第100話 腹の内
コメットの纏っていた青い炎が消える。たったそれだけで、周囲を威圧していた雰囲気が霧散した。全身を圧迫していた感じが消え、少しだけ気が緩む。
それが間違いだった。
「Wow……やっぱりものすごーく美人さんデスネ」
「ッ──!?」
顔、近っ。え、いつ近付かれた……!?
余りの速さに、他の誰も反応できていない。比較的近くにいたリリーカさんまでも、反応が遅れていた。
お……落ち着け、まず状況整理だ。
バレないように気持ちを押さえ込み、コメットの目を真っ直ぐ見つめる
「あなたが、コメットさんですか?」
「Huh? ワタシ、知ってマスカ?」
「ええ、有名人ですから」
嘘です、つい最近まで全く知りませんでした。てへ。
爽やかスマイルの裏で舌を出していると、いつの間にか傍にリリーカさんとビリュウさん&バハムートがいた。
目が「ちゃんと警戒しろ」と言っている気がする。大丈夫です。俺だってそれくらいはしています。
「ワタシもあなた、知ってマス。Magic girl TSUGUMI……本国でも有名人デス」
「外国にまで知られているというのは、とても光栄なことですね」
確かに、俺がチラッと映っているMTuberの配信コメントを見ると、外国語もこれでもかってくらい飛び交っている。嬉しさ半分、恥ずかしさ半分だ。
さて……どう話を切り出すべきか。なぜ日本に来たのか。なぜインターネットの情報をこれでもかと削除しているのか。何かやましいことがあるのか……聞きたいことは山のようにある。
けど、裏があると決めつけて話したら、問題あるような気がする。下手したら国際問題とか……ならない、よな……?
どうしたらいいか迷っていると、ビリュウさんが俺の肩に手を置いた。
「ここは私に任せて」
「……お願いします」
俺に外交は無理だ。元支部長で経験も長いビリュウさんにお願いするしかない。
ビリュウさんがコメットの前に立つと、ビリュウさんとバハムートを交互に見る。
「Magic girl BIRYU……確か、ツグミの奥さんデスネ?」
「ツグミ、この子いい子よ」
あんた使えねーな!?
頭を抱えて、とにかくビリュウさんを下がらせた。これならまだ俺の方がバイアスをかけずに話せるわ。
が……一瞬、動きを止めた。
待て、どうしてそのことを知っている? ビリュウさんの妄言は、日本の魔法少女の中でも極一部にしか知られていないことだぞ。それをなんでコメットが……異国の魔法少女が知ってるんだ?
俺の疑問を察知したのか、コメットは隠すことなく答えた。
「ワタシの祖国、Statesの情報網はすごいデス。世界中のあらゆるMagic girlの情報、集めてマス」
「それは、私のこともですか?」
「もちろんデス」
「……なんだか恥ずかしいですね」
コメットの真っ直ぐな目に、ポーカーフェイスが崩れそうになる。
世界中のあらゆる魔法少女の情報を集めている……それって、俺の正体もすでにバレてる……ってことか……?
いや、それはないか。俺が男だとバレていたら、ニュースはもちろんインターネットで騒がれているはずだし。だからそこはバレていない。……はずだ。
なら今はそのことに触れずに話すのが得策だろう。
「コメットさんは、どうして日本に? 魔法少女の渡航は、厳しく制限されているはずですが」
「ワタシ、未来のStatesを担っていマス。しかしワタシ、生まれてから祖国しか知らないデス。そこで上官に相談し、見聞を広げる為にJapanに来まシタ」
ふむ……当たり障りのない答えというか、特に問題はなさそうというか。
じゃあ、さっき俺を見て「見つけた」って言うのは一体……?
「ワタシからも一つ、いいデスカ?」
「っ。な、なんでしょう?」
「ツグミ、どうしてワタシ見て『見つけた』言いました? ワタシ、捜していまシタ?」
どうやらコメットも同じことを思ったらしい。
ここで本当のことを言うのはバカのすることだろう。
「とある情報から、海外の魔法少女が入国しているということを聞いたんです。私も海外の魔法少女は知らないですから、お話をしてみたくて」
「Woohoo! もちろんデス! ワタシ、ツグミともっとお話したいデス!」
いきなり手を握り、ずずいっと顔を近付けて来た。ちょ、近い、近いっ。初めて外国人と接するけど、こんなにフレンドリーにパーソナルスペースに入り込んで来るの……!?
その時。コメットの付けているスマートウォッチから電子音が聞こえて来た。
「Oh…スミマセン、上官への定期連絡の時間デス。また後日、お話できマスカ?」
「はい、もちろんです。では明日の16時に、東京タワーの上に来てください。待ってますから」
「OK.See you!」
と、そのまま顔を近付け……チュ。頬に、キスをされた。
まさかの異国流スキンシップ。当然硬直する俺。
コメットはそんな俺を置いて、どこかに向かって飛んで行ってしまった。
腹の内を見せないのはお互い様だけど……なんか、立場的にすでにマウントを取られたような……気のせいであってくれ。
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