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第45話 パワー対パワー

 ただでさえ2対1なのに、片方はドラゴンだ。ドラゴンにさえ勝てる道筋は見えないのに、それに加えてビリュウさんも格闘術の達人……こんなの、どうやって倒せって言うんだよ。



「様子見? なら、こちらから行かせてもらうわね。……バハムート!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!!」



 咆哮が再び体を叩く。油断していると、バラバラになりそうだ……!

 腕をクロスし、脚に力を入れて踏ん張る。ここで体勢を崩したら終わりだぞッ。

 気合いを入れて咆哮による砲弾を耐えるが、クロスした腕の向こうから、バハムートが凶悪な爪を光らせて迫るのが見えた。

 鋭利であり、死を直感させられる爪。まずい、直撃したら終わりッ……!

 攻撃の直線上から、横に飛んで緊急回避する。が、バハムートは翼を巧みに利用し、ほぼ直角に近い形で追撃してきた。



「あっぶ……うっ!?」



 ぐっ、脇に掠った……!

 脇腹から鮮血が飛び散り、野次馬たちから悲鳴があがる。

 痛い、痛い、痛いッ……! 本気の攻撃って、こんなに痛いのか……!

 脇腹を抑え、気力で立ち上がる。くそっ、めっちゃ血が出てるっ。これ、死なないよな……?

 いつの間にかバハムートはビリュウさんの元に戻り、牙を剥いて威嚇してした。



「まだ、やるつもり?」

「ふーっ……ふーっ……」



 やめてぇよ……やめられるもんなら今すぐにでもやめたいわ。

 脇腹は痛いし、ビリュウさんは素で強いし、バハムートは怖いし。

 あぁ、多分リリーカさんとかミケにゃんが心配してくれてるんだろうな。あと多分、ゆ〜ゆ〜さんも。

 大きく深呼吸をして、ジンジンする脇の痛みを堪える。



「わ、悪いですけど……こっちも引く訳にはいかないんですよ……!」

「……そう。バハムート」



 ビリュウさんの合図で、バハムートが身を屈めて力を溜める。またアレが来るのかッ。

 どうする。避けるか? けどそれじゃあ、何をしたってジリ貧だ。ビリュウさん相手にも勝てるか怪しい。極めた技っていうのは、力の流れを変えられてしまう。あまりにも厄介すぎる。

 ──じゃあ、バハムート相手なら? 確かにスピードは目を見張るものがあったけど……なら、パワーはどうだ?

 ……いける。やれる。頑張れる。

 パワー対パワー? 上等だ。そっちの方がわかりやすい。

 血で汚れた手を握り、開く。

 震えてる。当たり前だ。ドラゴン相手にパワー勝負なんて普通じゃない。

 けど、それが唯一勝てる道なら……行くしかないだろッ。



「サッ、来いやアアアアアア!!!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ──!!!!」



 バハムート、加速。

 同時に俺も、地面を蹴る。

 集中力のなせる技か。それとも血液が脳に集中しているからか。異様に世界がスローに見える。

 体の奥底から力が漲る。でもそれじゃあ足りない。集中しろ。振り絞れ。絞り出せ……!

 直後──衝突。

 鋭利な爪を寸前で鷲掴みにした瞬間、衝突の勢いは衝撃波となり、周囲の地面を陥没させた。

 拮抗するパワーとパワー。そうだ、これでいい。頭でとやかく考えるなッ……!



「馬鹿ね。ドラゴンの神……龍神たるバハムートに、人間が勝てるはずないわ」

「……くっ……ははっ……」



 確かに、普通ならそうかもな。けど生憎、俺は普通じゃないんでね……ドラゴンとパワー勝負だなんて、最高にロマンじゃねーか!



「おっ……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

「ッッッ!?」

「……は……?」



「「「「「も……持ち上げたあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!?!?!?」」」」」



 あああああああッ……! 重い重い重い重い重いッ!! くおぉっ……!



「まぁっ……けぇっ……るぅっ……かああああああああぁぁぁ!!」

「!?!?」



 そのままッ……地面に叩き付ける!!


 ──ドッッッッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!


 ぜぇっ……はぁっ……ぜぇっ……やば、一気に力を使い過ぎた……。

 手先が痺れる。足腰が震える。正しく渾身だ。

 ……だってのによ……。



「もう、復活してんだもんなぁ……」



 叩き付けたはずのバハムートが、既に体勢を整えて上空から俺を見下ろしている。

 この程度で倒せる相手とは思ってなかったけど……頑丈すぎんだろ。

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