのかな?
なんとなく気になり、スクロールしていく。えっと、ツグミツグミツグミ……あ、やっぱりあった、ツグミのファイルだ。
気になる。気になるけど……これを見たら優里との友情が壊れる可能性もあるからなぁ……うん、やめておこう。知らぬが仏。触らぬ神に祟りなしだ。
改めてコメットの情報を集めようとスクロールすると……誰かがこっちを見ている気配を感じた。
周りを見渡すが、誰もこっちを見ていない。でも視線は感じるな。本当、誰だ……?
「……ん?」
「!!」
って、凜々夏か。教室に入らないで、扉の陰からこっちをジッと見ている。
俺と目が合い、凜々夏は顔を真っ赤にして隠れてしまった。そこ、他の奴の通行の邪魔になるから、どいた方がいいぞ。
……というアドバイスも、言いに行けない。
凜々夏のことを見ていると、あの時のことを思い出してしまう。
口の端に触れた、柔らかく湿った感触……まだ昨日のことのように、鮮明に思い出してしまう。
「ぐ、ぉぉぉおお……!?」
「継武、お前怖いぞ。どした……?」
優里が心配そうに声を掛けてくるが、それどころじゃない。
あれは……キスってことで、いいんだよな? そうだよな……?
……凜々夏って俺のこと……好き、なの……!?
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