第117話 対峙
結局、翌日になってもコメットのテンションは戻らず、ずっと何かを考えているのか、押し黙ったままだった。
上司に何か言われたんだろうか? 話を聞くに、どうもおっかない人みたいだからなぁ。
「ライス、この抹茶アイス美味しいですよ」
「……ぇ。あ、はい。いただきマス」
ベンチに座り、大好きな甘味を食べさせてもこの始末。うーむ……重症だ。
胸の奥につっかえているものを抹茶のほろ苦さで掻き消そうとするけど、それもうまくいかない。妙に味がぼやける。
「……ライス。昨日の報告で、何かありました?」
「ッ! な、ななななななんでもないデス! た、ただ厳しいことを言われて、しょんぼりしてただけデス!」
……嘘だな。この慌てよう、何か隠そうとしているコメットの癖だ。
出会ってから、ほぼ24時間一緒にいるんだ。癖の一つや二つ、見抜けない訳がない。
「ライス、悩みは黙っているより、誰かと共有した方が心が軽くなりますよ。私では頼りないと思いますが……」
「そっ、そんなことないデス。ティナ、とても頼りになりマス!」
「……ふふ。元気付けてくれてありがとう」
そっとコメットに寄り添い、アイスを舐めて空を見上げる。青いキャンバスに白い絵の具をまき散らしたような雲が、点々と彩っていた。
そのまま無言で隣り合うこと数分。意を決したのか、コメットが口を開いた。
「……ワタシ、友達がいます。大切な友達デス」
「ライス、友達いたんですね」
「失礼デス!?」
「冗談です」
むすっと頬を膨らませるコメットに平謝りし、続きを促す。
「……上から言われてしまいマシタ。友達の動きが怪しいから調査し、妙な所があれば……戦えト」
「それは、殺すってことですか?」
コメットは首を横に振り、悲しそうな目をする。
「ワタシは殺したくないデス。でも……友達が相手だと、手加減することもできまセン。絶対本気でやらないと、ワタシが負けてしまいマス」
「その子、すごく強いんですね」
「YES. 恐らくワタシが知るmagic girlの中で、最も強い子デス。だからワタシも、本気で戦わないといけまセン」
おいおい。コメットにそこまで言わせるなんて、とんでもねー魔法少女だ。アメリカにはそんな強い子がいるんだな……世界は広く、知らないことだらけだ。
「その子に、勝てるんですか?」
「……わかりまセン。worst…殺しに行って、やっといい勝負ができるカモ」
彼女の表情から、覚悟のようなものが伝わってくるけど……目の奥には、まだ揺らぎが見える。
友達の命と、上官の命令。二つを天秤にかけ、決めあぐねているんだ。
「ティナ……アナタがこういう立場になった時、どうしマスカ? 友達と殺し合わなきゃいけなくなって……本気で、戦えマスカ?」
真っ直ぐ目を見つめてくるコメット。
友達と殺し合う、ね……俺の場合だと、リリーカさん、ビリュウさん、リーファ&キルリさん。それにミケにゃんやゆ~ゆ~さん、キキョウさんとかか。
もしみんなと戦った時に、俺は……俺なら……。
「まだ想像の域を出ませんが……やれますね」
「ッ。どうして……?」
コメットはズボンの裾をギュッと握り、また俺の目を覗く。
不安と後悔。それと恐怖。この目が俺に向けられるってことは……。なんとなく笑いがこみ上げてきた。やれやれ、可愛い子だ。
彼女の頭を撫でて立ち上がり、コメットを見下ろす。
「私は、私の友達の力を信頼しています。殺しに行ったくらいで、殺せるとは思っていません。もし殺しに行っても、きっと返り討ちにしてくれるでしょう」
握手をするように手を差し出し、コメットの目を見つめる。
「安心してください、魔法少女コメット。あなたの友達は、簡単には死にません」
目を見開き、力いっぱいズボンを握っていた拳を緩める。
コメットも立ち上がり、俺の手を力強く握った。
「……ワタシ、本気で行きマス」
「ええ。……受けて立ちます」
冴え冴えとしていた空はいつの間にか曇天が覆い……俺たちの間に、突風が駆け抜けた。
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