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クイーン・オブ・魔法少女 〜いや俺、男なんですが!?〜  作者: 赤金武蔵
第4章 異国の魔法少女

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第106話 ピンチ

 貴船山の山中に現れた魔物は、今まで見たことのない魔物だった。

 全身がプルプルというか、ドロドロというか……とにかく気持ち悪い。触れた周囲のものを溶かしてるし、異臭までする。

 ……何あれ?

 気味悪い魔物にドン引きしていると、不意にブローチに付けていた隠しマイクから、ノイズが聞こえた。



『あー、あー。こちらリリーカ。こちらリリーカ。ツグミ、聞こえるか?』

「あ、リリーカさんっ。よかった……アレ、なんですか? めっちゃ気持ち悪いし、なんか臭いんですけど」

『ロッテン・スライム。簡単に言うと、触った物を腐らせるスライムだが……かなりでかいな。こんな大きな個体は見たことがない』



 大きさとしては、六畳くらいの部屋が埋まりそうなくらいだ。確かに、めちゃめちゃでかい。



『気を付けろ、素手で触ると魔法少女でさえ危険だぞ』

「……倒す方法は?」

『溶けない武器。もしくは遠距離の攻撃だ』



 そりゃ的確なアドバイスをどうも。

 溶けない武器? んなもんあるわけないだろう。遠距離の攻撃だって、俺の技を使うと山ごと消し飛んじまう。

 まずいな……まさかこんな所で天敵に出会うとは思ってもみなかった。

 ひたいに汗を感じつつ、遠方から様子を窺う。

 他の魔法少女たちに任せるべきか? でもロッテン・スライムは、周りのものを腐らせながらかなりのスピードで貴船神社の方に向かっている。避難指示が出されているとは言え、このままじゃ時間の問題だ。



「チッ、やるしかないか……!」



 苛立ちと不安を追いやり、奴の前に躍り出る。

 だけどロッテン・スライムは止まらず、周囲を飲み込みながら近づいて来た。



『ツグミ、スライム系の魔物の弱点は、体の中心にある核よ。そこを破壊すれば倒せるわ』

「了解」



 ビリュウさんのアドバイスを元に、ロッテン・スライムを注視する。

 核……あれか。拳ほどの大きさで、表面に血管のようなものが浮いている。あれを破壊できれば……!

 拳にピンク色のオーラを纏わせる。直接触れるよりはマシだろう。

 その時、敵意を感じたのかスライムの表面が波打ち……超高速で、数本の槍となって迫って来た……!



「うおっ!?」



 横に跳び、辛うじて回避。槍によって貫かれた木々が腐り、数秒も経たないうちに倒れた。



『スライムは変幻自在だ。気をつけろ』



 とリリーカさん。それ早く言ってくれませんかね!?

 クソッ。そうなると、距離を取って時間を稼ぐこともできないかっ。

 再びロッテン・スライムの表面が波打ち、また腐食の槍となって迫る。

 しゃがみ、飛び退き、バク宙を繰り返して避ける。その間も、ロッテン・スライムは進行を止めない。

 攻撃の際は体が波打ち、攻撃中も進行は止まらない。となると、この攻撃を潜り抜けつつ核を破壊するしかないってことか。



「オーケー。やってやる……!」



 腐食の槍を掻い潜り、ロッテン・スライムに近付く。近付けば近付くほど弾幕が濃く、早くなり、指数関数的に増えて来た。

 と、今度は槍の表面に長い棘が生える。攻撃の表面積を増やしたか……!

 なるべく皮膚には触れないよう避け続ける。服はしょうがない。どうせあとでいくらでも直せる。

 反射、直感で全ての攻撃を避け続ける。リーファとキルリさんの攻撃に比べたらこんなもの、怖くもなんともない。

 あと2メートル。もう攻撃の射程圏に入った……!

 が、それは奴もわかっているらしく、体の表面を鋭利な棘で覆った。

 なるほど、防御モードか。単細胞生物(スライム)のくせに賢いじゃないか。

 けどな、そんなもんで俺の攻撃は止まらねーよ……!



「おおおおおおおッッッ!!」



 脚に力を溜め、オーラを纏わせ……爆発的に地面を蹴る。

 まだ脚にはロングブーツが残っている。そこにオーラを纏わせ、超高速で蹴りを叩きこめば……!

 表面積を小さくするよう足裏からロッテン・スライムに飛び込む。腐食の棘を破壊し、勢いをそのままに核諸共スライムの体を貫いた。



「■■■■■■■ッッッ……!!」



 砕かれた核から、おぞましい悲鳴が響く。

 けどこれで……!



『ツグミ!』

「ッ!?」



 リリーカさんの声で咄嗟にその場から離れる。

 俺がいた場所を腐食の槍が貫き、ドロドロに地面を腐らせた。

 見ると、さっきの半分くらいの大きさくらいにはなっているが、まだロッテン・スライムは蠢いていた。

 嘘だろッ、まだ生きてんのかよ……!?



『そうか、1体ではなかったんだ。奴は2体いたんだ!』

「チッ……!」



 腐食の槍、腐食の鞭、腐食の刃。とにかく無数の攻撃を俺に向けてくる。相方が殺され、俺を明確な敵認定したらしい。

 どうする、どうする、どうするっ。もうブーツも溶けてなくなっている。新しく衣装を作り出すための時間と余裕はないぞっ。

 眼前に迫る腐食の刃。くそっ、腕一本は覚悟しなきゃいけないか……!

 左手を前に突き出し、それを止めようとした……その時、青の閃光が瞬き、轟音と共に目の前に降り立った。



「Safe…!! 間に合ったデス……!」

「え……あっ、ライス……!」



 青い炎を見に纏い、軍服を着ているコメットが腐食の刃を霧散させた。



「Sorry. 迷子になってマシタ」

「いや、助かりました。ありが……待って。その両手の団子は何?」

「……………………美味しそうで、つい……」



 迷子になった挙句、買い食いしてんじゃねーよ!?

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