第91話 お呼び出し
◆◆◆
「ミケにゃっ、ミケにゃっ。こっち、ます!」
「にゃはは! 待て待てー!」
……今日も元気だなぁ、リーファは。
あの事件から1ヶ月がた経った。長かったようで一瞬だった1ヶ月は、リーファとみんなの心を解すのには十分だったらしく……今ではああして、楽しく遊んでいる。
パラソルの下でオレンジジュースを飲みながら2人を見ていると、ちょいちょいと肩をつつかれた。
「ん? あ、キルリさんも飲みます?」
「────」
俺の隣に座って何度も頷いているのは、リーファの母親。名前をキルリと言うらしい。
無事にリーファと契約したことで、キルリさんもある程度の自由が利くようになったらしい。今はこうして、涼みながら俺とまったりしている。
オレンジジュースを受け取ると、首から出ている黒いオーラでそれを包み込み……一瞬で空にした。
「!」
「美味しいですか?」
黒いオーラを『〇』にした。お気に召したようで何よりだ。
てかさらっと受け入れてるけど、どういう原理で飲んでるんですか、それ? ……まあいいや。
キルリさんはぐぐーっと背伸びをして、そのまま草原に横たわった。
ゆるふわな白のセーターと、タイト気味なマーメイドスカートが良く似合う。首から上は黒いモヤみたいだけど。
「……ねえ、キルリさん。そのオーラの形を変えられるなら、頭っぽくできないんですか?」
「…………!!」
目からウロコ、みたいに手をわたわたさせるキルリさん。うーん、天然さんか?
起き上がり、手を胸の前でぐっと握る。立ち上っていたオーラが渦を巻いて球体となると……バチッという音と共に、頭ができた。
頭と言うにはシンプルな作りだ。顔もほぼ能面で、目の輪郭と鼻筋が薄らあるだけ。けどそれ以外は、ストレートの髪の毛も完璧に再現されていた。
「すごい。ちゃんと頭になってますよ。ほら」
スマホの自撮りカメラで姿を見せると、キルリさんは自分の姿を見て頬を手で覆った。嬉しい……いや、恥ずかしがってる感じだ。……異形頭、いいな。
「ママーーーーーーーーーー!」
メキョッ!!
自分でもわかるくらい最低なことを考えていると、リーファがキルリさんに向かって飛んできた。今、やべー音鳴ったけど大丈夫ですか?
当然、体当たりされて吹き飛ぶキルリさん。どうやらリーファ相手に、自動防御は働かないらしい。
「ママ、頭ある、ますっ。かわいー、ですっ!」
「────」
大丈夫とでも言うように、ぴくぴく痙攣しながらサムズアップで返した。娘を心配させまいとする心に涙を禁じ得ない。
「にゃはは〜。いやー、リーファたん元気元気っ」
「あ、ミケにゃん。すみません、リーファと遊んでもらって」
「つっ、つぎゅっ……! なななななんのなんの! あの時はめっちゃ強かったし、ちょー怖かったけど、接してみるとどちゃくそいい子だってわかったからね。まーったく問題ナシ!」
顔を真っ赤にして、むんむん、 と力こぶしを作るミケにゃん。そう言ってくれると、俺もリーファたちも救われる。
が……そうも言ってられない人が、もう1人。
傍で潰れたカエルのように動かなかった人影が、ゆっくり顔を上げた。
何を隠そう、ゆ〜ゆ〜さんである。
「あ……あなたは良いわよね、体力があるから。私なんかもうボロボロよ……」
「にゃはははは! ゆ〜ゆ〜たんは魔法ばっかりで体は貧弱だもんねぇ〜」
「体力バカに言われたくな……ちょっと、ほっぺたツンツンするの止め……あ、ちょっ、乳に手を伸ばすな……!」
「相変わらず貧弱なのに、体ばっかりえっちぃんだなぁ、ゆ〜ゆ〜たん」
ミケにゃんとゆ〜ゆ〜さんが乳繰り合っているのを見て、思わず手を合わせた。
大人気MTuberの2人が、目の前にいることだけでも幸せなのに、生イチャつきを見せられて……眼福すぎる。トラウマの都合上、あんまりリーファたちには見せられないけど。
「ほら2人とも。いい加減にしなさい」
「にゃんっ」
「きゃっ……!」
2人の首根っこを掴み、引き剥がす。
推しとは言え、節度は守ってもらわなきゃ困る。俺は推しのことなら全肯定オタクではないんでね。
と、その時。村に設置されているスピーカーからノイズのような音が聞こえ、その後キキョウさんの声が聞こえてきた。
『あー、あー、てふてふ。まいくてふてふ。ピンポンパンポーン』
それ、口で言ってる人初めて見た。
『お呼び出しでーす。魔法少女ツグミー、魔法少女ツグミー。直ぐに本部まで来てくださーい。以上!』
……ん? 俺呼び出された?
「ツグミン、にゃにやらかしたん?」
「可愛さの罪で罰せられるのかしら……?」
「ツグミ、自首する、ます」
「────」肩ポン
「何でみんなして私がやらかす事前提なんですかっ?」
……え、俺何もやってないよね……? やってないよね!?
続きが気になる方、【評価】と【ブクマ】と【いいね】をどうかお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます!