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クイーン・オブ・魔法少女 〜いや俺、男なんですが!?〜  作者: 赤金武蔵
第4章 異国の魔法少女

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第120話 黒い感情

   ◆リリーカside◆



「ツグミもとんでもないけど……コメットも、凄まじい化け物ぶりね」

「強くなったとは思ったけど、まさかこんなにレベルが上がってたとはね~。ほんとーにアタシが抜かされる日も遠くなさそうだ」



 壮絶な戦いを見つめ、ビリュウさんが言葉を漏らす。キキョウさんも、同調するように快活に笑った。

 同意見だ。あの二人は、余りにも格が違いすぎる。


 ……………………羨ましい。


 私の実力も日本支部の中ではトップクラスだと思っていたが、ツグミたちを前にするとどうしてもかすむ。いや、足元にも及ばない。

 上にはキキョウさんやビリュウさんがおり、ツグミに抜かされ、リーファとキルリの二人にも力及ばず……。

 気付くと、うっ血するほど拳を握っていた。



(私は内気な性格を治したくて……力強さを得たくて、魔法少女になった。でも周囲に比べると、私の強さは劣る)



 二人から幾度となく放たれる閃光が眩しく、魅入ってしまう。

 だが、しかし……光りが強くなればなるほど、私の心に巣食う何かが蠢き、顔を覗かせる。

 重く、苦く、体を絞め付けてくるそれに抗う術はなく……気付けば、戦いから目を背けてしまっていた。



   ◆ツグミside◆



「オルディナ・クロス」



 バックステップで躱すと、空から落ちて来た十字架の光りが地面に衝突し、爆発を引き起こした。

 約熱の爆風に吹き飛ばされ、地面に何度も激突しようやく止まった。

 魔法攻撃の手札が多すぎだろっ。こんなにも違うものなのか……!

 土煙でコメットの姿が見えない。くそ、どこだ!

 右腕を大きく振るい、土煙を散らす。が……いない。さっきまでいた場所から消えていた。



「いない……? ッ……!?」



 直感を頼りに辛うじてその場にしゃがみ込む。俺の頭があった場所を高速の飛び蹴りが通り抜けた。



「Wow!! 完璧に殺意を消したのに避けるなんて、さすがはティナデス!」

「お褒めの言葉どうも!」



 オーラを纏った脚で地面を蹴り上げる。直径十数メートルの土が捲れ上がり、暴風でコメットの体を浮かせた。



「What…!?」



 一瞬、互いに目標を見失う。

 だけど、俺たち魔法少女に障害物なんてあってないようなものだッ。

 お返しとばかりに、拳にオーラを集中させて邪魔な土くれに拳を叩き付ける。砕かれた土は無数の散弾となってコメットの体を叩く。……と思ったのだが……。



「いない……?」



 前後左右、どこにもコメットの姿がなかった。

 まさか視認できないスピードで動いているのか? でも俺の目でも見えないって……。



「ツグミっ、上よ!」

「ッ!」



 ビリュウさんの声に咄嗟に見上げる。

 遥か上空。魔法少女の視力でも米粒に見えるほどの高度にいるコメットが、両腕を俺に向けて魔法陣を展開していた。

 しかも一つや二つじゃない。十、二十……もっとだろうか。幾重にも重なる幾何学模様が、交互に逆回転していく。



「――――。――――。――――」



 ――コメットが、何かを呟いている……? 遠すぎて聞き取れないし、唇の動きを読むこともできない。

 でも何かを口ずさむごとに、魔法陣の光りが大きく強くなっていく。

 もしかして……ッ、詠唱魔法か!?



「ばっかやろうっ、あんなもの地上に向けて撃とうとしてんじゃねぇ……!!」



 魔法少女パワー、解放ッ。

 全身から迸るオーラが、渦を巻いて天を貫く。

 拳を握り締め、暴れ狂う膨大なエネルギーを右手に集めていく。

 圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮……もっと、もっと、もっとだ……!!


 

「ラブリーミラクル・メテオスター・ホーリーパワー」



 研ぎ澄ませ、研ぎ澄ませ、研ぎ澄ませッ。もっと鋭く……もっと鋭利に……!



「クイーン・オブ・ハート!」



 圧縮されたオーラから、耳をつんざく金切り音が発生する。気を抜くとすぐに霧散しそうだ。

 顔を上げる。向こうも俺を見下ろし……目が合った。

 コメットの口角が上がる。俺も上がる。

 上等……受けて立つッ!



(Nova)( Cat)(astr)(ophe)

「スターダスト・スピア!!」



 直後、同時に放たれた互いの詠唱魔法。

 いくつもの魔法陣を通過し、威力が極限まで膨れ上がった超爆発の業炎と、ただ目の前の敵を貫くことのみのをイメージし、極限まで圧縮を繰り返した極大の槍が……衝突する。

 同時に直感した。……このぶつかり合い、負ける。

 咄嗟に体が動いた。

 圧縮したオーラの残りかすで全身を強化し、跳躍。槍と共に炎の中に突撃する。

 熱された空気が熱い。肌が、髪が、肉が、骨が、肺が、心臓が……存在が焼け死にそうだ。

 十秒か。二十秒か。それとも数秒か。無限に続く灼熱の地獄を耐えると……槍が霧散し、業炎も消えてコメットの姿が目に飛び込んできた。



「ライス!」

「ティナ……!?」



 目を見開くコメットに向かい、そのまま突撃ッ!

 握っていた拳を緩め――コメットを抱き締めた。



「ふぅ……疲れました」

「……え。あの……殴らないんデスカ?」

「はい。確かに殺す気で行きましたが、本気で殺すわけでもないですから。……それに、私が一番ぶん殴りたいのはライスじゃありません。安全圏で高みの見物を決め込んでる奴です。――聞こえているんでしょう?」



 自由落下しつつ、コメットの勲章に埋め込まれているカメラを覗き見る。



「これでも私、ブチ切れてるんです。――待ってろ、お前。ぶん殴りに行くからな」

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