第68話 駄々っ子
まだ落ち着かないリーファを宥めていると、掃除を終えた二人が荷物を抱えた。
「そ、それじゃあツグミさん。ゎたしたちは行きますね。こ、これ、リーファさんの寝間着です」
「また何かあったら、すぐ駆け付けるわね」
「え、帰っちゃうの?」
俺、このままじゃリーファと二人きりで夜を過ごすことになるんだけど。今は女とは言え、男と女が一つの部屋で一緒に寝るのはどうかと……。
「私は泊まってもいいわよ。理性を捨て去る覚悟なら出来てるわ」
「どうぞお帰りください」
リーファと一緒にいるより、龍安と一緒にいる方がまずい。主に俺の貞操が。
「ゎ、ゎたしは帰ります。ぁしたも学校ですし……」
「そうか、なら仕方な……学校?」
待て。凛々夏が学校ってことは、俺も学校だよな? え、リーファを置いて学校に行けるのか、俺?
俺の表情で全てを察したのか、凛々夏と龍安はそっと目を逸らした。
「そ、それじゃあ、また」
「ぉぉぉ、ぉ邪魔しました……!」
「待って置いていかないで助けて!?」
俺の願い虚しく、二人はそそくさと部屋を出ていってしまった。
「?? ツグミ、大変、です?」
「ああ……ある意味大変かも」
リーファを匿うのは良いけど、まさかこんな弊害が出るとは思わなかった。
彼女はこの世界の人間じゃない。そうでなくても、記憶を失ってるんだ。そんな奴を一人で留守番させるなんて、できるはずがない。
だからと言って、ずっと学校を休む訳にもいかないし……詰んだ。八方塞がりだ。
と、思考を巡らせる俺を哀れんでか、気遣ってか、リーファが俺の頭を撫でてきた。
「よしよし。ツグミ、頑張れ、ます」
「……ああ。ありがとう、リーファ」
俺もリーファの頭を撫で返す。くすぐったいのかほにゃっとした笑顔で、強く抱きついてきた。
大変なのは君のせいなんだけど……っていうのは、野暮ってもんだよな。
まあ、どうにかなるか。
どうにもなりませんでした。
「ダメです」
「むーーーーっ!!」
ビシッと叱る俺に対し、寝間着に着替えたリーファは頬をぷくーっと膨らませた。
こら、ぺしぺし叩かないの。痛くはないけど危ないでしょ。
「どうして、ですっ!?」
今度は地団駄を踏み始めた。こらこら、このアパートは人が少ないからって、そんなに暴れるんじゃない。
リーファを落ち着かせつつ、頭を抱える。
え? なんでこんなに暴れてるのかって?
……リーファが一緒の布団で寝たいとか言い出したから。それを断ったらこうなったんだよ、ちくしょう。
「頼むよ、わかってくれ」
「わからない、ます! なんで寝てくれないの、です!?」
「そ、それは……」
俺が男だからって伝えたら、また暴走しかねないよなぁ……。
床に寝転がってじたばたと暴れるリーファを見下ろす。子供か、お前は。
だけど、このままじゃ絶対に納得しないか……。
「わ、わかった。一緒の布団は無理だけど、隣で手を繋ぐくらいなら……」
「や」
「寝るまで頭を撫でるのは……?」
「やっ」
「じゃあ……」
「やっ!」
駄々っ子め……!
ぐ……ぬっ……はぁ〜……。
「わかった……わかったよ。一緒に寝るよ」
「! ほんと、ます?」
「ああ。本当だ」
もう、こうなりゃヤケだ。どうとでもなれ。
目を爛々と輝かせて、小躍りするリーファを見て苦笑いを浮かべる。一々リアクションがオーバーで可愛い子だ。
座卓を横にずらして布団を敷き、リーファ側に枕を置く。俺の方は座布団を折りたたんで、それっぽく仕上げた。
「てやっ」
あ、こら。布団に飛び込むな。
「おぉ〜……ふかふか、ます。すごい、です」
「大袈裟だな」
一人暮らしする時に母さんが買ってくれた、安い布団だぞ。異世界ではどんな環境で寝てたんだ。
俺も魔法少女の衣装から一瞬で寝間着にフォルムチェンジして、布団に潜り込んだ。
「ほら、入りなさい」
「はい、ます」
リーファも布団に入り込み、満面の笑みで俺の腕に抱きついてきた。
「せ、狭くないか?」
「大丈夫、ます。ツグミと一緒、嬉しい、です」
うっ……そんな笑顔で言われると、騙してるみたいで罪悪感が。
ダメだ、ダメだ。こんな純粋な子に邪な気持ちなんて絶対にダメだ。早く寝ちまおう。
電気を消して、目を閉じる。
が、しかし……暗くなったせいか、余計にリーファの存在を感じてしまう。
体温、衣擦れの音、呼吸、いい匂い、女体の柔らかさ。ツグミの鋭敏な五感で全てを感じてしまって……よ、余計に眠れないぞ。
「ツグミ、あったかい、ます」
「そ、そうか」
「うん……おちつく、ます……」
…………? リーファ?
意識をそっちに向けると……なんと、小さく寝息を立てていた。余りにも早すぎる入眠。俺でも見逃しちゃった。
まあ、記憶が無い状態で、こんな場所に飛ばされたんだ。ずっと気を張っていて、疲れたんだろう。今はゆっくり寝させてやるか。
……俺、眠れるかな?
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