第87話 滅多打ち
信念と覚悟を胸に、1歩ずつリーファに向かっていく。
リーファの虚ろな目が、少し揺れたのが見えた。
そうか……そんなになっても、俺のことはわかるんだね。
けど、母親はそれを娘の異常と捉えたのか、両腕が真っ直ぐ俺に向いた。
「────ッ!!」
「ッ!?」
黒い刃ッ……!
腕をクロスして斬撃を受ける。がっ……重い……!
勢いと重さで後退させられたが、力を込めて上空に向けて弾く。弾いた黒い刃は攻撃範囲を越えた瞬間、黒いもやとなって霧散した。
受けた腕が痺れてる。かなり……いや、ものすごく強力な攻撃だ。受けた感じも硬くて、そう何度も受けられるものじゃない。
けど……行くしかない、よな。
「リーファ、聞こえるか? 聞こえるなら……私の言葉を聞いてほしい」
「……つ……ぐ……み……」
よかった。意識までは完全に乗っ取られてるわけじゃないみたいだ。
また1歩、リーファに近付く。
「────ッ!!」
今度は黒の鞭かッ。
上下左右から、何本もの鞭が降り注いでくる。服が破け、鮮血が舞い、鋭い痛みが全身を駆け抜けた。
痛い。痛すぎるっ。でも……あの2人は、この苦しみを何年にもわたって受け続けて来たんだ。それに較べたら、こんな痛み……!
鞭を受けながらなんとか歩みを続ける。
「つぐ……み……もう、来ないで……!」
「────ッ!!」
形成された大斧が、真上から振り下ろされた。
脚に力を込め、白羽取りのようにそれを受ける。だが威力を殺しきれず、地面に両脚がめり込み、周囲の石畳が陥没した。
刃、鞭、斧……全部、2人が拷問で受け続けて来たものだ。
憤り、怨み、憎しみ、殺意が攻撃から伝わってくる。
でもそれ以上に伝わってくるのは、他者を傷つけてまで愛する人を守りたいという……愛情だった。
「────ッ!!」
それだけで止まらず、次に地面を抉るように黒の砲弾を飛ばしてきた。
俺の身長を優に超えるほど巨大な砲弾。いや、もはや黒い塊だ。
大きさに比例して重くなっているのか、さっきの刃よりは速くない。余裕をもって避けられる速さだが……。
「ふんっ!!」
敢えて受ける……!
ドグシャアッ!!!! 重い物と人体がぶつかる嫌な音が周囲に響き渡る。何人かの魔法少女からは、悲鳴に似た声が聞こえた。
確かに重い。重いけど……バハムートとの力比べや、キキョウさんの攻撃に比べたら、軽いもんだ。
勢いを失った黒の塊が霧散する。――直後、黒の槍が既に眼前に迫っていた。
「がっ……!?」
いっ……てぇ……! 連続は聞いてねぇよ……!
「ツグミ!」
いつの間にか、リリーカさんに抱き留められていた。そうか、今の攻撃で吹き飛ばされてたのか。
「す、すみません、リリーカさん……」
「謝るな」
リリーカさんの手を借りて立ち上がり、直ぐに全身のチェックをする。
槍を受けた肩と脇のダメージは深くない。ひたいから血が垂れているのは、黒の塊を全身で受けた時にできたものだろう。それ以外、骨折はなさそうだ。
なら、まだいける。
血を拭い、もう一度リーファに向かうが、今度はリリーカさんに腕を引かれた。
「待て、ツグミ。今奴は動いていないが、いつ動き出してこの世界を壊すかもしれない。何を考えているのかわからないが、一刻も早く奴は仕留めないと。……たとえ、リーファを殺すことになったとしても」
わかってるさ、そんなこと。……あの攻撃は、この世界の人間にとっては脅威だ。受けることは疎か、防ぐこともできない。魔法少女の耐久力、防御魔法でも受けるのはギリギリだ。多分、俺を含めてこの世に何人もいない。
でも、だからって……あの光景を見てしまった俺に、リーファを殺すなんてできない。
「もう一度行きます。……俺なら大丈夫です。大丈夫ですから」
「馬鹿なことを言うんじゃない! 見ただろう、奴の強さ! これ以上、アレをこの世界にいさせては――」
「リーファちゃんの所に行きたい。……で、いいのかな、ツグミ?」
え? ……あ。
「き……キキョウさん……?」
桃色のツインテール。勝気な表情に、可愛い八重歯。
そして今は制服ではなく、魔法少女然としたピンクと白の衣装を身にまとっていた。
この人の魔法少女姿、配信とかにもまったく出てこないから衣装とか初めてみたけど、こんな感じの服だったんだな。
まさかの支部長の登場に、魔法少女たちもざわつく。多分、配信の向こうにいる視聴者たちは、誰って感じだろう。
「えへへ、遅れてごめんね。今日がっこお休みで、ついさっき起きたんだよ。んで、配信見て飛んできたんだ~」
「いえ、ナイスタイミングです。……お願いします、キキョウさん。力を貸してください」
「いっえーす! アタシに任せんしゃい! ……つっても、昨日能力を使いすぎて、あと10秒くらいしかないんだよね」
「十分です」
キキョウさんの『無敵』があれば、あの攻撃も無効化できる。その後は……俺の仕事だ。
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