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第6話 〜美しい景色は疲れを忘れさせてくれるよねっていう話〜

今回少し長めですかね…?

ここからもっと物語が動いていきます。


お楽しみに!

 朝、目が覚めると小紅はいなくなっていた。


「んーーー…?…寝落ちしちまったかな…」


 昨日の夜、夢中になって俺の話を聞く小紅。話しているうちに俺は座卓に突っ伏すようにして眠ってしまっていたようだ。


「あ゛ー…今何時だ…」


 外はもうすっかり明るい。少し冷ややかな空気から予測するに、6時を過ぎたところ、と言った感じか?


 固まってしまった身体を解すように、んーっ!と伸びをする。


 そしたら、肩から何かがハラリと落ちた。


「…毛布…」


 どうやら薄手の毛布を、風邪を引かないようにという配慮からだろうか。


 俺の肩に掛けてから出ていったらしい。


 机の上を見やると、1枚の紙。


 そこには。


『まだまだ聞き足りないけど今日はここまでね。おやすみ。また聞かせなさい。』


 丸っこい字で、そう書かれていた。


「……素直じゃないやつだな」


 紙を手に取り、苦笑いが口から漏れる。


「…裏になんか書いてあるな?」


 気づいて裏返す。


『こんどつくれ』


 そんな走り書き。


 ………………はいはい。


 全く、素直じゃない鬼だ。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「ゼェ……ハァ……」


「ちょっと下僕!おっそいわよアンタ!!」


 いや、何でや。いい話で終わるとこやろそこは。


「お前とっ…!一緒にすんなっ…!」


 数時間後、俺は山を登っていた。


 一応申し訳程度の登山道があったが、最低限の手入れしかされていないのか、足場が悪い。


 こちとらちょっと前までインドア派だ。一緒にしないで貰いたい。


「はぁ!?アンタがだらしないだけでしょ!?私が異常みたいな言い方やめてくんない!?投げるわよ!!」


 ガルルルッ!!


 牙を剥き唸る小紅。


 その姿はまさに鬼そのもの。


 ってそれをこんな山道でそれをやったら死ぬっつーの…!!


 抗議したくても漏れてくるのは荒くなった吐息のみ。


「ってか…!なんでっ…登山っ!」


 その辺で拾った手頃な木の棒を杖にして、体重を預けながらそう吐く。


「あー?あー、ちょっと見せたいものがあんのよ!」


 ぷいっ!っとそっぽを向く鬼。


 あーはいはいそうですかっ…。


「あともう少し!ほらペース上げて!!」


 鬼が10メートル先でそう叫ぶ。


 んな事言ったって、もうかれこれ3時間は歩き通しだ。これ以上ペースを上げられるわけも無い。


 背負った鞄はそんなに重くないはずなのだが、ズシリとのしかかるような錯覚を覚える。


 グダグダになりながら歩く俺を見かねたのか、溜息をつきながらこちらへと戻ってきた。


「全く、手のかかる下僕なんだから!」


 突然、肩に担ぎ上げられる。


「えっ、ちょっと何を」


「喋ると舌噛むわよ」


 ドッッッッギュンッ!!!!!!!!!


 景色が加速すると同時に


 俺は舌を思い切り噛んだ。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「ほら着いたわよ」


 ………………………………………


「…あれ?もしもーし」


 …………………………………………………………………


「フンっ!!!!!!!!!」


「ゴベァッ!!!!!!!!」


 気づけば開けた場所に来ていた。


 どうやら気を失っていたらしい。


「舌噛んだ…っていうか胸の当たりがスゲー痛いんだけど…」


 この鬼娘、相当荒く俺を運び起こしたことはこの痛みで何となく察することが出来た。


「別に?気絶するアンタが悪いでしょ?」


 こっんの鬼……!!!!!!!


 すました顔で言いやがって…!!!!


「でも、気絶したあんたの顔、ちょっと面白かったわ」


 フフッと笑う小紅の表情はまさに花が咲いたようだった。


 だがこの笑顔に騙されちゃいけない。やってる事は正真正銘鬼なのだから。


 言ってることは人でなし…いやそもそも人じゃないからこれは正しいのだろうか。


 疲労感で身体が重い。未だに抱えられてるのだがそれでも重い。


 軽くユサユサと俺の身体が小刻みに揺れる。


 小紅を見やると、肩を揺らして笑っているようだ。


「にしても…フフッ…ゴベァッ…フフフッ…」


 ああぁああああほんっっっっっっとに可愛くねぇ!!!!


「あーもういいだろ!着いたんなら下ろしてくれ!」


 軽く羞恥心で死にそうな俺は小紅の肩でジタバタすると、彼女はすんなりと俺を下ろした。


「はいはい……。ほら、見て!」


 小紅が指さしたその先を追うと、俺は息を飲んだ。


 絶景というのは、こういうものを言うのかもしれない。


 高い山の断崖絶壁。眼下に広がる風景と、果てしない空。


 遠くに見える集落。


 小さく見える中に一際大きい家は吾郎爺の屋敷だ。


 その周囲に広がる田園と、ぽつりぽつりと点在する家。


 青く澄んだ空。初夏のそれは掴めそうだが、遥かに遠く─────。


「………………綺麗だ」


「でしょ」


 ビュウ、と、一筋の風が通り抜ける。


 涼やかなその風は、身体にのしかかる疲れを忘れさせた。


「さあ下僕、荷物降ろしてよ。お弁当出して?」


 言われるがままに、背負っていた鞄を降ろし中身を取り出す。


 水筒に、ふたつの包み。


 昔話に出てくるような、経木という木の紙に包まれたおにぎりだ。


 景色を見ながら、冷えたお茶と大きめのおにぎりが3つ。


 右から、ノリの巻いてない塩むすび、梅干し、おかかだ。


 手を合わせて、塩むすびから1口頬張ってみる。


 うまい。


 景色と相まって、最高だ。


「さすが吾郎爺!おにぎり1つ取っても最高よねぇ!」


 そう言う小紅に激しく同意する。


 最高だ。


 濃いめの味付けが、身心に沁みるようだった。


 穏やかな時間が流れていく。


 2人で地面に腰を下ろし、静かに、景色と食事を楽しんだ。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「さてと!帰りますか!!」


 その言葉にげんなりする。


 景色も食事も最高だった。がしかし、またあの道を行かなきゃならないってことを考えると否が応でも脱力するってもんだ。


 また抱えられて全力疾走されても困る。


 いやまじで困る。


 走るタイプの絶叫マシンなんてもう二度とゴメンだ。


「…アンタ、なんか勘違いしてない?」


 …は?


 むんずっ。


 腰の当たりを鷲掴みにされる。


「よぉいっっっしょお!!!!!!」


 そして崖の下へ





 投 げ 込 ま れ た!!!!!!!!





「ッッッッッあぁあああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


 しっしっ、死ぬっ!何考えっ!!あの鬼ッ!!!!!!!!!!


 落下しながら絶叫する。


 その時、ふわりと柔らかな感触が俺を包んだ。


「これが一番早いのよね〜!」


 小紅が俺の事を空中でお姫様抱っこしていた。


「おっ、おっ、おまおまおまおまっ!!」


 小紅の顔を見ながら叫ぶ。


「あっはははは!!面白いっ!!すごく面白いよマコト!!でも!」


 また舌噛んじゃうよ!


 そう言う小紅が本物の悪魔に見えた。


 いや鬼なんだけど。


 いやもうほんとに


 やめてください


 しんでしまいます


 ━━━━━━━続く━━━━━━━━

ここまでお読み下さりありがとうございました!!


これからも宜しければお読みくださると幸いです(((o(*゜▽゜*)o)))

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