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第5話 いじりも行き過ぎると怒りを買う

 そんなこんなで熊は美味かった。


「この頃小紅の表情がとても柔らかくなりましたわい」


 ほっほっほ、と朗らかに笑う吾郎爺。


「ぶっ飛べぇッ!!!!!!」


 吠える小紅。


「うぉぁああ゛あ゛あ゛!!!!!!!」


 宙を舞う俺。


 パァンッパパッパパパパパパパパパンッッッ!!!!!


 水面に幾度も跳ねるように叩きつけられ、着水。


「よっし!!新記録!!」


 水切りがしたいと言ったらこれだ。


 夏になりかけとはいえ水は冷たい。


 泳ぐつもりはないから、とそのままの格好で来たが…………………



 小紅は水切りが壊滅的に下手だった。



 それを熊狩りの時のおかえしとばかりにやりかえしたらコレだ。

 

 さすがに、


「おっやおやぁ?小紅ちゃんともあろうお方が!水切りすら!!まともに出来ない!?これはこれはお見逸れしました!!プークスクス!!!!!」


 は、言いすぎた。


 調子に乗って10連とかやってドヤ顔して見せたのも不味かった。


 左肩をむんずと掴まれたと思ったら宙を舞っていた。


 結果はご覧の通り。浅い川なら真っ赤なもみじおろしが水面に浮かんでいたことだろう。


 水質汚染も甚だしいかぎりだ。


「12連続!私の勝ち!!どうして負けたか明日までに考えてくる事ね!!」


 懐かしいネタだなおい…。


 ツッコむ気力もなくフラフラになりながら水面から這い出た俺をしたり顔で見下ろす小紅。


 まさに鬼の所行。その辺の怖いもの知らずでも裸足で逃げ出すだろう。


「いや…やりすぎ…いってぇ…もげる…」


 そうこぼした俺に


「なに?もう1回やる?」


 平気な顔してそう言い放つ小紅が心底恐ろしく感じられた。


「やめてくださいしんでしまいます」


 それを聞いた小紅はムフーッ、と笑う。


 …………その姿は悔しいが可愛らしかった。

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 夜。


「まさか数日間でこんなに死にかけるとは」


「それは申し訳ありませんなぁ…」


「いやいや、吾郎爺は悪くない」


 あれから数日経ち、数々の死線をくぐり抜けてきた俺。


 吾郎爺とも打ち解けてきた。


 しかし、小紅の世話係のようなものと言え傍から見たら居候。


 そんな俺は吾郎爺の作業を手伝っていたりする。


 小紅とはと言えば、川で魚を取ろうと言えば投げ込まれ、鳥を取ろうと言えば空に投げ飛ばされ、焚き火をしようといえば投げ込まれかけ、風呂に入ろうとすれば投げ込まれ、薪を割ろうと言えば俺が割られかけ…


 あれ?俺死んでね?


 そう思ったことが何度あったか。


 もはや生きていることが不思議なくらいだ。


「最近の小紅は、生気を取り戻したようでワシとしては嬉しい限りですわい」


 ………………ん?


 そうボソリと呟いた吾郎爺の言葉に引っ掛かりを覚えた。


 生気を?取り戻した?


「吾郎爺、それって」


 疑問を口にしようとしたその時。


「下僕ーーーー!!!!!!!!」


 ズザァッ!と現れた小紅によって話が中断された。


「下僕!こっち来なさい!!」


 首根っこを力強く掴まれ、グエッと声を上げてしまう。


 反射で軽く抵抗するがビクともしない。


「ちょ、まだ吾郎爺の手伝いがっ」


「ほっほっほ、大丈夫大丈夫。もうそろそろ終わりますからなぁ。ごゆっくり〜」


 この状態でごゆっくり出来ると思ってんのかこの爺さんっ!!!!


「ほらほらちゃっちゃと来る!」


 ちょ、ま、力強っ!!


 ほっほっほ、そう穏やかに笑う吾郎爺の声を後目に俺は小紅に連行されていくのだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「…で、なんの用ですかね?」


 俺の部屋にて、畳の上に向かい合って座っている小紅に少しムッとした態度でそう問いかける。


「何よその態度。また投げられたいの?」


 満面の笑みを浮かべながら指をパキパキと鳴らす小紅。


 ほんっと、黙ってたらめちゃくちゃ美少女だと言うのにこいつと来たら……。


「まぁいいわ。今日はね?」


 対面にちょこんと座る小紅は


「んーと、ね?アンタが、前に住んでたとこの話!」


 ……はあ、なるほど。


 つまりは、ここじゃないとこの話が聞きたいと。


「ここ、テレビ無いし、私、すまほ?って言うの持ってないから…。」


 モジモジ


「だから、ちょっと癪だけど!」


 モジモジ


「アンタから話させてやるって言ってんの!」


 そう吠えるように言う小紅。


 ………………えーっと………………


「いや、別にいいんだけど…」


 調子狂うなぁ…。


「何、なんか文句あんの」


 静かにそう言いながら、ギリィッ!!っと牙を剥いて眼光が鋭くなる。


 そうそうこれこれ。この感じ。たまんねぇなぁおい。ゾクゾクするなぁ。


 死の気配を感じちゃうぜ。


「いやいやないない。そんなことないって。ただちょっと意外だなーってさ。

 いつもはだいたい投げ飛ばされてるし」


「別に意外とか、失礼ね。

 …私だって興味あるわ。ここ以外の場所のこと。」


 それもそうか。


 彼女は生まれてこの方ここしか知らない。関わってきた人も、吾郎爺くらいのもんだし、何より忘れがちだが年頃の女の子なのだ。


「…よし、わかった。何から話そうかな…」


 とはいえ、俺も至って普通の人生を送ってきた。話題に困るものがある。


 しかし


「美味しいもののはなしがいい!!」


 目をキラキラ輝かせながらそういう彼女は、年相応の少女のようで。


 少々呆れながら俺は話し出した。


「そうだな、ならまずは───」


 こんな日も、たまにはいいだろう。


 ━━━━━━━続く━━━━━━━━

ここまでお読み下さりありがとうございました!

宜しければまた来てくださいお願いします!!

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