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クイーン・オブ・魔法少女 〜いや俺、男なんですが!?〜  作者: 赤金武蔵
第4章 異国の魔法少女

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105/126

第105話 For justice

 竹藪と灯篭に囲まれた石畳の通路を抜け、本館の玄関で靴を脱ぐ。

 和紙と木組みで作られた間接照明に照らされた廊下は、高級そうな雰囲気と共に歴史と物々しさを感じる。確かに龍安家もこんな感じだったな。

 生けられた花、飾られた掛け軸、陶器……なんと、鎧兜まである。旅館じゃなくて、美術館や展覧会って言われても信じちゃうくらい、数々の美術品が並んでいた。

 何回か角を曲がると、いきなり陽光に照らされた中庭が現れた。小川が流れ、木々と草花が生い茂っている。大自然のようで、下品じゃない。まさに京の都然とした中庭だ。



「Wow…おうちの中とは思えマセン……」

「わかる……」



 ここだけを切り抜いたら、森の中に迷い込んだと勘違いしそうだ。

 中庭を横目に、また少し薄暗い廊下を進む。入り口から結構奥まで進み、ようやく女将さんが立ち止まった。襖の上には、達筆な文字で『陽天の間』と書かれている。



「こちらが、ご用意させていただいたお部屋でございます」



 女将さんが襖を開けて、俺たちを中へ誘う。

 後ろからついて来ていたコメットが、少し俺の服を握った。こういう所、初めてで不安なんだろうな。俺も初めてで、どうしたらいいかわからないけど。



「お夕食は18時です。それまで、どうぞごゆるりと」

「あ、ありがとうございます」

「さ……Thanks」



 去っていく女将さんを見送り、なんとなくコメットと顔を見合わせる。



「あー……とりあえず、入ろうか」

「そ、そうデスネ」



 スリッパを脱いで板の間に上がり、客間へ入る。

 広い……広すぎる。客間だけで14畳くらいある。それだけじゃなくもう一部屋付いていて、そっちも同じくらい広い。

 広縁も各部屋に一つずつ。そこから見える景色は、さっきの中庭とは別の大自然だ。トイレも二つあり、室内温泉まで付いている。

 2人で泊まるには、余りにも広すぎる。しかもここ以外の部屋にも、お客さんは誰もいない。俺たちの貸し切り状態だ。

 嬉しいとか楽しもうとかの前に、申し訳なさが勝つな。



「Wow…すっっっっっっっごく広いデス!」



 コメットはそんなことを微塵も考えていないのか、荷物を置いて直ぐ畳に寝転んだ。さっきまで不安そうでしたよね、あなた。意外と豪胆なんだな。

 俺も荷物を置いて、広縁と中庭を繋ぐ窓を開ける。

 ここでも小川のせせらぎが聞こえる。陽光が照らす中庭は美しく輝き、木々に小鳥が止まっているのが見えた。

 広縁の椅子に座り、その様子をぼーっと見つめる。いいなぁ、自然は……癒される。



「ティナ、何をしてマスカ?」

「何もしてないよ、ただぼーっとしてるだけ」

「ぼーっと……?」

「ライスもそこに座って、中庭を見てたらわかりますよ」



 訝しげな顔をしているコメットも椅子に座り、中庭を見つめる。

 柔らかい陽光がじんわりと体を温める。女将さんが淹れてくれたお茶の香りを楽しみ、何も考えず外を見つめる。



「私たち、いつも忙しいですからね。こうして何もしない、ぼーっとする時間が……好きなんですよ」

「I see…なんとなく、わかる気がシマス。のんびりする時間、とてもいいデス」



 コメットの表情が段々ととろけて、のへ~っとした顔になる。心の底からとろけているみたいだ。

 いいなぁ……実にいい。もうこのまま一週間、何もしたくない。ここで好きなだけゴロゴロして、温泉に入って、お腹いっぱいご飯食べたい――



『緊急――京都市北部に魔物の出現を感知』



 ……なーんて思うと、魔物が現れるの止めてもらえません? 平和破壊ジンクスというかフラグというか……さっき着いたばかりなんだから、もっとゆっくりさせてくれよ。

 コメットもモモチの声を感じたのか、がばっと立ち上がり一瞬で軍服姿に変わった。



「ティナ、魔物デス! 行きマスヨっ、|正義のために《For justice》!!」

「あっ、ライス!」



 止めるも、一瞬で中庭に出て飛び立ってしまった。

 あーもうっ、せっかちなんだから……!

 部屋に書置きを残し、俺も中庭から外に飛び出る。あんなせっかちに飛んで行ったけど、あの子どっちが北とかわかるのか……?






 5分後。俺、現着。

 案の定、コメットはいなかった。



「…………」



 あいつ、迷子になりやがった……!!

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