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クイーン・オブ・魔法少女 〜いや俺、男なんですが!?〜  作者: 赤金武蔵
第4章 異国の魔法少女

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116/126

第116話 命令変更

「本当、すみませんでシタ。ワタシたちの身勝手で不快な思いをさせてしまッテ……」

「あはは……逆の立場なら、私だって怪しみますから」



 宿に戻ると、すっかり修復されていた。さすが魔法少女御用達の宿。もう直ってやがる。

 部屋で、まだ落ち込んでいるコメットを慰める。そんなに気にしなくてもいいのに。

 にしても、まさか俺が、他国に危険因子扱いされているなんて思わなかったなぁ。でも今回一緒に過ごしたことでその疑いも晴れたみたいだし、よかったよかった。



「それじゃあ、早速報告してきマス。ティナ、ここで待っていてくだサイ」

「わかりました」



 タブレットのようなものを持って、隣の部屋に引っ込むコメットを見送る。

 さてと……俺もコメットのこと、みんなに報告しないとな。



   ◆コメットside◆



「――以上を持ちまして、魔法少女ツグミは危険ではないと判断致しました」



 真剣な表情で、画面の向こうにいる人物に報告をするコメット。

 画面の向こうの人物……仮面の人間は黙って報告を聞いていたが、一言も発しない。それどころか、漆黒の瞳でコメットを見つめている。寒気のする瞳に、ついコメットは喉の奥を鳴らした。



『コメット』

「はっ……!」



 仮面の人間の声に、背筋を伸ばす。

 ボイスチェンジャー越しでもわかる。長官は今の報告に、僅かながら怒りを覚えている、と。

 背中に汗を感じ、コメットは仮面の人間の目を見つめ返した。



『今の話を聞くに、確かに魔法少女ツグミは正義感に溢れているようだ』

「わ、私もそう思います」

『しかしだ。コメット……お前、魔法少女ツグミに情が移っているのではないか?』

「そっ……それは……」

『情が移った結果、判断を誤っている。……その可能性はないか?』



 仮面の人間の言葉に、コメットは否定できなかった。

 そもそもコメット自身、ツグミの大ファンなのだ。情が移るどころか、好きなことには変わりない。

 仮面の人間は手を組み、テーブルに肘をつく。仮面の向こうの瞳は、未だに真意を読み取れなかった。



『お前がツグミのファンであることは前々から知っている。可愛く、聡明で、人懐っこい。それにいい意味で冷酷であり、私情と仕事を分けられ、命令に忠実だということも。だからこそ、彼女の警戒をいち早く解けると思い、お前を接触させたのだ。わかるか?』

「は、はい、長官」

『そんなお前が情に絆されて判断を誤ったのなら……もし祖国に何かあった時に、どう責任を取るつもりだ?』

「ッ……」



 何も言い返せない。長官が自分をこの任務に就かせたのも、今までどんな命令も完遂してきたという絶対的信頼があったからだ。

 無言で顔を伏せていると、仮面の人間がそっと息を吐いて再度口を開いた。



『――命令変更だ、魔法少女コメット』

「ッ。はっ!」



 嫌な予感がする。魔法少女になって数年、長官に従っていた直感がそう言っていた。

 そうして、こういう嫌な予感は……。



『魔法少女ツグミと戦い、手の内や潜在能力を全て引き出したのち、勝て』



 大抵、当たってしまう。



「そ、それは……」

『戦闘の様子は全て監視させてもらう。魔法少女ツグミがどれほどのものか、私が判断しよう。タイミングは任せる』



 ではな、と通話が切れる。

 コメットは拳を握り締め、ふと力を緩めた。



「Yes, boss」



   ◆ツグミside◆



「あ、おかえりなさい、ライス」



 俺も報告を終えると、丁度コメットも終わったのか、こっちの部屋に戻ってきた。

 もう憂いはない。明日からは本当の友達として、京都観光の続きを楽しもう。

 自分でも隠しきれない、心からの笑みで迎えると、コメットはきょとんとした顔からその場にへたりこんでしまった。



「ら、ライス?」

「……あ。だ、大丈夫デス。……ティナの笑顔を見たら、なんだか腰が抜けちゃいマシタ」

「ぷっ。なんですか、それ」



 コメットに手を貸して立たせてやると、真っ直ぐ俺の目を見つめてきた。

 どうしたんだろうか。なんだか、妙な覚悟が目の奥に感じられる気が……?



「ライス、何かありました?」

「んぇっ!? なっ、なななななんでもないデス! ちょ、ちょっと温泉行ってきマス!」



 ……? 何を慌ててるんだ、あの子は?

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