第114話 図星
戻って来たコメットとは会話もそこそこに、出された夕飯を食べたり温泉に入ったりして、床に就く。
気まずさというか……なんとなく、話し掛けづらい。人には人の意見があるから、とやかく言うことじゃないとわかっているけど……。
目が冴えてしまい、薄暗い中コメットに目を向ける。と……丁度いいタイミングで、コメットも俺の方を見ていた。
「眠れませんか?」
「ティナの方コソ」
「あはは……いろいろ考えてしまって」
「……ワタシもデス」
互いに顔を見合わせて、つい笑ってしまった。
そりゃあそうだ。あんな話をして、何も考えない奴は余程の無神経だろう。
「ティナ、そっち行っていいデスカ?」
「……いいですよ。おいで」
布団を捲って、コメットを布団に誘う。
だがしかし、薄暗い中でもわかるくらい急激に、ギュギュギュンッと顔を真っ赤にしたコメットが、ぎこちない動きで潜り込んできた。
完全に入って来たコメットを包み込むよう、布団を掛け直す。お互いに横になって、じっと目を見つめる。
「……不思議デス。誰かと一緒に寝るのッテ」
「昨日も一緒だったじゃないですか」
「そうですケド、違いマス。……ワタシ、人生で誰かと一緒に寝た記憶がないんデス」
え……?
思わぬ言葉に、つい目を見開く。
「小さい頃とか、誰かと寝たりとか……?」
「……記憶にはありまセン」
コメットの言葉が弱弱しくなる。
いったいどんな人生を送って来たのか、俺にはわからない。けど……辛かったろうな。
昨日と同じく、コメットの体に手を回して抱き締める。リーファの件があってから、こういう弱みを見せる強い女の子に弱いなぁ、俺。
「ティナ……暖かいデス」
「そりゃあ、生きてますから」
「違いマス。……心が、ポカポカするデス」
スル……スル……。浴衣から艶やかな脚を伸ばし、俺の脚に絡みついてくる。
「ティナ、アナタは凄い人デス」
「私なんて凄くないですよ」
「謙遜しないでくだサイ。誰かの為に一生懸命になれる人が、凄くないはずないデス」
そこまでベタ褒めされると……照れるな。それに脚の絡み方がいやらしいし、浴衣の隙間から指が伸びてきて……んえっ!?
「ちょちょちょっ、ライス!?」
「ティナ……ティナ……」
ちょっ、ホント待っ……力強ぇ! こいつ、パワー系魔法少女の俺とタメ張るレベルかよ……!!
「ティナ。優しくて強くて、素敵デス。とってもfabulousデス」
「だからって女同士で……!」
「NO. 今の時代、同性でも問題ありまセン」
その通りすぎてぐうの音も出ねぇ……!
「何故デスカ? ティナ、いっぱい女の子とイチャイチャしてるんじゃないんデスカ?」
「どこ情報ですかそれ」
「上官が調べマシタ。リリーカ、ビリュウ、ミケにゃん、ゆ〜ゆ〜、異世界の母娘。みんな、ティナとイチャイチャしてマス。ワタシもしたいデス」
だからってこんな襲うような奴はいなっ……いやビリュウさんはしてるか。って、じゃなくて!!
大事な部分をまさぐられる前に、なんとか食い止める。くそっ、どんなパワーして……!
薄暗い中、不意にコメットの表情が見えた。どこか急いでるような……。
「ライス、どうかしたんですか?」
コメットが目を僅かに見開く。その一瞬を逃さず、コメットの食指から逃げマウントを取る。この位置なら、パワーで負けることはない。
「あんっ♡ ティナ、大胆デス……♡」
「そうじゃありません。……あなた、なんか焦ってませんか?」
俺の言葉に、今度は完全に動きを止めた。図星みたいだ。
「何をそんなに焦ってるんですか? 私と体の関係を持つことは、何か意味があるんですか?」
「そっ……そんなこと、ない……デス」
目がバタフライ並に泳いでるぞ。
「あなたが所属している組織と、何か関係があるんですか?」
「ぅ……ぁ……その……」
言いたいけど言えない、というのがありありと伝わってくる。
組織に所属している以上、組織のルールや命令は絶対だ。魔法少女協会日本支部だって、緩いけどいくつかルールはある。
多分この子も、上から命令を受けているに違いない。
「ライス、私の目を見て」
コメットの頬に手を添えて、俺の方を向かせる。
瞳が揺れ、奥に不安が見える。もしかして……。
「私の正体を探れと命令されてます?」
「!!」
──ゴオッ!!!!
「ぐっ……!?」
コメットから迸るオーラと衝撃波ッ、強すぎる……!
緊急的にコメットから離れると、窓ガラスを突き破って中庭に飛び出し、そのまま上空へ飛んで行った。
「コメット!!」
俺も中庭に出るが、もう姿はない。いや、彗星の如く飛ぶコメットを、見つめるしかできなかった。
「おやおや。随分とお盛んどすねぇ」
「っ、女将さん……」
いつの間にか部屋にいた女将さんが、微笑ましそうに俺を見つめる。
「行ってあげなさい。こちらのことは気にしないで」
「……すみません、後で弁償します!」
浴衣から魔法少女の衣装へフォルムチェンジし、コメットを追う。
くそっ、速い……! 仕方ない、こっちも本気だ……!!
脚に力を溜め、空中に魔法陣を展開。
魔法陣を足場にし──超パワーで、踏み抜く。
まとっているオーラを鋭利に尖らせ、空気抵抗を極限まで抑えると……一瞬で、コメットに追いついた。
「ライス、待て!!」
「ティナ……!?」
まさか追いつかれると思っていなかったのか、コメットが振り向いて目を見開く。
が、それでバランスを崩したのか、コメットの体がきりもみして落下していった。
「くっ……!」
空間を蹴り、軌道を変える。
今にも激突しそうなコメットへ手を伸ばし……掴んだ。
彼女の体を抱き寄せ、腕の中に包み込む。
それと同時に、背中に伝わる衝撃と爆音。何かを薙ぎ倒す感覚を覚え、ようやく勢いが止まった。あぁ……死ぬかと思った。
「いったた……ライス、大丈夫ですか?」
「YES…ッ! は、離してくだサイ……!」
腕の中にいたコメットが、俺を突き放して距離を取る。
その綺麗な瞳には……星明かりに照らされた、涙が浮かんでいた。
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